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闇堕ちの魔女
魔法街
しおりを挟む魔法街は、その名の通り魔法に特化した街である。魔法の依頼を受ける魔女や魔法使いの拠点となる家でもあり、占いやまじない、魔法のかかった商品などを売る店舗など、種類は多岐にわたる。
必ずしもそこに拠点を置かねばならない理由はないのだが、同業他者が近くに集まっていたほうが何かと便利なこともあり、少しずつ寄り集まって街が形成されたパターンが多いだろう。
大きい都市であればその一角に集中した魔法街がある場合が殆どだが、ミラノアの場合は少し事情が違う。街全体が魔法街なのである。
バスティーラ小国がそもそも小さい国であるから、魔法街の規模としては大都市のそれと大差はないのだが、領地が一つ丸ごと魔法街というのは他に例がない。
それはかつてバスティーラの王が魔法使いに命を救われたとして、褒美として与えた領地に、いつしか魔法使いが集まってきて出来た、と言われている。故に今も領主はその魔法使いの子孫である魔法使いだし、他の魔法使いは領民なのだという。
「へぇぇ……普通の人間の街に当てはめたら、別におかしいことではないんでしょうけど、街の人がみんな魔法使いや魔女って、何だか不思議な感じですねぇ……」
ミラノアの説明を詳しく聞いて、ラシルがよくわからない感想を漏らすが、リコは小さく溜め息をついた。
「もともと、拝領した土地とはいっても、国の外れの辺鄙な場所だから、それほど価値のある土地ではなかったのよね、本来は」
まだ魔法使いに偏見の多かった時代、恩義を感じつつも国民の反感を買わない程度の褒美を、王が模索した結果なのだろう、と。
「でも、魔女たちにとってはラッキーだった。同族が王様からもらった土地なら堂々と住めるじゃない? そうやって噂が噂を呼び、いつしか魔法使いの街になったと、そういうわけよ」
多種多様な魔法を操る者が集まれば、水は湧き土地は肥え、作物はたわわに実り、辺境にも関わらず大層豊かな土地になった。
「なるほどー」
感心したようにうんうんと頷くラシルに、本当にわかってるのかしらね、と不安になりながらも、まぁいいか、と肩を竦めるリコ。
気を取り直したように顔を上げると、協会長に向き直る。
「とりあえず、ミラノアに行ってみますわ。避難してくる魔法使いに話を聞いてもいいけれど、周囲の様子を見てみたいし」
アントニオは、一瞬眉を寄せたが、大きく息を吐いた。
「確かに、現地で見るのは大事だろうな、何か大きな手がかりがあるやもしれん」
しかし、と言を継ぐ。
「その前にな、行ってほしい場所があるんだ。ちょいと頼まれ事をしておってな」
と言って、今度は笑いを含んだような、悪戯な顔になった。
「行ってほしい場所、ですか?」
「左様。おそらく、あまり気は進まんだろうが、儂としても無下に断れる立場じゃなくてな」
今度は申し訳なさそうでもある。一体、どんなところへ行けというのか、リコたち全員が訝しく思っていると、アントニオはきちんと封蝋が施された見るからに高級そうな封筒を差し出した。
「急ぐわけではないそうだが、もし最果ての魔女が現れたら、それどころではなくなるかもしれんからな」
頼むよ、と遂には懇願の体だ。
(あれってもしかして)
ラシルは珍しく勘が働いて嫌な予感がした。はっきり見えたわけではないし見えたところで判別する自信はないのだけれど、封蝋の紋様は、たぶん。
リコも同様に感じたのだろう、いや、リコのことだから紋様はわかっているに違いない。ということは既に差出人が誰か想像できているのだろう。物凄く複雑な表情でゆっくり封を開け、ラシルもメンディスも覗き込むように一緒にじっくり文面を読み。最後に、自筆のサインを見た瞬間、
「げっ…!」
と、三人揃って上品とは言いがたい声が出た。
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