39 / 42
③
しおりを挟む
そして彼らの後ろから、ある少女が現れる。灰色の髪と赤い瞳の美少女である。
「ララあああああああ! 何故だ、何故俺がララではないのか!」
「この子供は頭をどこかにぶつけたようです」
なんて、第二のセバスチャンは言う。
陛下と呼ばれた男と、陛下モーツァルトが言った。
「お前も名乗りなさい」
「おほほほ、家の者に躾けてもらうとしよう」
やれやれと、首を振りながら答えてやる。
「仕方がない。答えてやろう」
「だから無礼であるぞ!」
「ここまで無知な子供がいるのか」
自分を非難する目がまるで悪役令嬢へ向けられるそれでゾクゾクするぞ!
「俺の名前はシルベリウス・ヴェルヴァッカだ」
「「なっ!?」」
二人の王様はそれを聞くと、顔を真っ青に染め上げ、跪こうとさえする。それを執事達が理解せず止める。
「お、お許しください。知らなかったのです」
「まさかヴェルヴァッカ男爵のご子息――ご令嬢とは」
「俺も知らなかったんだ、こうして君達を知らない子供がいることもある、俺は思い出したからいいものの、気を付けたまえ」
「「は、はいぃ!」」
ふふふ何だか気分がいいぞ、もっと言ってやろう。
「それから跪かないだけで躾けろだなんて可哀想だわぁ。確かに無礼なのかもしれないけど一度くらいチャンスをあげてもいいのではなくて?」
「「は、はいぃ! その通りでございます」」
何故怯える。
二人の様子に皆戸惑っている。まあヴェルヴァッカ家は恐怖支配制らしいからな。
ララが「陛下、この子供がどうしたと言うのですか。男爵令嬢などに陛下がそのような姿を見せては威厳が損なわれますわ」なんて言い出す。
「そ、それより陛下、彼女が手に持っているのは」
そう言ったのは、青い髪青い瞳の少年、イギウォンドだった。
腕の中の丸いピンクのものはもぞもぞと動き、ぴょこんと二つの耳と花の触覚を見せる。
「「「は、花うさぎ~!?」」」
オラルメリア王国一同が声をあげる。白髪碧眼のジンゾウラは少し驚いているだけのように見える。
「何故かこいつがここにいたのだ」
「か、返してください! 花うさぎは私を選んだんですのよ!」
ララは焦った様子で俺の腕から花うさぎを奪い取る。なんと! もうこの頃にはララを選んだと言うことになっているのか!?
花うさぎはブルブルと震え、ぽーんとララの腕から抜け出し俺の胸へタックルしてくる。それを抱き止めれば、擦り寄られる。
何故ここまで懐かれている。そうか! あの悪魔が『なんてったって絶世の美男子だからね。あらゆる方面からモテモテ色気ムンムンだから』なんてことを言っていた! つまり花うさぎは俺に惚れている!
このモテモテどうにかしてもらわないとまた気持ち悪い目に合いそうだな。
「仕方がない、俺の嫁にしてやろう、花うさぎ」
「何の話よ!?」
「落ち着いてください」
イギウォンドがララの前に片手を出し、押さえ、俺の前に立つ。
「父上、ララとの婚約は破棄させてください」
「へ?」とララ。
「は?」と父、オラルメリア国王。
「花うさぎに選ばれたのはこの令嬢です」
どうやらこの王子は早々にララと婚約破棄したいらしい。何故だ、悪役令嬢は神のような扱いを受けるべきであって――そうか、神聖すぎて誰も婚約しない方がいいのか。
「しかし兄上、ヴェルヴァッカ家と言えば、ご子息しかいなかった筈では?」
「何かの手違いで広まった噂だろう」
オラルメリア国王は俺が男だと知っている筈、言わないのはあの悪魔に口止めされているからか? 俺も黒歴史を残したくはない、ここは悪役令嬢へ進化するために令嬢のフリをしておこう。いつか女装しなくなったら、とぼけとけばどうにかなるだろう。
「それよりそろそろむずむずしてきたな」
悪役令嬢を見てしまったからか、早く転生したい気持ちが溢れてくる。誰か助けてくれ、ハッ!!
