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本編
22 闇夜の劣情
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リヒトの怒りを買った私は、例によって手錠のような拘束魔法をかけられていた。
以前も、『お仕置き』と称されてこの魔法をかけられたことがあったけれど、その時は二日程で解除してくれた。
その程度なら入浴に困ることもなかったのだが、今回はもう三日目に突入してしまった。流石にこれ以上入浴できないのは辛い。
ちなみに、アルメルとアドレーには「今のセレスは精神的に不安定だから、暫くの間部屋に入らないように」と念を押して言ってあるみたいだ。
あの日以来、食事は朝と昼は作り置きで夜は帰宅したリヒトが私の部屋に運んでくる、という生活が続いている。
きっと、リヒトは私にだけは他の女性との結婚を勧められたくなかったのだと思う。こうやって、私を拘束して怒りを露わにしていることが何よりの証拠だ。つまり、私は地雷を踏んでしまったのだ。
私達の関係を良好な状態に戻すには、アルメルの言う通り、リヒトのことを理解しないと駄目なのだろうか……。
一体、あと何日したら解除してくれるんだろう……? そう思いながら、時計に目をやる。
……そろそろ、リヒトが帰宅する時間だ。
◆
それから三十分程経って、帰宅したリヒトが私の部屋を訪れた。
「あの……あのね、リヒト。お願いがあるんだけど……」
小さな声でそう切り出すと、虚ろな目をしたリヒトが無表情のまま振り返った。
「……何だ?」
「この魔法をかけられて、今日でもう三日目でしょう? せめて、一度解除してお風呂に入らせて欲しいんだけど……。このままだと、服も脱げないし……」
「駄目だ。そんなに早く解除したら、ちゃんと反省できないだろう? ……俺の想いを踏み躙った罰だ」
懇願する私に、リヒトは冷たくそう言い放った。
「そ、そんな……」
「そうだな。どうしても入りたいと言うのなら、俺が入れてやろう」
「!?」
「どうした?」
「だ、駄目だよ! そんなの恥ずかしいし……」
「恥ずかしい? お前にとって、俺はあくまで『弟』なんだろ? 家族としか思えないなら、裸を見られても何とも思わないはずだ」
「……」
そう返され、思わず言葉に詰まってしまう。弟とはいえ、裸を見られるのはやはり恥ずかしい。家族としか思っていなくても、異性のきょうだいならそう思うものだ。
けれども……今の彼にそんな言い分は通用しないだろう。
「それに、昔はいつも一緒に入っていただろう? 今更、何を恥ずかしがって──」
「そ、そういう問題じゃないよ! 第一、それは子供の頃の話だし……前世でも現世でも、大きくなってからは別々に入っていたし……」
そこまで言って、私は口籠ってしまった。
リヒトはそんな私の顔を覗き込むと、「本当に可愛いな、セレスは」と呟き艶やかな笑みを浮かべた。
「まあ……このままずっと入らないわけにもいかないだろう? 今日は、大人しく俺の言うことを聞くべきだと思うが」
リヒトはそう言うと、渋る私を引き摺ってバスルームに向かった。
◆
バスルームに入るなり、リヒトは突然魔法を詠唱し始めた。
それに驚いていると、忽ち小さな旋風が巻き起こり、その旋風が私の着ている服を切り裂いた。
「!?」
どうやら、【ヴェント】という風属性の魔法らしい。
その旋風は私の体を傷付けず、器用に服だけを切り裂いたようだ。「どうやって服を脱がすんだろう」と思っていたけれど、こんなことに魔法を使うなんて……。
「服なら、後でいくらでも買ってやるから安心しろ」
リヒトはそう言うと、私の背中に手を伸ばし、ブラジャーのホックを外そうとした。
……ああ、そうか。今の私は下着しか身に着けていないんだ。
