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ドミニクと彼の可愛い幼なじみ2
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エミリエンヌは、朝突然ドミニクの屋敷にやってきた。もちろん約束などしていない。
勝手知ったる他人の家で、ノックもなしにドミニクの私室に入ると、眠っているドミニクの上に馬乗りになってきた。
「……うっ」
衝撃に呻きながら目を開けると、エミリエンヌが可愛らしい顔をにっこりした。
「早く起きて私とマルス公国の街に行こ?今日から限定品が入荷したんだー」
「はぁ?
あのな、だから急に出かけようとか言ってくるのやめろ。オレ、今日は仕入れに行く予定だし」
ドミニクは起き上がると同時にエミリエンヌを抱き上げて、ベッドの端に座らせた。
貴族令嬢として、男の部屋に一人で入り、眠っている男の上に馬乗りになるなどどうかしている。こんなことをされるのは初めてではないし、注意してもやめないのでもう諦めたが。
きっとエミリエンヌにとって、ドミニクは男と見ていないのだろう。金払いのいい舎弟くらいにしか思われていない。
エミリエンヌは口をとがらせて、ベッドに腰かけた足をぶらぶらさせると、ウェーブのかかった茶色の髪をくるくると指でもてあそんだ。
「だってぇー、お父様が一人で国外の外出はだめって言うんだもの」
「お前ならいくらでもいるだろ?一緒に行ってくれるやつ」
性格も悪いし、金遣いも荒いが、エミリエンヌをちやほやしてくれる貴族の子息は大勢いる。何しろ顔が可愛いから。
ドミニクの言葉に、エミリエンヌは形のよい眉を顰めた。
「あいつらやだ。『こんなに買ってあげたんだから、キスくらいいいよね?』とか言って暗がりに連れ込もうとするし、すぐ触ろうとしてくるし」
「あー……」
エミリエンヌの金遣いは本当に荒いので、見返りにキスの一つや二つくらいもらいたい気持ちは男として分かる。
(むしろ、エミリエンヌの方から『キスしてあげるからこれ買って』とか言いそうな気がしてたな)
「好きな人としかしたくない」という信念でもあるのだろうか。だとすれば意外と可愛い気がする。
「オレもそういうことしたら、どうするんだよ」
もちろんする気はないが、ドミニクと言えどあまり男を信用するなよ、と脅しも込めて言ってみる。
「ドミニクが?」
エミリエンヌが顔をあげて、大きな目を瞬かせた。
すぐにくすくす笑い出す。
「あり得ない。だってドミニク、ヘタレだもんね。そんな甲斐性あったら、ヴィーと結婚してるわよ」
前言撤回。
やっぱり可愛くない。
「ね、ね?
仕入れってどうせ、マルス公国に行くんでしょ?
私もヴィーに会いたいしおねがーい」
両手を合わせてねだるエミリエンヌは、中身が悪魔だと分かっているドミニクですらやっぱり可愛いと思う。
エミリエンヌは最後に、殺し文句を言った。
「私、ヴィー以外だったら、ドミニクと一緒にいるのが一番楽しいんだもん。
ドミニクのセンスいいから、買い物して失敗ないし」
「だから、ね?」とまたもエミリエンヌは小首を傾げる。
(……こいつ、どういうつもりで言ってんだよ。オレ以外だったら勘違いするぞ、それ)
「あー、ったく!」
ドミニクは頭をわしゃわしゃかきむしると、ベッドから降りた。
「先、食堂行ってろ。どうせ早く家出たからうちで食べていくつもりだったんだろ」
「やったー!
