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番外編 あなたとお花畑に 2
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朝食を食べ終えた頃、アナベルの要請した迎えの馬車が来たので、オレの一時間ほどの家出が終わった。
部屋でソファーに座って本を読んでいると、さっそくアーテルが顔を出した。
「ごめんね?」
「別に? もう怒ってねーし。でもシーズベルト様になってきてー」
「怒ってるじゃん」
勝手に部屋に入ってきたアーテルが、オレの髪に何かさす。
鼻をくすぐる、柔らかい薔薇の香り。
オレの髪にさしたのは薔薇らしい。
「なんでオレに薔薇をくれたんですか?」
怒っていたのも忘れて、オレはきょとんとした。
リディアなら分かる。女の子はたいてい花が好きなものだから。
だけどオレは男で、花の似合う美形でもない。
「オレがあげたいなーって。ほら、思った通り似合うよ。可愛い。許して?」
小首をかしげながらアーテルが、束になった薔薇を差し出してくる。
「うおっ」
ざっと五十本はあるだろうか。普通に花屋で買ったらいくらかかるんだろう、と思ってしまう庶民のオレ。
オレは薔薇の花弁に鼻を近づけた。
……いい匂い。
「……この薔薇、どうしたんですか?」
「庭で摘んできたー。アルバートが許してくれます様に、って一本一本お願いしながらね。庭師に『薔薇が欲しいなら私に言ってください。枝ぶりが乱れるので!』って、めっちゃ怒られたー」
へぇ。使用人に言いつければいいものを、アーテル自ら庭からとってきてくれたんだ。庭師のおっちゃんには悪いことをしたが。
あんなにひどい態度とってた、そんなオレと仲直りするために。シーズベルト様になれば、簡単にオレの機嫌直せるのに。
ふと、アーテルの指に目が留まった。
「……指」
オレが手を伸ばそうとすると、アーテルはさっと背中に手を隠した。
「ああ、朝食食べるときにナイフで切ったかな? 朝一人で食事するのは寂しかったよ。昼と夜はオレと一緒に食べようねー?」
テーブルマナー完璧なあんたがそんなへまするはずないだろ。ナイフの傷じゃないし。
オレは無理やりアーテルの手を掴んで、口づけた。指の傷に舌をはわせると、かすかに鉄の味がした。
「んっ。え? な、なに?」
普段こんなことをしないので、アーテルが驚いている。
この人の綺麗な指が、傷ついてしまった。
「オレも、意地張ってごめんなさい、アーテルさま」
しょんぼりして謝ると、アーテルはもちろん受け入れてくれた。
「うん。仲直りしようねー」
「まだあなたの時間があるなら、ピクニックに行きませんか? お弁当作って、野原で花かんむり作ったりして、遊ぶんです」
「なにそれー。前世で言う小学生や中学生のカップルみたいで最高にピュアピュアじゃん。お弁当はアルバートに作ってほしいなー」
にっこにっこでアーテルが同意する。
「ええー。難しいものは作れませんよ?」
オレがどんなにぞんざいな態度をとっても、アーテルは絶対に優しい。オレが怒っていたって、思いもよらない可愛いことをしてくるから、どうでもよくなる。
……だからオレはこの人が大好きなんだ。絶対に言わないけど。シーズベルト様の次くらいにだけど。
オレは自分の隣をポンポンと軽くたたいた。
「ここ。座ってください」
「? うん」
疑問符を頭上に浮かべながら、アーテルはオレに従った。
オレは手に持っていたものをテーブルにのせて、向かい合わせになるようにアーテルの膝に座った。
「はぁ? なにこれなにこれ! お兄さん手ぇだしていいの? いいよね、これ」
困惑を隠し切れないけれど、オレのシャツの裾から手を突っ込むアーテル。状況把握していないわりに手を出すのはえー。
普段こんなにオレが甘えること皆無だからな。シーズベルト様相手ならたまにあるけど。
「だーめ。今日はピュアピュアで遊ぶんです。だからキスまで。ね?」
大サービスでオレから軽いキスをする。軽いリップ音が部屋の中に響く。
もちろん舌は入れない。
「はぁぁ? 嘘でしょ? 何のサービスなの? 飼い始めた野良猫がようやく気まぐれになついたみたいな……。これ無理だよ、オレ。むしろ拷問なんだけど」
拷問ね。
アーテルに優しくしたい気分だったから、しただけなんだけどなー。
「じゃあサービスはおしまい。まず、あなたの手を消毒しましょう。で、薔薇いける花瓶探してきましょうね?」
「りょーかい。でー。ピクニックデートが終わったら、手ぇだしていいの?」
こいつ諦めねぇな。
粘りが凄い。
オレはぺろっと舌を出した。
「どうでしょうね? ピクニックが楽しかったら考えてもいいですよ」
ピクニックの後のことは、オレとアーテルの秘密だ。
★★★
アーテルにデレているレアなアルバート。いつもツンツンしているので、こんなに甘くなるなんてめったにない。
注意書きいるかなーと思ったんですが、ちょっとネタバレなので自重しました。
こんなにデレるなんて、アーテルの妄想かもしれない。シーズベルトに操を立てているアルバートの性格上なさそうだけど、アーテルとアルバートカップルが最近私の中で可愛い。
