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第六章 真相

【四十七】奇襲(左京)

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奥方様と対面して以降、俺や千鶴ともほとんど会話すること無く塞ぎ込んでいる灘姫。それを見て深く落ち込んでいる奥方様をなだめる為、付きっきりの佐助殿は見るからに苛立っていた。

『左京、これでは埒が明かない。落ち着いてからと思いましたが今すぐ晴明殿の元へ向かう事にします。奥方様には拙者が付く故、姫のことは頼みましたよ?』

「かしこまりました。」

二人を別々の籠に乗せて、宿を出発した。夕刻には晴明殿の元へ到着する予定だ。

『左京、これを…』

姫の乗った籠の前を歩いていた俺に、千鶴が小さく折りたたまれた走り書きを渡してきた。開いて見るとそこには、”暁城跡にて動きあり”と書かれている。

いよいよ、才蔵殿が動きだしたか…。

暫く移動をし、漸く恐山の麓に到着した所で前を歩いていた佐助殿の元へ息を切らしながら近づいている冥国の忍びの姿が見えた。

”佐助殿、取り急ぎ失礼します。敵が、奴らが現れました!!暁国の城主と才蔵と呼ばれる忍びが昨晩、暁城跡に現れたのです!”

秘密事項のはずなのに大声で報告を行った忍びの所為で、その場が騒然としたのは言うまでもない。しかし、その報告はそれ程までに衝撃的な内容だった。籠の中からは奥方様が飛び出し佐助に詰め寄っている。

『今、なんと申したのですか?殿が?生きている?一体どういうことなの?佐助、佐助!どういうこと??』

『奥方様、落ち着いてくださいませ。拙者にも寝耳に水の情報です。現場を確認しないことにはハッキリと申し上げられないのです。しかし、私は城主が息絶えた姿を確認した故、城主が生きているという情報は誤報のはずです。とにかく、拙者は暁国へと至急向かいます。左京と共に晴明殿の元へ急いでください。後のことは晴明殿の指示に従ってくだされば間違いはありませぬ。』

『…いえ、私も一緒に暁国へと行きます!この目で確かめたいのです。それに…殿が、殿が生きているなら、許されなくても話をしなくてはなりませぬ…。』

突然入ってきた情報の内容に心を乱されている上に、自分の言うことをきかない奥方様。佐助殿の苛立ちは最高潮に達していた。

籠が止まり、何やら聞こえる騒ぎ声に籠から顔を出した灘姫様。

『左京、何かあったの?』

これだけの騒ぎである、隠したところですぐに耳に入ることだろう…。

「はい実は昨晩、暁城跡に城主と才蔵と名乗る者が現れたらしいのです。その話を聞き奥方様が取り乱されている状況にございます…」

『え、ち、父上が生きているの?』

「才蔵師匠と連絡は取り合っていましたが、そのような情報は聞いた事もありませぬ。何か裏があるのかとは思いますが、報告にきた忍を見てもあながち嘘をついておるようには見えませぬ故…ハッキリとは申し上げられません。姫様をそちらへお連れしたいのは山々ですが、佐助殿に晴明殿の所へ向かえと命を受けております…ここは申し訳ないですが、恐山へと向かわせて頂きます…」

聞き分けのない子供のように振舞っている奥方様とは違い、落ち着いた大人の対応をしてくださる姫様。なんとありがたいことだ…。

「佐助殿、どう致しましょうか…」

まだ掴みかかられている佐助殿の元に行き指示を仰いだ。佐助殿はうんざりという顔をしてこちらを見ている。
すると突然、佐助殿が動き耳元で囁いた。

『左京…敵襲です。既に囲まれているようだ…この状況の奥方を抱えて闘うのは非常に厳しいですね…くそ、早く才蔵の正体を確かめないといけないのに…』

辺りには確かに、何者かの気配を感じる。

「私は千鶴と共に姫様を護ります!」

俺が佐助殿から離れた瞬間に、佐助殿へ向けてどこからか矢が放たれた。矢を躱すとすぐに飛んできた方向から敵の場所を見つけ追跡に向かった佐助殿。

「千鶴、そちらは大丈夫か?」

『…落ち着いて聞け、この気配はお千代殿の命令で動いている私の仲間達だ。目的は奥方様を捕らえ保護すること。才蔵殿達が動き出した今、安倍晴明に会わせては事がややこしくなりそうだからな。私は姫を護るフリをして移動させる。お主は適当にやり過ごしてくれ。』

敵に殺意がないとわかっていれば動きやすい。確かに今の奥方様は非常に厄介だ…ここは佐助殿に怪しまれぬよう程々に手を出して連れ去ってもらおうではないか。

そして奥方様の方へ戻ろうとした刹那

『きゃーーー、やめてくだ…さい……』

という悲鳴が響き渡った。急いで駆けつけると、奥方様を護っていたはずの三名の冥国忍は既に倒されており、まだ佐助殿が戻ってくる気配もない。とりあえず取り返すフリでもしておくか…

「おのれ、何奴!奥方様を離せ!!」

間合いを取りつつ、クナイを投げつけ威嚇してみるが、全く微動だにしない敵。俺に殺意がないことも気づかれているのであろう。

『左京、どうしましたか?』

追跡に出ていた佐助殿が奥方様と俺の叫び声を聞きつけて戻ってきた。

「申し訳ありませぬ、奥方様が…囚われております…」

『はぁ…もう、いいでしょう。このまま連れ去って頂こうではありませんか。こちらには左京と灘姫がおる故、別に構いません。私は早く才蔵の亡霊に会いに行きたいというのに…これ以上、事を荒立てられても困りますしね。』

冷たく言い放つ佐助殿に奥方様がまた癇癪を起こし金切り声をあげて抗議を始めた。

『左京、そんなことを言うなんて…晴明殿に言いつけるわよ!?早く私を助けなさい!っっうぅぅ…』

また騒ぎ出した奥方様の心臓を目掛けて放たれたクナイが突き刺さり、血飛沫が辺りを赤く染める。力が入らなくなった体は抱えていた忍びの腕をすり抜け、地面に横たわってしまった。奥方様を連れ去ろうとしていた忍びは、何が起こったのかわからない様子で奥方様が崩れ落ちた瞬間にその場を離れた。

「さ、佐助殿…これでよかったのですか…?」

余りに突然に訪れた奥方様の死に動揺が隠せない…。そうだ、この人は自分の邪魔になると判断した者を容赦なく切り捨てる…

『左京?この出来事を目撃したのは拙者と貴殿、それに奥方を抱えていたあの忍だけです。何か問題がありますか?奥方様は突然襲ってきた敵の刃に倒れ、残念ながら絶命してしまった。そうでしょう?』

「は、はい。左様にございまする…」

邪魔者がいなくなり、先程まで見せていた苛立ちの表情は消え元の不気味な笑顔を取り戻した佐助殿。

『左京、姫の姿がみえないようですがどこに行ったのですか?』

「千鶴が数名の護衛を連れて先に恐山へと登り始めたところです。私はどのように動きましょうか?」

『なるほど、邪魔者は消えた事だし拙者は暁城跡へと向かいます。貴殿は千鶴を追いかけるのです。そして晴明殿と合流し指示を仰いでください。では、拙者は先を急ぎます故。』

物凄い速度でこの場から立ち去った佐助殿に恐怖を覚えた。それ程までに才蔵師匠という存在は佐助殿にとって大きいものなのだろう。さて、千鶴殿の元へ向かうとするか。岩場が多く道の悪い不気味なけもの道を気配を頼りに追いかけていると、

突然、”左京”と呼ぶ声が聴こえた。

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