だからドミニクって好きっ」
破顔して軽やかに部屋から出ていくエミリエンヌは可愛らしかった。
これからどんなに悲惨な未来が待っていようが、こんなに可愛い子から「好き」と言われればそれでいいじゃないか、と思わされるくらいには。
まぁ、エミリエンヌにとって、犬や猫を「好き」と言っているのと同じだと思うが。
「あー、オレも大概甘いな……」
夜着をぬぎながら、ドミニクは独り言ちた。
勝手知ったる他人の家で、ノックもなしにドミニクの私室に入ると、眠っているドミニクの上に馬乗りになってきた。
「……うっ」
衝撃に呻きながら目を開けると、エミリエンヌが可愛らしい顔をにっこりした。
「早く起きて私とマルス公国の街に行こ?今日から限定品が入荷したんだー」
「はぁ?
あのな、だから急に出かけようとか言ってくるのやめろ。オレ、今日は仕入れに行く予定だし」
ドミニクは起き上がると同時にエミリエンヌを抱き上げて、ベッドの端に座らせた。
貴族令嬢として、男の部屋に一人で入り、眠っている男の上に馬乗りになるなどどうかしている。こんなことをされるのは初めてではないし、注意してもやめないのでもう諦めたが。
きっとエミリエンヌにとって、ドミニクは男と見ていないのだろう。金払いのいい舎弟くらいにしか思われていない。
エミリエンヌは口をとがらせて、ベッドに腰かけた足をぶらぶらさせると、ウェーブのかかった茶色の髪をくるくると指でもてあそんだ。
「だってぇー、お父様が一人で国外の外出はだめって言うんだもの」
「お前ならいくらでもいるだろ?一緒に行ってくれるやつ」
性格も悪いし、金遣いも荒いが、エミリエンヌをちやほやしてくれる貴族の子息は大勢いる。何しろ顔が可愛いから。
ドミニクの言葉に、エミリエンヌは形のよい眉を顰めた。
「あいつらやだ。『こんなに買ってあげたんだから、キスくらいいいよね?』とか言って暗がりに連れ込もうとするし、すぐ触ろうとしてくるし」
「あー……」
エミリエンヌの金遣いは本当に荒いので、見返りにキスの一つや二つくらいもらいたい気持ちは男として分かる。
(むしろ、エミリエンヌの方から『キスしてあげるからこれ買って』とか言いそうな気がしてたな)
「好きな人としかしたくない」という信念でもあるのだろうか。だとすれば意外と可愛い気がする。
「オレもそういうことしたら、どうするんだよ」
もちろんする気はないが、ドミニクと言えどあまり男を信用するなよ、と脅しも込めて言ってみる。
「ドミニクが?」
エミリエンヌが顔をあげて、大きな目を瞬かせた。
すぐにくすくす笑い出す。
「あり得ない。だってドミニク、ヘタレだもんね。そんな甲斐性あったら、ヴィーと結婚してるわよ」
前言撤回。
やっぱり可愛くない。
「ね、ね?
仕入れってどうせ、マルス公国に行くんでしょ?
私もヴィーに会いたいしおねがーい」
両手を合わせてねだるエミリエンヌは、中身が悪魔だと分かっているドミニクですらやっぱり可愛いと思う。
エミリエンヌは最後に、殺し文句を言った。
「私、ヴィー以外だったら、ドミニクと一緒にいるのが一番楽しいんだもん。
ドミニクのセンスいいから、買い物して失敗ないし」
「だから、ね?」とまたもエミリエンヌは小首を傾げる。
(……こいつ、どういうつもりで言ってんだよ。オレ以外だったら勘違いするぞ、それ)
「あー、ったく!」
ドミニクは頭をわしゃわしゃかきむしると、ベッドから降りた。
「先、食堂行ってろ。どうせ早く家出たからうちで食べていくつもりだったんだろ」
「やったー!
だからドミニクって好きっ」
破顔して軽やかに部屋から出ていくエミリエンヌは可愛らしかった。
これからどんなに悲惨な未来が待っていようが、こんなに可愛い子から「好き」と言われればそれでいいじゃないか、と思わされるくらいには。
まぁ、エミリエンヌにとって、犬や猫を「好き」と言っているのと同じだと思うが。
「あー、オレも大概甘いな……」
夜着をぬぎながら、ドミニクは独り言ちた。
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