「その腰にあるのは剣か?」
「ああ、そうだが」
不思議そうにイギウォンドが答える。
「貸してくれ! いや殺してくれ!」
「殺してくれ!?」
「俺は今から悪役令嬢――いや、ララに転生して君達を虜にする役目があるんだ!」
「言ってる意味が分からないのだが!?」
「ええい、言うことを聞け! それが聞けぬのならその剣を貸したまえ!」
「よ、よさないか、自殺など!」
剣を引っ張り取ろうとすれば、邪魔をされる。
陛下達はその様子を見ながら、顔を見合わせ合い、頷き合う。
「男爵令嬢、我がクラストラ皇国の城へお越しいただけませんか?」
城!?
剣から手を離し、「いいのか!?」と聞けば、相手らは頷く。
「我々は今回友好を深めようと会っていたのですが、ヴェルヴァッカ様とも友好を深めたく、ありまして」
「おお、そうか。城か。行ってみたいとは思っていた。行ってやろう」
「ありがとうございます」
貴様ら王様なら頭を下げるな、そう言う前に、執事達が彼らにそれをやめさせる。
「その前にヘテロフォニーの店に入ってみたい!」
「ええ、私達は先に行っておりますので、ごゆっくりどうぞ」
へこへこする王達の様子を民はどんな気持ちで眺めているのか。堂々としておけ! 威張り散らしてガンを飛ばせ! 俺のように!!
ガンをギランギランと飛ばしていれば、「案内します」とイギウォンドに手を差し出される。その所作の美しさに思わず見惚れ、思わず手を乗せてしまった。背後から悪役令嬢の邪気が溢れた気がする。いや、本当に悪役令嬢ララの邪気だった。
ふん、ララなどに悪役令嬢はつとまらん、俺にこそ相応しい! 体を寄越せ! いっそ彼女をモブに転生させてしまおうか……。
ララが何故か体を抱きしめる、寒いのだろうか。
イギウォンドにエスコートされながら店へ入れば、楽器の美しさに惚れ惚れする。
コーダにアルトも王族だから初めて入ったのか、「城下でこれほどいいものが揃っているなんてな?」「ああ、手入れも行き届いている」と驚いている。
王達は1台の馬車で先に行ってしまった。一人の第二のセバスチャンを残して。うん、言ってて意味が分からなかった。
「ヘテロフォニー! ヘテロフォニーはいるか!」
「はいはい~!」
店の奥からやって来たのは自分達と同い年くらいの少女だ。若すぎる、若すぎて分からなかった。
「ヘテロフォニー?」
「ララあああああああ! 何故だ、何故俺がララではないのか!」
「この子供は頭をどこかにぶつけたようです」
なんて、第二のセバスチャンは言う。
陛下と呼ばれた男と、陛下モーツァルトが言った。
「お前も名乗りなさい」
「おほほほ、家の者に躾けてもらうとしよう」
やれやれと、首を振りながら答えてやる。
「仕方がない。答えてやろう」
「だから無礼であるぞ!」
「ここまで無知な子供がいるのか」
自分を非難する目がまるで悪役令嬢へ向けられるそれでゾクゾクするぞ!
「俺の名前はシルベリウス・ヴェルヴァッカだ」
「「なっ!?」」
二人の王様はそれを聞くと、顔を真っ青に染め上げ、跪こうとさえする。それを執事達が理解せず止める。
「お、お許しください。知らなかったのです」
「まさかヴェルヴァッカ男爵のご子息――ご令嬢とは」
「俺も知らなかったんだ、こうして君達を知らない子供がいることもある、俺は思い出したからいいものの、気を付けたまえ」
「「は、はいぃ!」」
ふふふ何だか気分がいいぞ、もっと言ってやろう。
「それから跪かないだけで躾けろだなんて可哀想だわぁ。確かに無礼なのかもしれないけど一度くらいチャンスをあげてもいいのではなくて?」
「「は、はいぃ! その通りでございます」」
何故怯える。
二人の様子に皆戸惑っている。まあヴェルヴァッカ家は恐怖支配制らしいからな。
ララが「陛下、この子供がどうしたと言うのですか。男爵令嬢などに陛下がそのような姿を見せては威厳が損なわれますわ」なんて言い出す。
「そ、それより陛下、彼女が手に持っているのは」
そう言ったのは、青い髪青い瞳の少年、イギウォンドだった。
腕の中の丸いピンクのものはもぞもぞと動き、ぴょこんと二つの耳と花の触覚を見せる。
「「「は、花うさぎ~!?」」」
オラルメリア王国一同が声をあげる。白髪碧眼のジンゾウラは少し驚いているだけのように見える。
「何故かこいつがここにいたのだ」
「か、返してください! 花うさぎは私を選んだんですのよ!」
ララは焦った様子で俺の腕から花うさぎを奪い取る。なんと! もうこの頃にはララを選んだと言うことになっているのか!?
