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~ 一 ~ 少女と出会う

第三話

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 コードニア大陸――


 平たく言えば異世界。だが、ここに魔法は存在しない。

 しかし、地球という星の世界といくつか異なっていた。

 その一つ――
 この大陸の人、特に女性は走るのが好きだ。そして、かなり速い。なんと、全速力の馬に匹敵するほど!


 そんな世界で人気なのが『メイドレース』である。


 文字通り、――ただそれだけの競技。芝や土のコースをレースメイドと呼ばれる少女たちが疾走する。


 そもそも、屋敷で働くメイドという仕事は、貴族の令嬢が嫁入り前の修行として従事してきた。メイドレースの発展によって、脚の速さもたしなみとされることが付加されたということだ。


 レースで活躍したメイドは、それだけ良家にとつぐことが可能になる。


 レースで活躍できなかった少女たちはどうなるのか?

 どんなに良家の娘でも、良い縁談には恵まれない。下級貴族や平民に嫁ぐならまだ良い。
 どこからも縁談が来なければ、奴隷階級に落とされてしまう。


 つまり、彼女たちにとっても、レースは人生を賭けた戦いだったのだ。


 そんな彼女たちを鍛えるトレーナーは、平民が就ける職業の花形と言って良い。

 ラオ・ススールは若干十七才でその狭き門を突破し、レースメイド・トレーナーの資格を得た。
 わずか五日で上司であるチーム・リーダに嫌われクビになってしまったのだが……


 そして今、行き倒れとなり、見ず知らずの家で介抱されている。

 親切にも、そんなラオに食事を分けてくれた家族――

「どうもありがとうございます……すみません、今は何も持ち合わせていないのですが、いずれ、ご恩はお返しします」

 頭を下げるラオに、「そんな必要はない」と笑う夫婦とその娘。

「みんなお互い様で生きているので、そのお気持ちは誰かのために取っておいてください」

 なんてイイ人たちなんだ――感慨深げになるラオ。なおさら、何か役に立てることはないだろうか――と、考える。

「チカラ仕事でも、何でもイイので……」

「そうだねぇ……街では何をしていたのかね?」

 ラオは素直に答える。
「実はレースメイド・トレーナーの見習いを。五日でクビになりましたが――」

「――えっ?」

 驚いた表情をする家族。まあ、確かにトレーナーは珍しい職業だが――

 夫婦は互いの顔を見てうなずくと、こう切り出した。

「あのう、もし、よろしかったら、このコを指導してもらえませんか?」


「――――――――えっ?」
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