3 / 74
3
しおりを挟む
ソフィアは思わず首を傾げたが多分気のせいだろう。きっと。いや絶対。
「迎えに来るのが遅くなってしまったな。場を整えるのに手間取ってしまった。
幼い頃から天使のようだったが、そのまま、いや、それ以上に美しく成長したな」
クロードは相変わらず肩を抱いたまま、無遠慮にソフィアの顔を覗きこむ。初対面のはずが、なぜソフィアの幼少期を知っているのだろうか。
「恐れながら殿下、お会いしたことがありましたでしょうか」
ふふ、とクロードが微笑む。
「そなたは幼かったから記憶になくても無理はない。十年前町で男爵とそなたに助けられたクロード、と言っても覚えはないか?」
「クロード!?」
思わず令嬢らしくない声を出し、慌てて口元を手で押さえる。敬称なしに名前を呼んでしまったことも謝罪する。
「気安くお呼びしてしまい、申し訳ありません、殿下」
年に一度の豊作祭の日、怪しい男に連れ去られそうになっているクロードを帰宅する途中の男爵とソフィアが助けたのだ。近くの別荘に滞在していて夜一人で抜け出したらしい。それからクロードが城に戻るまでの間監視の騎士つきで毎日数時間男爵家を訪れてはソフィアやジャンと遊んでくれ、兄のように慕ったものだ。
ソフィアの気に入りの髪飾りは最後の別れ際、泣きじゃくるソフィアに贈ってくれたものだ。ソフィアは代わりにハンカチを渡したが、そもそもの価値も違うし髪飾りはきれいに包まれた新品、ハンカチは洗っていたとは言え使用済みのもので、幼いころでなければ恥ずかしくて渡せなかっただろう。
確かに黒い髪と瞳はこの国では珍しいが、王家の人間と町でそうそう出くわすことはないので、同名だが幼い頃ともに過ごしたクロードと王子のクロードは別人だと思っていた。
王妃は東の国から嫁いできた黒い髪と瞳を持つ女性で、クロードは王妃似なのだが、遠い外国からやって来た女性か男性が他にもいてその人がクロードの両親のどちらかなのだと思っていた。
不敬に問われても仕方のないことだったが、クロードは一向に意に介した様子はない。
「私とそなたの間柄で気にすることはない。むしろ以前のような砕けた口調でかまわないくらいだ」
「いえ、殿下のお心がいかに広いとはいえ、そこまで甘えるわけにはまいりません」
幼い頃の知らなかったこととはいえ、クロードを呼び捨てにし、友人のような口調で話していたことをおぼろげながらも思いだし、めまいがしそうだ。クロードを保護したとき、王家の別荘に連絡したのは男爵だ。身分を知らなかったはずもあるまい。なぜ何も言わなかったのだろう。咎めるような視線を向けたソフィアに男爵は顔をそらし、苦笑したクロードがいさめる。
「父を責めるでない。私は末弟なものだから兄のようにソフィアとジャンが慕ってくれるのが嬉しくてな。身分を明かさないでくれるよう男爵に頼んだのだ」
クロードと男爵はその後も年に数回ほど、ソフィアとジャンには伏せて手紙のやり取りをしていたらしい。今日の訪問は突然だったそうだが。
「迎えに来るのが遅くなってしまったな。場を整えるのに手間取ってしまった。
幼い頃から天使のようだったが、そのまま、いや、それ以上に美しく成長したな」
クロードは相変わらず肩を抱いたまま、無遠慮にソフィアの顔を覗きこむ。初対面のはずが、なぜソフィアの幼少期を知っているのだろうか。
「恐れながら殿下、お会いしたことがありましたでしょうか」
ふふ、とクロードが微笑む。
「そなたは幼かったから記憶になくても無理はない。十年前町で男爵とそなたに助けられたクロード、と言っても覚えはないか?」
「クロード!?」
思わず令嬢らしくない声を出し、慌てて口元を手で押さえる。敬称なしに名前を呼んでしまったことも謝罪する。
「気安くお呼びしてしまい、申し訳ありません、殿下」
年に一度の豊作祭の日、怪しい男に連れ去られそうになっているクロードを帰宅する途中の男爵とソフィアが助けたのだ。近くの別荘に滞在していて夜一人で抜け出したらしい。それからクロードが城に戻るまでの間監視の騎士つきで毎日数時間男爵家を訪れてはソフィアやジャンと遊んでくれ、兄のように慕ったものだ。
ソフィアの気に入りの髪飾りは最後の別れ際、泣きじゃくるソフィアに贈ってくれたものだ。ソフィアは代わりにハンカチを渡したが、そもそもの価値も違うし髪飾りはきれいに包まれた新品、ハンカチは洗っていたとは言え使用済みのもので、幼いころでなければ恥ずかしくて渡せなかっただろう。
確かに黒い髪と瞳はこの国では珍しいが、王家の人間と町でそうそう出くわすことはないので、同名だが幼い頃ともに過ごしたクロードと王子のクロードは別人だと思っていた。
王妃は東の国から嫁いできた黒い髪と瞳を持つ女性で、クロードは王妃似なのだが、遠い外国からやって来た女性か男性が他にもいてその人がクロードの両親のどちらかなのだと思っていた。
不敬に問われても仕方のないことだったが、クロードは一向に意に介した様子はない。
「私とそなたの間柄で気にすることはない。むしろ以前のような砕けた口調でかまわないくらいだ」
「いえ、殿下のお心がいかに広いとはいえ、そこまで甘えるわけにはまいりません」
幼い頃の知らなかったこととはいえ、クロードを呼び捨てにし、友人のような口調で話していたことをおぼろげながらも思いだし、めまいがしそうだ。クロードを保護したとき、王家の別荘に連絡したのは男爵だ。身分を知らなかったはずもあるまい。なぜ何も言わなかったのだろう。咎めるような視線を向けたソフィアに男爵は顔をそらし、苦笑したクロードがいさめる。
「父を責めるでない。私は末弟なものだから兄のようにソフィアとジャンが慕ってくれるのが嬉しくてな。身分を明かさないでくれるよう男爵に頼んだのだ」
クロードと男爵はその後も年に数回ほど、ソフィアとジャンには伏せて手紙のやり取りをしていたらしい。今日の訪問は突然だったそうだが。
30
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる