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04 フィットネスラブパニック

恥ずかしい誤算

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04

 「もうエアロバイクをこいでもいいですか?」
 『そろそろいいでしょう。ただし、最初はゆっくりですよ』
 ようやくインストラクターからエアロバイクをこぐ許可が下りる。
 瞳は慎重にペダルをこぎ始める。
 ギア設定が高いわけでもないのに、ペダルは怖ろしく重かった。
 呼吸が苦しく、力を入れにくいせいだろう。
 「はあ、はあ、はあ」
 少しペダルをこいだだけですぐに息が上がってしまう。
 おまけに、あっという間にのどがからからだ。
 体の水分が酸素として消費されているのだ。
 瞳はむせないように慎重にペットボトルから水を飲むと、再度ペダルをこぎ始める。
 「よし、調子が出てきた」
 息が苦しいのは相変わらずだが、だんだん呼吸のしかたのコツが掴めてきた。
 瞳はペダルをこぐスピードを上げる。
 いつも自転車で移動するときより、下半身の筋肉が使われ、代謝が活発化しているのが体感できるのだった。
 
 が、20分もこいでいると、問題が発生してしまう。
 (やだ…おしっこが…おしっこがしたい…!)
 低圧のせいで体が乾く感じがして、水分を取り過ぎただろうか。
 急にトイレに行きたくなってしまったのだった。
 (まずったかな…)
 明後日から明明後日あたりから生理が始まる。
 生理の前後はトイレが近くなることを、すっかり忘れていたのだ。
 「あの、すいません…お手洗いに行きたいんですけど…」
 『与圧に10分かかります。がまんできそうですか?』
 インストラクターの返答に、瞳は絶望的な気分になる。
 急激に強くなる尿意を、10分がまんできる自信がなかった。 
 「どうしても10分必要なんですか?」
 『一気に0.2気圧がかかったら、耳に張り手を食らったようなものです。最悪鼓膜が破れます。
 どうしてもがまんできない場合、左奥の棚に尿瓶が入っていますから、カーテンを引いてどうぞ』
 インストラクターが、ガラス張りのスペースの左奥の角を指さす。
 瞳は、棚とサークル状のカーテンの意味を理解する。
 (でもそれは…)
 カーテンで体を隠しているからいいというものではない。
 女として、トイレでない場所で尿瓶に用を足す行為そのものに抵抗があった。
 「あの…大丈夫です…がまんできますから…」
 強がりでも、そう言わざるを得なかった。
 (ううう…漏れそう…漏れちゃう…)
 椅子に腰掛けて、股間を手で押さえて顔をしかめる。
 あからさまにおしっこがまんを想起させる体勢になってしまう。
 そうしていないと今にも漏れそうなのだ。
 たった10分が、数時間にも感じられた。
 
 「ああ…トイレ…」
 瞳は、なんとか10分間がまんすることができた。
 早足で女子トイレがある方向を目指していく。
 (ああああーー…やっとおしっこできた…。気持ちいいよお…)
 洋式便器に座り、ようやく尿意を解放できた幸福感と安心感に、瞳はつい恍惚としてしまうのだった。

 一方
 (おしっこがまんしてる姿まであんなに色っぽくてきれいだとは…)
 (そういう性癖はない。瞳先輩がトイレをがまんしてる姿が美しすぎて、つい興奮しただけだ…)
 (あの表情と仕草は犯則だろ…。きれいで、すごくセクシーだったし…)
 トレーニングルームに残された克己、勇人、龍太郎は必死で自分に言い訳していた。
 自分は女がトイレをがまんしている姿に興奮するような変態ではない。
 瞳のおしっこがまん姿が、セクシーで美しすぎたのがいけないんだ。
 あんなにきれいで色っぽく悶える姿を見せられたら…。
 そう思わなければ、やましい気持ちでいっぱいになってしまいそうだった。
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