そして、今リヒトが私の下着を外そうとしている……。それに気付いた途端、急に恥ずかしくなり、思わず上半身を捻って彼の手から逃れようとした。
「だ、駄目……やっぱり、駄目……」
羞恥のあまり俯いていると、リヒトは少し口角を上げて強引に上下の下着を剥ぎ取った。
「お前の体が綺麗なのは、昔から変わっていないな」
リヒトはそう言いながら、まじまじと私の体を眺める。
彼の言う『昔』がいつのことを指しているのかわからないけれど……少なくとも、前世の私は成長してから彼に裸を見せた覚えはない。
「胸は前世のほうが大きかったけどな」
「なっ……! そんなところまで見ていたの……!?」
「当然だろう? 好きな女が毎日隣にいるのに、気にしないほうがおかしい」
「……」
リヒトの言葉を聞いて、私は前世の自分の行いを悔いた。
そう言えば、前世では彼の前で平気で薄着になったり、胸元の開いた服を着ていたりしていたっけ……。
剰え、そういう服を着て望に抱きついたりもした。きっと、彼はその度に私を性的な目で見ていたのだろう。
「でも、俺は今のお前も好みだ。──もっとも、俺はお前が現世でどんなに醜い姿になろうと愛していたけどな」
リヒトはそう言うと、浴室の棚に置いてあったスポンジを手に取った。そして、それにボディソープをつけて適度に泡立てると、私の肩を掴んで自分の方に向かせた。
「お、お願い……あまり見ないで」
私は、相変わらず自分の体を凝視しているリヒトにそう哀願した。
手を拘束されているから、隠したい部分を隠すこともできない。だから、せめてそうお願いするしかなかった。
弟の前で全裸を晒しているという事実だけでも恥ずかしいのに、これから体を洗われるなんて……羞恥のあまりどうにかなってしまいそうだ。
「ちゃんと見ないと洗えないだろ?」
耳元でそう囁かれ、ますます顔が熱くなってしまう。とりあえず……一刻も早く、服を着させて欲しい。私の頭の中はそれで一杯だった。
「……自分だけ狡い」
つい、不満を口に出してしまった。私は全裸に剥かれてしまったのに、リヒトは上着を脱いだだけだ。狡いと思うのも当然だった。
「ん……? ああ、お前が脱いで欲しいなら、俺も脱ぐが……」
私のぼやきに反応したリヒトは、徐ろにシャツのボタンを外し始めた。その途端、思わずはだけたシャツの隙間から覗く白い肌に釘付けになってしまう。
リヒトは私のことを綺麗だと褒めていたけれど、私からすれば彼のほうが綺麗だと思う。
すらっとした細身の体型に、男性とは思えない程滑らかな白い肌──前世の彼も美形だったけれど、現世の彼はそのプラチナブロンドの髪やアクアマリン色の瞳も相まって一層美しい。
「い、いいから! リヒトは脱がなくていいから……!」
一瞬その綺麗な肌に気を取られてしまったが、私はすぐに脱ぎだしたリヒトを止めた。
リヒトは「わかった」と返事をすると、私の肩の辺りを丁寧に洗い始めた。暫くすると、彼は手に持った柔らかいスポンジを肩から腕に滑らせ、やがて躊躇なく胸まで移動させた。
「……っ」
その途端、思わず小さな声が漏れてしまった。スポンジで胸を洗われているだけなのに、なぜか下腹部から疼きが押し寄せて来る。
自分で洗っている時は何も感じなかったのに、自分以外の人間に触れられるとこんなにも反応してしまうものなのか……と激しい自己嫌悪に陥った。
リヒトはそれに気付いたのか、今度はスポンジを下腹まで移動させた。そして、それを容赦なく秘部まで滑らせる。
「やっ──リ、リヒト……そこは……」
私はリヒトにやめるよう頼んだが、彼は気にする素振りも見せずそこをスポンジで撫でた。
「駄目だよ……お願い……」
「何が駄目なんだ? 洗うなら、全部洗わないとな」
リヒトはそう言うと、唇の端を吊り上げて悪戯な笑みを浮かべた。
