異世界から来た馬

ひろうま

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第4章 深まる絆

第22話 発情 その1

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◆Side アイリス◆
今朝はちょっと身体が熱い気がした。
もしかして、熱が出たのかも知れない。
シメイが来たら相談してみよう。

少ししたら、シメイが来るのがわかった。
いつもなら、馬房から顔を出すのだが、今日馬房の奥で待つことにした。
こうすれば、シメイが中に入って来て、少しなら話しができると思ったのだ。
「アイリス、おはよう。どうしたの?」
「……。」
シメイが馬房の前に来た。
私は近付きたい気持ちを押さえて、頭だけをシメイに向けた。
「もしかして、調子悪いの?」
予想通り、シメイは馬房に入り、私に近付いた。
「ちょっと身体が熱くて……。」
私は、シメイの耳に向けて小声で言った。
「熱があるのかも知れないね。体温測ってみようか。」
シメイはそう言って、私の頚に手を当てた。
「……!」
その瞬間、私は弾かれた様に、シメイにお尻を向けた。
意図しない自分の行動に驚いていると、今度は急に尿意を催した。
「どうしたの?えっ!?」
「ごめんなさい!」
なぜか我慢ができず、腰を落としオシッコを始めてしまった。
シメイに向けてやっていることに、申し訳なさで一杯になった。
オシッコは僅かしか出なかったが、まだ尿意は残っていて、凄く変な感じだった。
やっぱり、どこか悪いのだろうか?
「これは……。アイリス、発情しちゃったの?」
「え?これがそうなの?」
私は、発情というものを生まれて初めて体験したのだった。

その日はシメイは乗らず、リンさんが乗ることになった。
シメイに乗られたら、運動どころではなかった気がするから、正解だったと思う。
しかし、リンさんが乗っても、いつも程運動に集中できなかった。
あと、牡馬が気になった。
運動中はそうでもなかったが、運動前後は私を見て鳴いたりしている牡馬をどうしても意識してしまった。
普段は、牡馬とか全く気にならないのに……。
リンさんは、私を牡馬に近付けない様に気を付けてくれていたようだが、もし近くに彼らがいたら私が反応してしまう気がした。
発情というのは、こんなに自分を変えてしまうものなのか……。
発情しているのに、牡馬を拒んだというお母さんは、実は凄く意思が強いのではないだろうか?

◆Side 紫明◆
朝アイリスの所に行くと、いつも顔を出して僕を迎えてくれるアイリスが、顔を出して来なかった。
「アイリス、おはよう。どうしたの?」
「……。」
馬房を覗くと、アイリスは奥の方に居て、頭だけこちらに向けた。
明らかに、様子がおかしい。
「もしかして、調子悪いの?」
僕は馬房に入り、アイリスに近付いた。
「ちょっと身体が熱くて……。」
アイリスの側まで行くと、彼女は僕の耳に向けて小声でそう言った。
もしかしたら、熱があるのかも知れない。
体温を測るべきかなと思って、ふと気が付いた。
そう言えば、アイリスの体温を測ったことがなかった。
普段はあまり体温を測ったりしないいが、平常時の体温を知るために、入厩したばかりの馬は暫く体温を測ることが多い。
しかし、アイリスにはそれをしてなかった。
馬の体温を測るには、体温計を肛門に挿さないといけないが、彼女にそれをするのは抵抗があったからだ。
しかし、そうも言っていられない。
「熱があるのかも知れないね。体温測ってみようか。」
取り敢えず、身体の熱さを確認しようと、彼女の額に手を当てた。
「……!」
その瞬間、アイリスは急に向きを変え、僕にお尻を向けた。
「どうしたの?えっ!?」
「ごめんなさい!」
アイリスは、腰を落としオシッコを始めた。
「これは……。アイリス、発情しちゃったの?」
「え?これがそうなの?」

「林藤先輩、今日は先輩がアイリスに乗ってください。」
「良いけど、どうしたの?」
「実は……。」
僕は、先輩にアイリスが発情したらしいことを伝えた。
「あら。それじゃあ、紫明が乗ったらアイリスは運動どころじゃないわね。」
「僕が言うのも何ですが、多分そうだと思います。」
「わかったわ。乗る準備も私がやるから、大丈夫よ。」
「済みません。」

「やっぱり、今日は今一つだったわ。」
「そうですか……。」
僕が厩舎作業をしていると、林藤先輩が声を掛けてきた。
『今一つ』というのは、アイリスの運動のことだろう。
「手入れも私がやろうか?」
「いえ、大丈夫です。」
「そう?今日は運動は軽くにしたから、手入れも時間掛からないと思うけど、厳しかったら言ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕は、なるべくアイリスに触れないように手入れをしようと思いつつ、洗い場に向かった。

アイリスの手入れは、極力ブラシで済まし、蹄を洗う時もなるべく体を密着させないように気を付けた。
アイリスは無意識だろうが、僕に身体を寄せて来るので、それを避けるようにした。
僕のそんな様子にアイリスは悲しそうにしていて、凄く罪悪感を抱いたが、これは仕方がないことだと自分に言い聞かせた。
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