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第3章 ~ジロー、学校へ行く?~
実力を見るそうです。
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翌日、朝早くからアリスと学校に来ていた。
昨日はあの後、街へ出て屋台などで買い食いをした。アシナとユキには人前では話さないように言っていたので、食べたいものがあるとアシナはズボンを噛んで知らせてくる。
色んな物をたくさん食べられてアシナは満足そうだったけど、おかげでズボンはクシャクシャになっていた。
アリスにおすすめの食事処があるということで、そのお店に向かったまでは良かったんだけど、店員に犬は店に入れませんと言われてしまった。その時はアシナを抑えるのに必死で、アシナが何かをしないうちにそのお店を後にした。「私をただの犬だと!」とアシナは怒っていたけど、どう見てもそうとしか見えなかったのでとりあえず落ち着いてとしか言えなかった。
仕方がないので屋台で色々な食べ物を買ってアリスの家に向かった。
試験の日は、アシナ達には家で大人しくしているように言っていた。なので、今日朝出てくる時にはまだお腹を上にしてそれぞれ寝ていた。アシナのお腹をくすぐると「もう食えん。」などと寝言を言っていたのでつい笑ってしまった。
アリスと向かったのは学校で訓練場、修練場と呼ばれる場所だった。そこは魔法などを練習する場所のようで、その訓練場は、広さはあまりなかったけれど他にもいくつか同じような施設があり、闘技場のようになっている場所もあるらしい。
おれ達がそこに着いた時には二人の男性がすでに待っていた。
一人は白い髪に白い髭、見た目からは年老いた印象を受けるが、しかし目にはしっかりと力が宿っており、何かオーラを感じさせるような男性だった。おそらくこの人が校長先生なのだろう。
そしてもう一人は、きちっと整えられた髪型に眼鏡、神経質そうな面立ちはいかにも真面目といった風体だった。
「アリス、校長先生だけじゃなかったの?」
アリスにだけ聞こえるようにこそっと耳打ちする。
「そのはずじゃったんじゃがのう。あやつもこの学校の講師なんじゃがの、自らを主任講師だと思っとるのじゃ。まぁ実際そのような立場なのじゃが、どこぞで話を聞き付けて文句でも言いにきたのじゃろう。あやつはわしを目の敵にしておるからのう。」
「アリス何かしたの?」
「何かしたというかのう。わしが来た頃のばかりにあやつが言い寄って来たんじゃ。『私の女になれば悪いようにはしない。』とか言うんじゃぞ?あまりの生理的嫌悪感に反射的に平手打ちを決めてしもうた。それからことあるごとにちょっかいを掛けてくるのじゃ。」
生理的嫌悪感て……。でもあんまりいい感じの人ではなさそうだ。
「遅いぞ、エクシル!いつまで待たせるのだ。」
「うるさいのう。そもそもお主は呼んでおらぬのじゃ。すまんのう校長、待たせたかの?」
「いやいやそれほど待っておらぬよ。ローデンスもそうカリカリするでないよ。エクシル達も遅れて来た訳ではあるまい。そもそも早朝としか言っておらんかったんじゃからな。」
「そうじゃ。お主こそなんでおるのじゃ。今日は校長にだけ見てもらうはずじゃったろう。」
「ふん。私に黙って助手を招き入れようなど言語道断だ。それでは校長、私は準備をして参ります。」
そういうとローデンスは訓練場の奥に離れていった。それよりもローデンスか……ビリビリしそうな名前だな。
「すまんな。ローデンスとはここに来るときに偶然鉢合わせになっての。内緒にすることでもないし、試験のことを話したら私も同席しますと言い出してな。あとから何か言われてもいやじゃから連れてきたのじゃ。
それよりも君がジロー君じゃな?」
「あっはい。ジロー・オオガミと言います。今日はよろしくお願いします。」