直接手で触れられているわけでもないのに、私のそこは確かに熱を持ち、彼の愛撫を受け入れてしまっている。リヒトはきっと、私が感じていることに気付いているんだ。そのせいか、先程から執拗に秘部をスポンジで撫で続けている。
「やめて……もう、これ以上は……」
リヒトは嫌がる私を無視して暫く愛撫を続けていたが、やがて満足したのか他の部位に移り、シャワーで私の体を流し始めた。
そして、髪の毛も洗い終わり、漸くバスルームから出られるかと思いきや──リヒトは突然、私の体を浴室の壁に押し付け首筋に口付けを落とした。
「リ、リヒト……?」
「お前が俺を受け入れてくれるまで、一線を踏み越えるつもりはなかった。……でも、もう限界なんだ。あれだけ『心が通じ合わないと嫌だ』と思っていたのに、情けないことに俺の下半身は痛い程お前に反応してしまう。あんなに可愛い声を聞かせられたら、もう……」
リヒトは呟くようにそう言うと、私の胸に顔を寄せ先端を口に含んだ。その途端、背筋に電流が走る。初めて味わうその感覚に身悶えしていると、リヒトは追い打ちをかけるようにその先端を舌先で転がした。
「……っ! やっ……駄目……! リヒト、駄目だよ……!」
こんな行為、許されるはずがない。そう思いながら、私はリヒトを自分から引き剥がそうとした。けれども、胸から与えられる甘美な刺激で全身の力が抜けてしまい抵抗すらできない。
そうやってリヒトのなすがままになっていると、彼はもう片方の胸を左手でやわやわと揉み、更に右手を秘裂に侵入させた。
「リヒト、やめ……! ……あっ……あぁっ……!」
リヒトは花芯と肉壁を同時に指でなぞり、暫く愛撫を続けた。彼が指を動かす度に、私のそこはぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てる。
「あ……あぁっ……やぁ……」
胸と秘部の両方から与えられる刺激に、私は立っていることすらままならなくなり、びくりと脚を震わせる。そのまま膝から崩れ落ちそうになっていると、リヒトが左手で私の腰を支えた。
「お前の心は俺を拒絶している。でも、ここはこんなに濡れて俺を欲しがっている──だから、もういいだろ? 俺と一つになろう、セレス」
リヒトはそう言うと、私の秘裂に硬くそそり立った自身を押し付けた。彼の華奢で綺麗な体に似つかわしくないそれを見た途端、私の中で快楽よりも恐怖が勝った。
もし、ここでリヒトを──弟を受け入れてしまったら……? 駄目だ。そんなこと、神様が許すはずがない。
以前は、自暴自棄になって彼に体を差し出そうとしたこともあった。それなのに……いざその時になったら、『怖い』という気持ちのほうが強くなってしまった。
「嫌……いやぁ! それだけは駄目! お願い、リヒト! ……いやぁぁぁ!」
リヒトは絶叫している私の片足を掴んで持ち上げると、再び秘裂に熱を帯びた自身をあてがった。くちゅり、という淫らな音と共に性器と性器が密着し、お互いの体液が混ざり合う。
心は全力でリヒトを拒絶しているのに、私のそこはすっかり濡れそぼって彼を受け入れようとしている。そんな自分にますます嫌気が差し、私の心は絶望感で一杯になった。
「挿れるぞ、セレス」
リヒトは私の耳元で優しくそう囁いた。その途端、涙がぶわっと溢れ出てしまった。泣き叫び、ひたすら「嫌だ、嫌だ」と拒絶していると、今にも私の中に入ろうとしていたリヒトが突然動きを止めた。
「……そんなに嫌か」
リヒトはそう一言だけ言うと、切なげに溜め息をついて掴んでいた私の足を床に下ろした。
そして、バスタオルでそっと私の体を包むと、そのまま横抱きして浴室を出た。
◆
気が付いたら、朝になっていた。私はいつも通り、自分の部屋のベッドに寝ている。
昨日、あれからどうなったんだっけ? 確か、リヒトが私の体を洗うと言い出して……。
──そうだ、思い出した。あの後、私達はバスルームで一線を越えそうになったんだ……。