花うさぎはブルブルと震え、ぽーんとララの腕から抜け出し俺の胸へタックルしてくる。それを抱き止めれば、擦り寄られる。
何故ここまで懐かれている。そうか! あの悪魔が『なんてったって絶世の美男子だからね。あらゆる方面からモテモテ色気ムンムンだから』なんてことを言っていた! つまり花うさぎは俺に惚れている!
このモテモテどうにかしてもらわないとまた気持ち悪い目に合いそうだな。
「仕方がない、俺の嫁にしてやろう、花うさぎ」
「何の話よ!?」
「落ち着いてください」
イギウォンドがララの前に片手を出し、押さえ、俺の前に立つ。
「父上、ララとの婚約は破棄させてください」
「へ?」とララ。
「は?」と父、オラルメリア国王。
「花うさぎに選ばれたのはこの令嬢です」
どうやらこの王子は早々にララと婚約破棄したいらしい。何故だ、悪役令嬢は神のような扱いを受けるべきであって――そうか、神聖すぎて誰も婚約しない方がいいのか。
「しかし兄上、ヴェルヴァッカ家と言えば、ご子息しかいなかった筈では?」
「何かの手違いで広まった噂だろう」
オラルメリア国王は俺が男だと知っている筈、言わないのはあの悪魔に口止めされているからか? 俺も黒歴史を残したくはない、ここは悪役令嬢へ進化するために令嬢のフリをしておこう。いつか女装しなくなったら、とぼけとけばどうにかなるだろう。
「それよりそろそろむずむずしてきたな」
悪役令嬢を見てしまったからか、早く転生したい気持ちが溢れてくる。誰か助けてくれ、ハッ!!
「その腰にあるのは剣か?」
「ああ、そうだが」
不思議そうにイギウォンドが答える。
「貸してくれ! いや殺してくれ!」
「殺してくれ!?」
「俺は今から悪役令嬢――いや、ララに転生して君達を虜にする役目があるんだ!」
「言ってる意味が分からないのだが!?」
「ええい、言うことを聞け! それが聞けぬのならその剣を貸したまえ!」
「よ、よさないか、自殺など!」
剣を引っ張り取ろうとすれば、邪魔をされる。
陛下達はその様子を見ながら、顔を見合わせ合い、頷き合う。
「男爵令嬢、我がクラストラ皇国の城へお越しいただけませんか?」
城!?
剣から手を離し、「いいのか!?」と聞けば、相手らは頷く。
「我々は今回友好を深めようと会っていたのですが、ヴェルヴァッカ様とも友好を深めたく、ありまして」
「おお、そうか。城か。行ってみたいとは思っていた。行ってやろう」
「ありがとうございます」
貴様ら王様なら頭を下げるな、そう言う前に、執事達が彼らにそれをやめさせる。
「その前にヘテロフォニーの店に入ってみたい!」
「ええ、私達は先に行っておりますので、ごゆっくりどうぞ」
へこへこする王達の様子を民はどんな気持ちで眺めているのか。堂々としておけ! 威張り散らしてガンを飛ばせ! 俺のように!!
ガンをギランギランと飛ばしていれば、「案内します」とイギウォンドに手を差し出される。その所作の美しさに思わず見惚れ、思わず手を乗せてしまった。背後から悪役令嬢の邪気が溢れた気がする。いや、本当に悪役令嬢ララの邪気だった。
ふん、ララなどに悪役令嬢はつとまらん、俺にこそ相応しい! 体を寄越せ! いっそ彼女をモブに転生させてしまおうか……。
ララが何故か体を抱きしめる、寒いのだろうか。
イギウォンドにエスコートされながら店へ入れば、楽器の美しさに惚れ惚れする。
コーダにアルトも王族だから初めて入ったのか、「城下でこれほどいいものが揃っているなんてな?」「ああ、手入れも行き届いている」と驚いている。
王達は1台の馬車で先に行ってしまった。一人の第二のセバスチャンを残して。うん、言ってて意味が分からなかった。
「ヘテロフォニー! ヘテロフォニーはいるか!」
「はいはい~!」
店の奥からやって来たのは自分達と同い年くらいの少女だ。若すぎる、若すぎて分からなかった。
「ヘテロフォニー?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる