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9.令嬢が婚約者から王太子妃になりまして
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常にヴィクトーリア様と行動を共にしている私だけど、部屋を一歩出れば黙って付き従っているだけである。こんな地味な立ち位置で、更に部屋付きですらなかったはずなのになんで母は男爵に手を出されてしまったのだろう。確かに母も顔はとてもかわいいけど。
私はヴィクトーリア様付きの侍女だからヴィクトーリア様の目の届く位置にいるが、部屋付の侍女であれば目立たないように部屋の隅に控えているのが普通だ。部屋付きでもなければまず主人の目の届かないところにいるのが普通だし、窓拭きなどしている時に主人がそこを通りかかったら、邪魔にならないところに控え主人を見ないようにしなければならない。それでも母のようにお手付きされたりするんだからやってられない。まぁどう考えたって強姦だよね。こっちの世界じゃ主人にそうされたところで訴える先もないけどさ。
ヴィクトーリア様から離れるなっていうのは言ってしまえばそういうことなのだ。王太子は本当に諦めが悪く、どうにかして私と二人きりになろうとしているらしい。そんなことをしたら強制的に妾にされてしまうではないか。あまりの恐ろしさに私は身を震わせた。
もうトイレ以外は一人になれることもなく、プライバシーどこいったと遠い目をする生活をして約二か月が経った。
本日、ヴィクトーリア様は王太子に嫁がれ王太子妃になられます。
衣裳や髪形など、仕度を整えていく。私にはもうヴィクトーリア様の幻術は効かないのだけど、美青年はドレスを着ても美しい。本当に綺麗な人はどんな格好をしても綺麗なのだということを学んだ。
「ローゼ、一年だ」
「はい」
「一年耐えれば私はお役御免になるだろう。そうしたら二枚目のお札の願いも叶えてやる」
「はい、どうかよろしくお願いします」
ヴィクトーリア様は律儀にも私の願いを叶えてくれようとしている。二枚目のお札の願いって、確か”穏やかに暮らしていきたい”だったような気がする。王太子の魔の手から守ってくれるだけでもありがたいのに、穏やかな暮らしまで保証してくれようとするなんて。ヴィクトーリア様には感謝しても感謝しきれない。
あれ? でもヴィクトーリア様が私にそうするメリットってなんだろう?
今になって私はそのことに気づいた。いくらヴィクトーリア様が気に入ったとしてもこの待遇は破格だと思う。
まさかヴィクトーリア様ってば、私に恋しちゃった?
ってそんなわけないよねー。いくら前世が同じ世界だったからって、あんな美しい人が私なんかに恋するわけはない。だいたい毎晩一緒にお風呂に入ってるけど手を出される気配なんか一欠片もなかったわっ。どーせ私はちんくしゃですよーだ。(死語)
いいかげんやめよう。そろそろ結婚式だ。
結婚式は王と教会関係者の前で行われ、その後パレードがある。その間私のいる場所がないということで、公爵夫人がわざわざ迎えにきてくれた。
「お母様、どうぞローゼをよろしくお願いします」
「ええ、ええ、任されたわ。娘ができたみたいで嬉しいわね」
公爵夫人には私の母の面倒も見ていただいてる。私は深々と頭を下げた。侍女風情が公爵夫人に声をかけるなどおこがましい。私はできるだけ目立たないように無言で控えるのみである。
「ローゼリンデ嬢、いらっしゃい。部屋であの子の話を聞かせてね」
公爵夫人自ら手を取られて、私は公爵家専用の部屋に連れて行かれた。なんて恐れ多い。
「結婚式を見ることはできないし、パレードも見られないけど我慢してね。ローゼリンデ嬢、貴女はヴィクトーリア付きの侍女だけれども、今だけは男爵令嬢に戻っていただけるかしら?」
「はい、ありがとうございます。プランタ公爵夫人」
どうしても口をきかないといけないようだ。
「ローゼリンデ嬢は、あの子の正体は知っているのよね?」
「な、なんのことでしょうか……?」
動揺してしまった。いけないいけない。
公爵夫人はふふふと笑った。
「それならいいわ。あの子をどうかお願いね」
「? はい」
なんだかよくわからなかったが、公爵夫人はなにかに納得されたようだった。元より、ヴィクトーリア様が王太子と無事離縁するまでは付き合うつもりである。
あれ? でもなんか大切なことを忘れている気がする……。
なんだっただろうと思ったのだが、それがわかったのは式もパレードも終わり、ヴィクトーリア様の背中を流していた時のことだった。
この方男性なわけだけど、初夜ってどうするつもりなんだろう?