そして、私は強引に迫るリヒトを泣き叫びながら全力で拒絶した。そうしたら、リヒトが寸前でやめてくれたんだっけ……。
今までのリヒトは、「無理やり体を重ねても意味がない」と言って精々キスくらいの行為しか要求しなかった。けれども……一応、彼だって健全な男性だ。理性が利かなくなって、昨日みたいな行動に及んだとしてもおかしくない。
ああ……駄目だ。あの時の、彼の悲しそうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。もしかしたら、心の底から嫌がっている私を見て想像以上に傷ついたのかもしれない。
ベッドから上体を起こし、体を確認してみる。昨日、リヒトにあちこち触られはしたものの、特に異常は見当たらない。服もちゃんと着ている。
そして、今気付いたのだが……いつの間にか拘束魔法が解除されており、手が自由になっている。私が寝ている間にリヒトが解除してくれたのだろうか。
そんなことを考えながら、昨夜リヒトが枕元で私に言った言葉を思い出す。
──俺はお前の実の弟だけど、お前と愛し合いたい。繋がりたい。結局、この想いは誰にも受け入れて貰えないんだな。世間にも、お前にも……。でも……それでも、俺はお前のことを諦められないんだ。
リヒトは私が眠りにつくまで、虚ろな表情のまま延々と同じようなことを呟いていた。そして、少し痛いくらいの力を込めてずっと私の手を握っていた。
ねえ、リヒト。私、どうしたらいいのかな。
あなたは痛ましいほどに真っ直ぐだ。どんなに傷ついても、拒絶されても、諦めずにひたむきな愛情を向けてくる。そんなあなたを見るのが辛いよ。
私があなたを受け入れれば、あなたは本当に幸せになれるの? 辛い未来が待っているだけだよ?
私は魔力を持たずに生まれてきた時点でお先真っ暗だけれど……あなたは普通の結婚をして、家族を持って幸せになって欲しい。私という重荷に執着しないで、現世を謳歌して欲しい。
そう思うのは、私が現世でネイトと結ばれたいからではないよ。
それなのに……どうして、この想いはあなたに伝わらないんだろう。
以前も、『お仕置き』と称されてこの魔法をかけられたことがあったけれど、その時は二日程で解除してくれた。
その程度なら入浴に困ることもなかったのだが、今回はもう三日目に突入してしまった。流石にこれ以上入浴できないのは辛い。
ちなみに、アルメルとアドレーには「今のセレスは精神的に不安定だから、暫くの間部屋に入らないように」と念を押して言ってあるみたいだ。
あの日以来、食事は朝と昼は作り置きで夜は帰宅したリヒトが私の部屋に運んでくる、という生活が続いている。
きっと、リヒトは私にだけは他の女性との結婚を勧められたくなかったのだと思う。こうやって、私を拘束して怒りを露わにしていることが何よりの証拠だ。つまり、私は地雷を踏んでしまったのだ。
私達の関係を良好な状態に戻すには、アルメルの言う通り、リヒトのことを理解しないと駄目なのだろうか……。
一体、あと何日したら解除してくれるんだろう……? そう思いながら、時計に目をやる。
……そろそろ、リヒトが帰宅する時間だ。
◆
それから三十分程経って、帰宅したリヒトが私の部屋を訪れた。
「あの……あのね、リヒト。お願いがあるんだけど……」
小さな声でそう切り出すと、虚ろな目をしたリヒトが無表情のまま振り返った。
「……何だ?」
「この魔法をかけられて、今日でもう三日目でしょう? せめて、一度解除してお風呂に入らせて欲しいんだけど……。このままだと、服も脱げないし……」
「駄目だ。そんなに早く解除したら、ちゃんと反省できないだろう? ……俺の想いを踏み躙った罰だ」
懇願する私に、リヒトは冷たくそう言い放った。
「そ、そんな……」
「そうだな。どうしても入りたいと言うのなら、俺が入れてやろう」
「!?」
「どうした?」
