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72.認識の相違①
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今まで、黙って見ていたミアが、盛大に嘆息する。
「ダニエルは、勘違いしてるわよ。
テオドールがいるから、シリルに気を付けないといけないわけじゃないんだから。テオドールなんて、あくまで標準オプションの一つに過ぎないのよ」
ミアはまるでこの世界の心理でも説明するかの口調で、「シリルはシリルでヤバイ」と流暢に語り出す。
「一見して、テオドールの精神安定剤的マスコットだけど」
「え?マスコット?」
それって、おれのこと?
「真実は、シリルの無謀で謎な行動力を、テオドールが何とかコントロールしてくれているのよ!」
そんなことを言う。
「ちょっと待って。……何?その無謀で謎な行動力って…」
「これまでも、テオドールに取り入るためにシリルを懐柔したり、テオドールを操作するためシリルを利用しようという輩はごまんといたけど」
ミアはおれを完全に無視して、話を続ける。
「え?そんな輩、いついたんだよ」
おれには全く心当たりがない。
「ね?この通りよ」
「いや、本当に何の話なの?」
テオドールに取り入るだって?
何だよ、その不埒な輩は。そんなのがいたら、おれは放っておいたはずがない。
「ふぅ…全く認識せずに、自然体でそういう連中を振り落とし、返り討ちにしてきたんだから。
いくら貴方が盲目になっているといっても、さすがにそれが如何に恐ろしいことか、理解できるでしょう?」
ミアは一体誰の話をしているんだ?
「それに何より。シリルは怒らせると…………ね」
ね、て何?
「普段怒らない人を、怒らせたらダメだよね」
テオドールまで参加してくる。ミアは、「ほんと、それ……いや、本当にそれよ」と実感のこもった唸り声をあげた。
「笑顔で有無を言わせないのよねぇ。圧がすごい、圧が。
精霊力とか、精神的な、肉体的な色々な圧が全部すごい」
「そう。答えはうん、か、はい、だけだからね。ごめんなさい、も、すいません、も通用しない」
「そうそう。で、しばらくおやつに豆が続いたりする。マジひどい」
「僕は、しばらく口を聞いてくれなくなる」
「その人に、何が一番効果的か見定めてるのよね。あんな顔して結構腹黒いっていうか……ああ、恐ろしい」
あんな顔ってどんな顔なんだよ。さっきから、悪口にしか聞こえないんだけど。
「でも、結局はシリル兄さん自身が我慢できなくなって、そわそわしてきて、話しかけてくれるんだけどね」
「わかる。罪悪感が勝って、解禁と共にいきなり豪華なおやつになったりするヤツね」
この二人、やっぱり実はめちゃくちゃ仲いいよね?おれが理解できないことで、意気投合して、共感しあってる。
「だって、そうでしょう。
メーティスト神殿に闇の教団が巣くっているのを知っていて、敵対する存在の“恵みの乙女”を連れてくるなんて、シリルくらいしかしないわよ!」
「だから、ごめんって」
敵の本拠地に連れてきたようなものであって、悪かったと思っている。
でも、本来は女神シュリアーズと弟神メーティストは共に必要な要素であって、決して敵じゃない。
「作物が豊作なのだって然り。シリルが大地の精霊力を大盤振る舞いだからよ」
それに関しては、否定しない。
『ラブプラ』では、飢饉や不作、天候不良が多発した。それを、この世界に当てはめれば『シリル・フォレスター』がいなかったためでは無いかと考えている。
おれ個人の問題ではなく、つまりフォレスターの大地の精霊力を司る直系が不在となったことで、世界の精霊力の流れが乱れたのではないかという説だ。
だから、ミアの言っていることは、理に適っている。
「ダニエルは、近年どうしてこの国に魔物の侵入が少ないと思うの?
シリルが日常的に、意識もせずに、大量に駆除してるのよ。さらに、あり得ない量の精霊力を放って、圧をかけているんだから。
あんなえげつない精霊力を一度でも経験すれば、普通の魔物は領地に入っても来ないわ」
「え?最近魔物が少ないのって、おれのせいなの?」
なんだ、その話は。身に覚えがなさすぎる。
おれは、研究の一環と趣味でそれなりの頻度、珍しい薬草や植物を採りに山奥に分け入っているのだけど、そこで遭遇した魔物を退治している。
けど、それだけであって、特別魔物の駆除をしているという感覚は無い。
おれは前世から動物全般大好きなのだ。前世では感染症やアレルギーのリスクなどから接触を避けてきた。
だからこそ、今世では愛でたいと思っていたのに。
ミアの話からすると、おれは魔物から危険人物扱いされているらしい。動物に好かれないな、とは思っていたけど、さらに最近やけにもふもふに遭遇しないと思っていたが、その理由が自分自身だったなんて。
と、そこでおれはオルトロスの存在を思い出す。
「テオ、一つ聞いていい?」
「うん、何でも聞いて」
「なんで、わざわざオルトロスを召喚したんだ?」
「ダニエルは、勘違いしてるわよ。
テオドールがいるから、シリルに気を付けないといけないわけじゃないんだから。テオドールなんて、あくまで標準オプションの一つに過ぎないのよ」
ミアはまるでこの世界の心理でも説明するかの口調で、「シリルはシリルでヤバイ」と流暢に語り出す。
「一見して、テオドールの精神安定剤的マスコットだけど」
「え?マスコット?」
それって、おれのこと?
