〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第十一章  ― お前はただ一言「終り」と言えば良いんだ。そうすれば俺は…お前の前から消える…

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「誰だよ?あいつ」

 1週間ぶりに聞く亮の声は桂の記憶そのままにやはり怒っていた。

 桂はあまりに記憶通りの亮の声音にうっすらと笑みを浮かべた。彼にまた会えた事が嬉しくて…亮の吐息が間近に感じられるだけで桂の胸は一杯になる。

 亮は桂が何も言わないのに苛立ったような表情を浮かべると、桂の身体を乱暴に抱き寄せた。 

「誰なんだよ?あいつ。どうして桂の部屋に入るんだよ?」

 言ってギュッと桂の背中に回した腕に力を篭めた。

「大学の後輩だよ。終電ないから泊める事にしたんだ。」

 もう会えないかもしれない…そう思っていたから亮の腕の拘束に胸が激しく高鳴ってしまう。桂もおずおずと亮の背中に腕を回した。

「…で…あいつとセックスするのか?俺がいないから…あいつと遊ぼうと思ったのかよ?」

 頭上から降ってきた亮の冷たい声に桂がぱっと顔を上げた。 

「あ…何言ってんだよ?」

 信じられないような思いで桂は亮を見詰めた。亮の顔は冷たく、そしてなぜか辛そうに歪んでいる。桂は亮の心無い言葉に涙が出そうになるのを必至で我慢する。

 なんで久し振りに会えたのにこんな事言われなきゃいけないんだ…?俺がセックス・フレンドだからか…?桂はショックで亮の腕の中から出ようともがいた。

「放せよ!」

 心の奥底からやっとプライドを掻き集め桂は亮の身体を乱暴に押しやり、腕の中から抜け出した。

 ドンと亮の身体を押すと、自分も一歩後ず去った。亮の顔を桂は睨みつけると怒りを押し殺した低い声でやっと言葉を押し出した。 

「俺が…浮気すると思った?それともすれば良かった?そうすれば契約違反で契約を解除できると思ったかよ?」

「桂…なに言って…?」

 今度は亮の方が驚きで瞳を大きく見開いた。愕然としたような表情で慌てて桂の腕を掴もうとする。

 桂はその手を振り払った。涙声になりそうなのを精一杯のプライドで噛み殺す。

 自分を辛そうに見る亮に桂は泣き顔に笑みを浮かべると呟くように言った。

「バカだな…。俺がそんな事するの待ってなくたって良いはずだろ?お前が健志さんと会ってきて、俺となんか付き合っていられない…、そう思ったならそう言えば良いんだ。山本が終りにする…そう言えば俺は……」

 俺は…お前の前から消えるのに…。その言葉を桂は口に出来ず、ただ亮の顔を見詰めながら嗚咽を押し殺すのに必至だった。戦慄く唇を必至で真横に引き結ぶ。

 亮が桂の瞳を見詰めて逡巡するように視線をさ迷わせた。そして躊躇いがちに桂に手を差し出すと呟くように言った。

「ごめん…ごめん…。桂…悪かった…」

 頼りなげに亮の唇から紡がれる謝罪の言葉。表情を苦しそうに歪め、縋るようなその瞳は不安で揺らめいている。

 壊れ物に触れるように、自分を泣きそうな瞳で見詰める桂を亮は抱き寄せた。

 嫌々をするように身体を捩って抗らう桂の身体を抱きしめると、桂の髪の毛に顔を埋めてくぐもぐった声で呟いた。

「ごめん…桂…。俺…お前居なくて…。携帯も出ないし…。だから…苛々してて…。ごめん…。ごめんな」

 終わりにするなんて…言うなよ…。そう告げる亮に桂はひそやかな涙を零した。 

 どうして、こんなに残酷でそれなのに甘い言葉を言うのだろう…。

 その言葉だけで…俺はいつも流されてしまう。亮が少しの優しい言葉をくれるだけで…。それだけで胸が震えてしまうんだ…。

 桂はコクンと声もなく亮の言葉に頷いていた。
 
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