「だ、駄目だよ! そんなの恥ずかしいし……」
「恥ずかしい? お前にとって、俺はあくまで『弟』なんだろ? 家族としか思えないなら、裸を見られても何とも思わないはずだ」
「……」
そう返され、思わず言葉に詰まってしまう。弟とはいえ、裸を見られるのはやはり恥ずかしい。家族としか思っていなくても、異性のきょうだいならそう思うものだ。
けれども……今の彼にそんな言い分は通用しないだろう。
「それに、昔はいつも一緒に入っていただろう? 今更、何を恥ずかしがって──」
「そ、そういう問題じゃないよ! 第一、それは子供の頃の話だし……前世でも現世でも、大きくなってからは別々に入っていたし……」
そこまで言って、私は口籠ってしまった。
リヒトはそんな私の顔を覗き込むと、「本当に可愛いな、セレスは」と呟き艶やかな笑みを浮かべた。
「まあ……このままずっと入らないわけにもいかないだろう? 今日は、大人しく俺の言うことを聞くべきだと思うが」
リヒトはそう言うと、渋る私を引き摺ってバスルームに向かった。
◆
バスルームに入るなり、リヒトは突然魔法を詠唱し始めた。
それに驚いていると、忽ち小さな旋風が巻き起こり、その旋風が私の着ている服を切り裂いた。
「!?」
どうやら、【ヴェント】という風属性の魔法らしい。
その旋風は私の体を傷付けず、器用に服だけを切り裂いたようだ。「どうやって服を脱がすんだろう」と思っていたけれど、こんなことに魔法を使うなんて……。
「服なら、後でいくらでも買ってやるから安心しろ」
リヒトはそう言うと、私の背中に手を伸ばし、ブラジャーのホックを外そうとした。
……ああ、そうか。今の私は下着しか身に着けていないんだ。
そして、今リヒトが私の下着を外そうとしている……。それに気付いた途端、急に恥ずかしくなり、思わず上半身を捻って彼の手から逃れようとした。
「だ、駄目……やっぱり、駄目……」
羞恥のあまり俯いていると、リヒトは少し口角を上げて強引に上下の下着を剥ぎ取った。
「お前の体が綺麗なのは、昔から変わっていないな」
リヒトはそう言いながら、まじまじと私の体を眺める。
彼の言う『昔』がいつのことを指しているのかわからないけれど……少なくとも、前世の私は成長してから彼に裸を見せた覚えはない。
「胸は前世のほうが大きかったけどな」
「なっ……! そんなところまで見ていたの……!?」
「当然だろう? 好きな女が毎日隣にいるのに、気にしないほうがおかしい」
「……」
リヒトの言葉を聞いて、私は前世の自分の行いを悔いた。
そう言えば、前世では彼の前で平気で薄着になったり、胸元の開いた服を着ていたりしていたっけ……。
剰え、そういう服を着て望に抱きついたりもした。きっと、彼はその度に私を性的な目で見ていたのだろう。
「でも、俺は今のお前も好みだ。──もっとも、俺はお前が現世でどんなに醜い姿になろうと愛していたけどな」
リヒトはそう言うと、浴室の棚に置いてあったスポンジを手に取った。そして、それにボディソープをつけて適度に泡立てると、私の肩を掴んで自分の方に向かせた。
「お、お願い……あまり見ないで」
私は、相変わらず自分の体を凝視しているリヒトにそう哀願した。
手を拘束されているから、隠したい部分を隠すこともできない。だから、せめてそうお願いするしかなかった。
弟の前で全裸を晒しているという事実だけでも恥ずかしいのに、これから体を洗われるなんて……羞恥のあまりどうにかなってしまいそうだ。
「ちゃんと見ないと洗えないだろ?」
耳元でそう囁かれ、ますます顔が熱くなってしまう。とりあえず……一刻も早く、服を着させて欲しい。私の頭の中はそれで一杯だった。
「……自分だけ狡い」
つい、不満を口に出してしまった。私は全裸に剥かれてしまったのに、リヒトは上着を脱いだだけだ。狡いと思うのも当然だった。