私はヴィクトーリア様付きの侍女だからヴィクトーリア様の目の届く位置にいるが、部屋付の侍女であれば目立たないように部屋の隅に控えているのが普通だ。部屋付きでもなければまず主人の目の届かないところにいるのが普通だし、窓拭きなどしている時に主人がそこを通りかかったら、邪魔にならないところに控え主人を見ないようにしなければならない。それでも母のようにお手付きされたりするんだからやってられない。まぁどう考えたって強姦だよね。こっちの世界じゃ主人にそうされたところで訴える先もないけどさ。
ヴィクトーリア様から離れるなっていうのは言ってしまえばそういうことなのだ。王太子は本当に諦めが悪く、どうにかして私と二人きりになろうとしているらしい。そんなことをしたら強制的に妾にされてしまうではないか。あまりの恐ろしさに私は身を震わせた。
もうトイレ以外は一人になれることもなく、プライバシーどこいったと遠い目をする生活をして約二か月が経った。
本日、ヴィクトーリア様は王太子に嫁がれ王太子妃になられます。
衣裳や髪形など、仕度を整えていく。私にはもうヴィクトーリア様の幻術は効かないのだけど、美青年はドレスを着ても美しい。本当に綺麗な人はどんな格好をしても綺麗なのだということを学んだ。
「ローゼ、一年だ」
「はい」
「一年耐えれば私はお役御免になるだろう。そうしたら二枚目のお札の願いも叶えてやる」
「はい、どうかよろしくお願いします」
ヴィクトーリア様は律儀にも私の願いを叶えてくれようとしている。二枚目のお札の願いって、確か”穏やかに暮らしていきたい”だったような気がする。王太子の魔の手から守ってくれるだけでもありがたいのに、穏やかな暮らしまで保証してくれようとするなんて。ヴィクトーリア様には感謝しても感謝しきれない。
あれ? でもヴィクトーリア様が私にそうするメリットってなんだろう?
今になって私はそのことに気づいた。いくらヴィクトーリア様が気に入ったとしてもこの待遇は破格だと思う。
まさかヴィクトーリア様ってば、私に恋しちゃった?
ってそんなわけないよねー。いくら前世が同じ世界だったからって、あんな美しい人が私なんかに恋するわけはない。だいたい毎晩一緒にお風呂に入ってるけど手を出される気配なんか一欠片もなかったわっ。どーせ私はちんくしゃですよーだ。(死語)
いいかげんやめよう。そろそろ結婚式だ。
結婚式は王と教会関係者の前で行われ、その後パレードがある。その間私のいる場所がないということで、公爵夫人がわざわざ迎えにきてくれた。
「お母様、どうぞローゼをよろしくお願いします」
「ええ、ええ、任されたわ。娘ができたみたいで嬉しいわね」
公爵夫人には私の母の面倒も見ていただいてる。私は深々と頭を下げた。侍女風情が公爵夫人に声をかけるなどおこがましい。私はできるだけ目立たないように無言で控えるのみである。
「ローゼリンデ嬢、いらっしゃい。部屋であの子の話を聞かせてね」
公爵夫人自ら手を取られて、私は公爵家専用の部屋に連れて行かれた。なんて恐れ多い。
「結婚式を見ることはできないし、パレードも見られないけど我慢してね。ローゼリンデ嬢、貴女はヴィクトーリア付きの侍女だけれども、今だけは男爵令嬢に戻っていただけるかしら?」
「はい、ありがとうございます。プランタ公爵夫人」
どうしても口をきかないといけないようだ。
「ローゼリンデ嬢は、あの子の正体は知っているのよね?」
「な、なんのことでしょうか……?」
動揺してしまった。いけないいけない。
公爵夫人はふふふと笑った。
「それならいいわ。あの子をどうかお願いね」
「? はい」
なんだかよくわからなかったが、公爵夫人はなにかに納得されたようだった。元より、ヴィクトーリア様が王太子と無事離縁するまでは付き合うつもりである。
あれ? でもなんか大切なことを忘れている気がする……。
なんだっただろうと思ったのだが、それがわかったのは式もパレードも終わり、ヴィクトーリア様の背中を流していた時のことだった。
この方男性なわけだけど、初夜ってどうするつもりなんだろう?
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