「うむ。エクシルから話は聞いておる。わしはこのロンメル魔法学校で校長をしておるトーマス・ジョセスという者じゃ。彼女からの紹介なら問題はないかと思うが一応わしの目でも実力を確認せねばの。魔法を軽く見せてもらうだけじゃからそう緊張せずともよい。ローデンスのこともそう気にせんでよいぞ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「試験は簡単じゃ。ローデンスが用意する標的に魔法で攻撃してもらうだけじゃ。魔法はどのようなものでもよい。それを見てわしらが合格かどうか判断する。ちなみにこの訓練場には障壁が張ってあるので多少の魔法で壊れることなどないので安心して魔法を放つがよい。」
ジョセス校長からの説明を聞いていると準備に向かったローデンスが戻ってきた。
「校長、準備は出来ました。」
「うむ。ではジロー君、心の準備が出来次第始めてくれ。」
そう言うと校長とローデンスは少しだけ距離を取った。話を聞いていたアリスがこそっと話し掛けてきた。
「ジロー、緊張せんでよいぞ。校長は退役軍人で、第一線は退いたとはいえ人間の中では今でもトップクラスの実力者じゃ。見る目は確かなお方じゃよ。ローデンスのことは気にせぬ方がよい。じゃがいもがおるとでも思っておけばよいのじゃ。」
おれの肩を叩くようにすると、そのままアリスも校長達の方に向かった。じゃがいもって……。
うーん、校長は簡単って言ったけど中々意地悪な試験だよね。合格基準が示されてる訳ではないし、ただ攻撃しろとしか言われていない。
あまり弱すぎても助手として意味がないだろうし、やり過ぎて変な風に見られてもあれだしな。とりあえず一回だけとも言われてないしやってみるか!
標的に向け手を翳すと魔力を練り、世界に干渉する。体の周りに3つほどの火球を出現させると、それを針状に引き絞る。引き絞ると同時に標的に向け発射する。的に命中すると人の形をした的に綺麗に3つの穴が開いた。
魔法自体は壁に当たると障壁に相殺されたのか消えてしまった。
障壁すごいな。誰が張ったんだろう。やっぱり校長かな。それとも他に優秀な先生がいるのだろうか。
ちょっと普通過ぎたかな?もうちょっと派手な魔法の方が良かっただろうか。
アリス達を見ると、ローデンスが一番に声を上げた。
「何だ今のは。基本も基本じゃないか。私の生徒達なら問題無く出来るレベルだ。よくそれで助手になぞなろうと思ったものだ。これでは助手が務まるはずもない。ですよね校長?」
「うむ、合格じゃな。」
「そうだ。不合格だ。出直して……え?」
ローデンスが校長に問いかけると、まるで否定するようにすぱっと言い切った。
えっ?合格?
「聞こえんかったか?合格と言ったのじゃ。エクシル、ジロー君が生活する場所は決まっとるのか?」
「わしのところで住まわせるつもりです。」
「うむ、では手続きなどはこちらで指示しておこう。ジロー君は来週からエクシルの助手として学校に来てくれ。エクシルから説明を受けると思うが、分からないことがあれば彼女を通じてわしに聞いてくれてもいい。」
そこまで聞いて我に返ったローデンスが校長に詰め寄る。
「ちょっと待ってください、校長。あの程度の実力で彼を合格にするのですか?あのレベルならば生徒の中にもごろごろいますよ。」
「なんじゃ不服そうじゃの。逆に言うがお主は今の魔法を見て何も感じんかったのか?」
「……私には普通の火系統の魔法にしか。」
「ならばそれがお主の現状じゃ。とにかく彼は現段階では合格じゃ。助手として働いて問題があれば、その時にまた言ってくるがよい。それともお主はわしの決定に不満があるのか?」
「うぐ、それは……分かりました。しかし、彼に問題があればすぐに上申しますので。」
そう言うとローデンスはアリスの方をきっと睨むと、踵を返して訓練場を後にした。
「ではジロー君もエクシルと帰るがよい。疲れてはおらぬと思うが、来週からよろしく頼むぞ。」
こんなに早く決まると思っていなかったので少しだけぼうっとしてしまった。アリスにこづかれて、「ジロー返事」と言われて慌てて返事をした。
「すいません。こちらこそよろしくお願いします。」