「ん……? ああ、お前が脱いで欲しいなら、俺も脱ぐが……」
私のぼやきに反応したリヒトは、徐ろにシャツのボタンを外し始めた。その途端、思わずはだけたシャツの隙間から覗く白い肌に釘付けになってしまう。
リヒトは私のことを綺麗だと褒めていたけれど、私からすれば彼のほうが綺麗だと思う。
すらっとした細身の体型に、男性とは思えない程滑らかな白い肌──前世の彼も美形だったけれど、現世の彼はそのプラチナブロンドの髪やアクアマリン色の瞳も相まって一層美しい。
「い、いいから! リヒトは脱がなくていいから……!」
一瞬その綺麗な肌に気を取られてしまったが、私はすぐに脱ぎだしたリヒトを止めた。
リヒトは「わかった」と返事をすると、私の肩の辺りを丁寧に洗い始めた。暫くすると、彼は手に持った柔らかいスポンジを肩から腕に滑らせ、やがて躊躇なく胸まで移動させた。
「……っ」
その途端、思わず小さな声が漏れてしまった。スポンジで胸を洗われているだけなのに、なぜか下腹部から疼きが押し寄せて来る。
自分で洗っている時は何も感じなかったのに、自分以外の人間に触れられるとこんなにも反応してしまうものなのか……と激しい自己嫌悪に陥った。
リヒトはそれに気付いたのか、今度はスポンジを下腹まで移動させた。そして、それを容赦なく秘部まで滑らせる。
「やっ──リ、リヒト……そこは……」
私はリヒトにやめるよう頼んだが、彼は気にする素振りも見せずそこをスポンジで撫でた。
「駄目だよ……お願い……」
「何が駄目なんだ? 洗うなら、全部洗わないとな」
リヒトはそう言うと、唇の端を吊り上げて悪戯な笑みを浮かべた。
直接手で触れられているわけでもないのに、私のそこは確かに熱を持ち、彼の愛撫を受け入れてしまっている。リヒトはきっと、私が感じていることに気付いているんだ。そのせいか、先程から執拗に秘部をスポンジで撫で続けている。
「やめて……もう、これ以上は……」
リヒトは嫌がる私を無視して暫く愛撫を続けていたが、やがて満足したのか他の部位に移り、シャワーで私の体を流し始めた。
そして、髪の毛も洗い終わり、漸くバスルームから出られるかと思いきや──リヒトは突然、私の体を浴室の壁に押し付け首筋に口付けを落とした。
「リ、リヒト……?」
「お前が俺を受け入れてくれるまで、一線を踏み越えるつもりはなかった。……でも、もう限界なんだ。あれだけ『心が通じ合わないと嫌だ』と思っていたのに、情けないことに俺の下半身は痛い程お前に反応してしまう。あんなに可愛い声を聞かせられたら、もう……」
リヒトは呟くようにそう言うと、私の胸に顔を寄せ先端を口に含んだ。その途端、背筋に電流が走る。初めて味わうその感覚に身悶えしていると、リヒトは追い打ちをかけるようにその先端を舌先で転がした。
「……っ! やっ……駄目……! リヒト、駄目だよ……!」
こんな行為、許されるはずがない。そう思いながら、私はリヒトを自分から引き剥がそうとした。けれども、胸から与えられる甘美な刺激で全身の力が抜けてしまい抵抗すらできない。
そうやってリヒトのなすがままになっていると、彼はもう片方の胸を左手でやわやわと揉み、更に右手を秘裂に侵入させた。
「リヒト、やめ……! ……あっ……あぁっ……!」
リヒトは花芯と肉壁を同時に指でなぞり、暫く愛撫を続けた。彼が指を動かす度に、私のそこはぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てる。
「あ……あぁっ……やぁ……」
胸と秘部の両方から与えられる刺激に、私は立っていることすらままならなくなり、びくりと脚を震わせる。そのまま膝から崩れ落ちそうになっていると、リヒトが左手で私の腰を支えた。
「お前の心は俺を拒絶している。でも、ここはこんなに濡れて俺を欲しがっている──だから、もういいだろ? 俺と一つになろう、セレス」