男同士でお花畑で遊んでるのすごく可愛いですよね。
部屋でソファーに座って本を読んでいると、さっそくアーテルが顔を出した。
「ごめんね?」
「別に? もう怒ってねーし。でもシーズベルト様になってきてー」
「怒ってるじゃん」
勝手に部屋に入ってきたアーテルが、オレの髪に何かさす。
鼻をくすぐる、柔らかい薔薇の香り。
オレの髪にさしたのは薔薇らしい。
「なんでオレに薔薇をくれたんですか?」
怒っていたのも忘れて、オレはきょとんとした。
リディアなら分かる。女の子はたいてい花が好きなものだから。
だけどオレは男で、花の似合う美形でもない。
「オレがあげたいなーって。ほら、思った通り似合うよ。可愛い。許して?」
小首をかしげながらアーテルが、束になった薔薇を差し出してくる。
「うおっ」
ざっと五十本はあるだろうか。普通に花屋で買ったらいくらかかるんだろう、と思ってしまう庶民のオレ。
オレは薔薇の花弁に鼻を近づけた。
……いい匂い。
「……この薔薇、どうしたんですか?」
「庭で摘んできたー。アルバートが許してくれます様に、って一本一本お願いしながらね。庭師に『薔薇が欲しいなら私に言ってください。枝ぶりが乱れるので!』って、めっちゃ怒られたー」
へぇ。使用人に言いつければいいものを、アーテル自ら庭からとってきてくれたんだ。庭師のおっちゃんには悪いことをしたが。
あんなにひどい態度とってた、そんなオレと仲直りするために。シーズベルト様になれば、簡単にオレの機嫌直せるのに。
ふと、アーテルの指に目が留まった。
「……指」
オレが手を伸ばそうとすると、アーテルはさっと背中に手を隠した。
「ああ、朝食食べるときにナイフで切ったかな? 朝一人で食事するのは寂しかったよ。昼と夜はオレと一緒に食べようねー?」
テーブルマナー完璧なあんたがそんなへまするはずないだろ。ナイフの傷じゃないし。
オレは無理やりアーテルの手を掴んで、口づけた。指の傷に舌をはわせると、かすかに鉄の味がした。
「んっ。え? な、なに?」
普段こんなことをしないので、アーテルが驚いている。
この人の綺麗な指が、傷ついてしまった。
「オレも、意地張ってごめんなさい、アーテルさま」
しょんぼりして謝ると、アーテルはもちろん受け入れてくれた。
「うん。仲直りしようねー」
「まだあなたの時間があるなら、ピクニックに行きませんか? お弁当作って、野原で花かんむり作ったりして、遊ぶんです」
「なにそれー。前世で言う小学生や中学生のカップルみたいで最高にピュアピュアじゃん。お弁当はアルバートに作ってほしいなー」
にっこにっこでアーテルが同意する。
「ええー。難しいものは作れませんよ?」
オレがどんなにぞんざいな態度をとっても、アーテルは絶対に優しい。オレが怒っていたって、思いもよらない可愛いことをしてくるから、どうでもよくなる。
……だからオレはこの人が大好きなんだ。絶対に言わないけど。シーズベルト様の次くらいにだけど。
オレは自分の隣をポンポンと軽くたたいた。
「ここ。座ってください」
「? うん」
疑問符を頭上に浮かべながら、アーテルはオレに従った。
オレは手に持っていたものをテーブルにのせて、向かい合わせになるようにアーテルの膝に座った。
「はぁ? なにこれなにこれ! お兄さん手ぇだしていいの? いいよね、これ」
困惑を隠し切れないけれど、オレのシャツの裾から手を突っ込むアーテル。状況把握していないわりに手を出すのはえー。
普段こんなにオレが甘えること皆無だからな。シーズベルト様相手ならたまにあるけど。
「だーめ。今日はピュアピュアで遊ぶんです。だからキスまで。ね?」
大サービスでオレから軽いキスをする。軽いリップ音が部屋の中に響く。
もちろん舌は入れない。
「はぁぁ? 嘘でしょ? 何のサービスなの? 飼い始めた野良猫がようやく気まぐれになついたみたいな……。これ無理だよ、オレ。むしろ拷問なんだけど」
拷問ね。
アーテルに優しくしたい気分だったから、しただけなんだけどなー。
「じゃあサービスはおしまい。まず、あなたの手を消毒しましょう。で、薔薇いける花瓶探してきましょうね?」
「りょーかい。でー。ピクニックデートが終わったら、手ぇだしていいの?」
こいつ諦めねぇな。
粘りが凄い。
オレはぺろっと舌を出した。
「どうでしょうね? ピクニックが楽しかったら考えてもいいですよ」
ピクニックの後のことは、オレとアーテルの秘密だ。
★★★
アーテルにデレているレアなアルバート。いつもツンツンしているので、こんなに甘くなるなんてめったにない。
注意書きいるかなーと思ったんですが、ちょっとネタバレなので自重しました。
こんなにデレるなんて、アーテルの妄想かもしれない。シーズベルトに操を立てているアルバートの性格上なさそうだけど、アーテルとアルバートカップルが最近私の中で可愛い。
男同士でお花畑で遊んでるのすごく可愛いですよね。
応援ありがとうございます!
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