そう返事をするとアリスとその場を後にした。
もう少し掛かると思っていた試験は、おれの予想を裏切り呆気なく終わった。
昨日はあの後、街へ出て屋台などで買い食いをした。アシナとユキには人前では話さないように言っていたので、食べたいものがあるとアシナはズボンを噛んで知らせてくる。
色んな物をたくさん食べられてアシナは満足そうだったけど、おかげでズボンはクシャクシャになっていた。
アリスにおすすめの食事処があるということで、そのお店に向かったまでは良かったんだけど、店員に犬は店に入れませんと言われてしまった。その時はアシナを抑えるのに必死で、アシナが何かをしないうちにそのお店を後にした。「私をただの犬だと!」とアシナは怒っていたけど、どう見てもそうとしか見えなかったのでとりあえず落ち着いてとしか言えなかった。
仕方がないので屋台で色々な食べ物を買ってアリスの家に向かった。
試験の日は、アシナ達には家で大人しくしているように言っていた。なので、今日朝出てくる時にはまだお腹を上にしてそれぞれ寝ていた。アシナのお腹をくすぐると「もう食えん。」などと寝言を言っていたのでつい笑ってしまった。
アリスと向かったのは学校で訓練場、修練場と呼ばれる場所だった。そこは魔法などを練習する場所のようで、その訓練場は、広さはあまりなかったけれど他にもいくつか同じような施設があり、闘技場のようになっている場所もあるらしい。
おれ達がそこに着いた時には二人の男性がすでに待っていた。
一人は白い髪に白い髭、見た目からは年老いた印象を受けるが、しかし目にはしっかりと力が宿っており、何かオーラを感じさせるような男性だった。おそらくこの人が校長先生なのだろう。
そしてもう一人は、きちっと整えられた髪型に眼鏡、神経質そうな面立ちはいかにも真面目といった風体だった。
「アリス、校長先生だけじゃなかったの?」
アリスにだけ聞こえるようにこそっと耳打ちする。
「そのはずじゃったんじゃがのう。あやつもこの学校の講師なんじゃがの、自らを主任講師だと思っとるのじゃ。まぁ実際そのような立場なのじゃが、どこぞで話を聞き付けて文句でも言いにきたのじゃろう。あやつはわしを目の敵にしておるからのう。」
「アリス何かしたの?」
「何かしたというかのう。わしが来た頃のばかりにあやつが言い寄って来たんじゃ。『私の女になれば悪いようにはしない。』とか言うんじゃぞ?あまりの生理的嫌悪感に反射的に平手打ちを決めてしもうた。それからことあるごとにちょっかいを掛けてくるのじゃ。」
生理的嫌悪感て……。でもあんまりいい感じの人ではなさそうだ。
「遅いぞ、エクシル!いつまで待たせるのだ。」
「うるさいのう。そもそもお主は呼んでおらぬのじゃ。すまんのう校長、待たせたかの?」
「いやいやそれほど待っておらぬよ。ローデンスもそうカリカリするでないよ。エクシル達も遅れて来た訳ではあるまい。そもそも早朝としか言っておらんかったんじゃからな。」
「そうじゃ。お主こそなんでおるのじゃ。今日は校長にだけ見てもらうはずじゃったろう。」
「ふん。私に黙って助手を招き入れようなど言語道断だ。それでは校長、私は準備をして参ります。」
そういうとローデンスは訓練場の奥に離れていった。それよりもローデンスか……ビリビリしそうな名前だな。
「すまんな。ローデンスとはここに来るときに偶然鉢合わせになっての。内緒にすることでもないし、試験のことを話したら私も同席しますと言い出してな。あとから何か言われてもいやじゃから連れてきたのじゃ。
それよりも君がジロー君じゃな?」
「あっはい。ジロー・オオガミと言います。今日はよろしくお願いします。」
「うむ。エクシルから話は聞いておる。わしはこのロンメル魔法学校で校長をしておるトーマス・ジョセスという者じゃ。彼女からの紹介なら問題はないかと思うが一応わしの目でも実力を確認せねばの。魔法を軽く見せてもらうだけじゃからそう緊張せずともよい。ローデンスのこともそう気にせんでよいぞ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「試験は簡単じゃ。ローデンスが用意する標的に魔法で攻撃してもらうだけじゃ。魔法はどのようなものでもよい。それを見てわしらが合格かどうか判断する。ちなみにこの訓練場には障壁が張ってあるので多少の魔法で壊れることなどないので安心して魔法を放つがよい。」