「真実は、シリルの無謀で謎な行動力を、テオドールが何とかコントロールしてくれているのよ!」
そんなことを言う。
「ちょっと待って。……何?その無謀で謎な行動力って…」
「これまでも、テオドールに取り入るためにシリルを懐柔したり、テオドールを操作するためシリルを利用しようという輩はごまんといたけど」
ミアはおれを完全に無視して、話を続ける。
「え?そんな輩、いついたんだよ」
おれには全く心当たりがない。
「ね?この通りよ」
「いや、本当に何の話なの?」
テオドールに取り入るだって?
何だよ、その不埒な輩は。そんなのがいたら、おれは放っておいたはずがない。
「ふぅ…全く認識せずに、自然体でそういう連中を振り落とし、返り討ちにしてきたんだから。
いくら貴方が盲目になっているといっても、さすがにそれが如何に恐ろしいことか、理解できるでしょう?」
ミアは一体誰の話をしているんだ?
「それに何より。シリルは怒らせると…………ね」
ね、て何?
「普段怒らない人を、怒らせたらダメだよね」
テオドールまで参加してくる。ミアは、「ほんと、それ……いや、本当にそれよ」と実感のこもった唸り声をあげた。
「笑顔で有無を言わせないのよねぇ。圧がすごい、圧が。
精霊力とか、精神的な、肉体的な色々な圧が全部すごい」
「そう。答えはうん、か、はい、だけだからね。ごめんなさい、も、すいません、も通用しない」
「そうそう。で、しばらくおやつに豆が続いたりする。マジひどい」
「僕は、しばらく口を聞いてくれなくなる」
「その人に、何が一番効果的か見定めてるのよね。あんな顔して結構腹黒いっていうか……ああ、恐ろしい」
あんな顔ってどんな顔なんだよ。さっきから、悪口にしか聞こえないんだけど。
「でも、結局はシリル兄さん自身が我慢できなくなって、そわそわしてきて、話しかけてくれるんだけどね」
「わかる。罪悪感が勝って、解禁と共にいきなり豪華なおやつになったりするヤツね」
この二人、やっぱり実はめちゃくちゃ仲いいよね?おれが理解できないことで、意気投合して、共感しあってる。
「だって、そうでしょう。
メーティスト神殿に闇の教団が巣くっているのを知っていて、敵対する存在の“恵みの乙女”を連れてくるなんて、シリルくらいしかしないわよ!」
「だから、ごめんって」
敵の本拠地に連れてきたようなものであって、悪かったと思っている。
でも、本来は女神シュリアーズと弟神メーティストは共に必要な要素であって、決して敵じゃない。
「作物が豊作なのだって然り。シリルが大地の精霊力を大盤振る舞いだからよ」
それに関しては、否定しない。
『ラブプラ』では、飢饉や不作、天候不良が多発した。それを、この世界に当てはめれば『シリル・フォレスター』がいなかったためでは無いかと考えている。
おれ個人の問題ではなく、つまりフォレスターの大地の精霊力を司る直系が不在となったことで、世界の精霊力の流れが乱れたのではないかという説だ。
だから、ミアの言っていることは、理に適っている。
「ダニエルは、近年どうしてこの国に魔物の侵入が少ないと思うの?
シリルが日常的に、意識もせずに、大量に駆除してるのよ。さらに、あり得ない量の精霊力を放って、圧をかけているんだから。
あんなえげつない精霊力を一度でも経験すれば、普通の魔物は領地に入っても来ないわ」
「え?最近魔物が少ないのって、おれのせいなの?」
なんだ、その話は。身に覚えがなさすぎる。
おれは、研究の一環と趣味でそれなりの頻度、珍しい薬草や植物を採りに山奥に分け入っているのだけど、そこで遭遇した魔物を退治している。
けど、それだけであって、特別魔物の駆除をしているという感覚は無い。
おれは前世から動物全般大好きなのだ。前世では感染症やアレルギーのリスクなどから接触を避けてきた。
だからこそ、今世では愛でたいと思っていたのに。
ミアの話からすると、おれは魔物から危険人物扱いされているらしい。動物に好かれないな、とは思っていたけど、さらに最近やけにもふもふに遭遇しないと思っていたが、その理由が自分自身だったなんて。
と、そこでおれはオルトロスの存在を思い出す。
「テオ、一つ聞いていい?」
「うん、何でも聞いて」
「なんで、わざわざオルトロスを召喚したんだ?」
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