リヒトはそう言うと、私の秘裂に硬くそそり立った自身を押し付けた。彼の華奢で綺麗な体に似つかわしくないそれを見た途端、私の中で快楽よりも恐怖が勝った。
もし、ここでリヒトを──弟を受け入れてしまったら……? 駄目だ。そんなこと、神様が許すはずがない。
以前は、自暴自棄になって彼に体を差し出そうとしたこともあった。それなのに……いざその時になったら、『怖い』という気持ちのほうが強くなってしまった。
「嫌……いやぁ! それだけは駄目! お願い、リヒト! ……いやぁぁぁ!」
リヒトは絶叫している私の片足を掴んで持ち上げると、再び秘裂に熱を帯びた自身をあてがった。くちゅり、という淫らな音と共に性器と性器が密着し、お互いの体液が混ざり合う。
心は全力でリヒトを拒絶しているのに、私のそこはすっかり濡れそぼって彼を受け入れようとしている。そんな自分にますます嫌気が差し、私の心は絶望感で一杯になった。
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「……そんなに嫌か」
リヒトはそう一言だけ言うと、切なげに溜め息をついて掴んでいた私の足を床に下ろした。
そして、バスタオルでそっと私の体を包むと、そのまま横抱きして浴室を出た。
◆
気が付いたら、朝になっていた。私はいつも通り、自分の部屋のベッドに寝ている。
昨日、あれからどうなったんだっけ? 確か、リヒトが私の体を洗うと言い出して……。
──そうだ、思い出した。あの後、私達はバスルームで一線を越えそうになったんだ……。
そして、私は強引に迫るリヒトを泣き叫びながら全力で拒絶した。そうしたら、リヒトが寸前でやめてくれたんだっけ……。
今までのリヒトは、「無理やり体を重ねても意味がない」と言って精々キスくらいの行為しか要求しなかった。けれども……一応、彼だって健全な男性だ。理性が利かなくなって、昨日みたいな行動に及んだとしてもおかしくない。
ああ……駄目だ。あの時の、彼の悲しそうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。もしかしたら、心の底から嫌がっている私を見て想像以上に傷ついたのかもしれない。
ベッドから上体を起こし、体を確認してみる。昨日、リヒトにあちこち触られはしたものの、特に異常は見当たらない。服もちゃんと着ている。
そして、今気付いたのだが……いつの間にか拘束魔法が解除されており、手が自由になっている。私が寝ている間にリヒトが解除してくれたのだろうか。
そんなことを考えながら、昨夜リヒトが枕元で私に言った言葉を思い出す。
──俺はお前の実の弟だけど、お前と愛し合いたい。繋がりたい。結局、この想いは誰にも受け入れて貰えないんだな。世間にも、お前にも……。でも……それでも、俺はお前のことを諦められないんだ。
リヒトは私が眠りにつくまで、虚ろな表情のまま延々と同じようなことを呟いていた。そして、少し痛いくらいの力を込めてずっと私の手を握っていた。
ねえ、リヒト。私、どうしたらいいのかな。
あなたは痛ましいほどに真っ直ぐだ。どんなに傷ついても、拒絶されても、諦めずにひたむきな愛情を向けてくる。そんなあなたを見るのが辛いよ。
私があなたを受け入れれば、あなたは本当に幸せになれるの? 辛い未来が待っているだけだよ?
私は魔力を持たずに生まれてきた時点でお先真っ暗だけれど……あなたは普通の結婚をして、家族を持って幸せになって欲しい。私という重荷に執着しないで、現世を謳歌して欲しい。
そう思うのは、私が現世でネイトと結ばれたいからではないよ。
それなのに……どうして、この想いはあなたに伝わらないんだろう。
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