ジョセス校長からの説明を聞いていると準備に向かったローデンスが戻ってきた。
「校長、準備は出来ました。」
「うむ。ではジロー君、心の準備が出来次第始めてくれ。」
そう言うと校長とローデンスは少しだけ距離を取った。話を聞いていたアリスがこそっと話し掛けてきた。
「ジロー、緊張せんでよいぞ。校長は退役軍人で、第一線は退いたとはいえ人間の中では今でもトップクラスの実力者じゃ。見る目は確かなお方じゃよ。ローデンスのことは気にせぬ方がよい。じゃがいもがおるとでも思っておけばよいのじゃ。」
おれの肩を叩くようにすると、そのままアリスも校長達の方に向かった。じゃがいもって……。
うーん、校長は簡単って言ったけど中々意地悪な試験だよね。合格基準が示されてる訳ではないし、ただ攻撃しろとしか言われていない。
あまり弱すぎても助手として意味がないだろうし、やり過ぎて変な風に見られてもあれだしな。とりあえず一回だけとも言われてないしやってみるか!
標的に向け手を翳すと魔力を練り、世界に干渉する。体の周りに3つほどの火球を出現させると、それを針状に引き絞る。引き絞ると同時に標的に向け発射する。的に命中すると人の形をした的に綺麗に3つの穴が開いた。
魔法自体は壁に当たると障壁に相殺されたのか消えてしまった。
障壁すごいな。誰が張ったんだろう。やっぱり校長かな。それとも他に優秀な先生がいるのだろうか。
ちょっと普通過ぎたかな?もうちょっと派手な魔法の方が良かっただろうか。
アリス達を見ると、ローデンスが一番に声を上げた。
「何だ今のは。基本も基本じゃないか。私の生徒達なら問題無く出来るレベルだ。よくそれで助手になぞなろうと思ったものだ。これでは助手が務まるはずもない。ですよね校長?」
「うむ、合格じゃな。」
「そうだ。不合格だ。出直して……え?」
ローデンスが校長に問いかけると、まるで否定するようにすぱっと言い切った。
えっ?合格?
「聞こえんかったか?合格と言ったのじゃ。エクシル、ジロー君が生活する場所は決まっとるのか?」
「わしのところで住まわせるつもりです。」
「うむ、では手続きなどはこちらで指示しておこう。ジロー君は来週からエクシルの助手として学校に来てくれ。エクシルから説明を受けると思うが、分からないことがあれば彼女を通じてわしに聞いてくれてもいい。」
そこまで聞いて我に返ったローデンスが校長に詰め寄る。
「ちょっと待ってください、校長。あの程度の実力で彼を合格にするのですか?あのレベルならば生徒の中にもごろごろいますよ。」
「なんじゃ不服そうじゃの。逆に言うがお主は今の魔法を見て何も感じんかったのか?」
「……私には普通の火系統の魔法にしか。」
「ならばそれがお主の現状じゃ。とにかく彼は現段階では合格じゃ。助手として働いて問題があれば、その時にまた言ってくるがよい。それともお主はわしの決定に不満があるのか?」
「うぐ、それは……分かりました。しかし、彼に問題があればすぐに上申しますので。」
そう言うとローデンスはアリスの方をきっと睨むと、踵を返して訓練場を後にした。
「ではジロー君もエクシルと帰るがよい。疲れてはおらぬと思うが、来週からよろしく頼むぞ。」
こんなに早く決まると思っていなかったので少しだけぼうっとしてしまった。アリスにこづかれて、「ジロー返事」と言われて慌てて返事をした。
「すいません。こちらこそよろしくお願いします。」
そう返事をするとアリスとその場を後にした。
もう少し掛かると思っていた試験は、おれの予想を裏切り呆気なく終わった。
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