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「ソフィア様がいらっしゃいました」
 応接間の扉をマリアがノックする。
 すぐ男爵の「入るように」と返事があり、マリアが扉を開いてくれる。
「およびでしょうか、お父様」
 淑女の礼をとると、ソフィアは室内を見やった。応接間にいたのは男爵、男爵夫人とジャン。数人の騎士に護衛された20歳くらいの青年だ。黒髪に黒い瞳でりりしい顔立ちをしている。護衛されていることから身分の高いことは推測されるが、会ったことがないので誰かわからない。
 テーブルを挟んだ奥の椅子に青年が座っており、立ったままの騎士に囲まれている。入り口側の席には男爵夫人、男爵、ジャンと座っている。
 困って男爵の顔を見ると、
「ああ。ソフィアは社交界に出たことがないからお顔を存じ上げなくても仕方がない。クロード殿下だ」
「クロード殿下?!」
 顔はわからなくても名前はもちろん知っている。この国の第四王子だ。そんな方がなぜ急に男爵家に訪れたのだろう。疑問に思ったが、先程より丁寧に礼をとる。
「ご挨拶が遅れましてもうしわけありません。クロード殿下。長女のソフィアです」
「堅苦しい挨拶はいらぬ。顔をあげよ」
 口を開いたクロードは、自分の隣に座るよう指示する。戸惑いながら男爵の顔を見ると、軽くうなづいたので言われた通りにすることにする。貴族の端くれとはいっても地方の領地を治める男爵家の娘であるソフィアが王家の人間と謁見したことなど初めてだが、すくなくともクロードは寛容な人物なのだろう。
 騎士の一人がさっと椅子をひいてくれる。
「ありがとうございます」
 礼を言って座るが、クロードの訪問理由がさっぱり分からない。
「きゃっ」
 急に肩に手を回され、思わず声を上げてしまう。貴族といえど、親しくもない女性にいきなり触れるなどありえないことだ。
「何しろ私の妻になるのだからな。遠慮などいらぬ」
「……はい?」

 
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