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~ 一 ~ 少女と出会う

第十話

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「腕は走る方向へ真っすぐ振る。前より後ろに引くことを意識すること。肘は直角に曲げたまま動かさない」


 朝食前に、ジョギングも兼ねて谷入口の坂へ向かった二人。到着すると早速、フォームを指導する。

 言われた通りに腕を振ってみせるニーニャだが、かなりぎこちない。

「なんか、後ろに下がって行くような気がしますぅ……」

 コツがつかめない――とブツブツ言う。


 ラオは「口を動かすより腕を動かせ」と指示しながら、その動きを細かくチェックした。

(肩甲骨周りの駆動域が広い。持って生まれた才能だな)

 柔らかいカラダはケガに強いだけなく、体幹のバランスを取るのにも有効だ。代謝も早い。イイことずくめなのだ。


「まずはそのフォームに慣れることだな。あと一カ月、しっかりカラダに染み込ませるぞ」

 その腕振りを続けながら、ゆっくりと走らせてみる。

「頭を下げない! あごを引け! 胸を張れ! を突き出す感じだ!」

「ち、って⁉ トレーナー、いやらしい!」

 顔が真っ赤になるニーニャ。

「腕が下がったぞ! ムダ口たたいているからだ!」


 一時間ほど、坂を上り下りした。
(うーん……コイツ、想像以上に不器用だ)

 腕の振りを注意すると頭が下がる。頭を注意すると手足がバラバラに動く。

「……仕方ない、今朝はここまでにしよう」

 一カ月あれば余裕――と思っていたのだが……

(うーん、間に合うだろうか……)


 何より、ニーニャがバテバテだった。今までの筋トレに比べたら、運動量はたいしたレベルではない。なのに頭を使ったせいか、ボロ雑巾のように疲れ果てている。

「なんか、頭の中がグチャグチャですぅ……」

(そんなに難しいことを言っていないのだが……)
 ヤレヤレと思うラオ。

「それじゃ、午後はいつもの筋トレを三セット。夕方は村をジョギングで一周だ」

「えっ? まだ筋トレをやるんですか⁉」

「当たり前だ。レースメイドを引退するまで、筋トレは毎日やること!」

 それを聞いてがっくりと肩を落とすニーニャ。

 まだ、本格的な練習も開始していないのに、泣き言ばかりだ。

(はあ……まずは、レースメイドとしての心得を教える必要があるな……)


 それから、あっという間に一カ月が過ぎ、トライアウト前日。

 一時はどうなるかと心配したニーニャの走りも様になってきて、すっかりレースメイドのそれである。


「よし! いい走りだ。明日も緊張せず、今の走りができれば、問題ないだろう」


 口ではそう言って見せたが、実のところ「問題ない――」というレベルじゃなかった。

 軽めに流しただけでも、かなりのタイムで坂を駆け上っている。こんな田舎の舗装も充分でない道でだ。

 明日はレース場を走る。

 整地されたコースならば、いったいどんなタイムが出るのか――そう考えるとワクワクする。


「ありがとうございます! トレーナーの教え方が上手だからです! やっぱり、なんですね!」

「……………………はあ?」

 ち、乳首?

を突き出すように走ると、自然にカラダが前へ出るんです! がカラダを引っ張ってくれるような感じで――それはもう、気持ちイイくらい!」

「……はあ」

ってスゴいんですね! まさかにこんな使い方があるなんて思わなかったです!」

「そ、それは良かった……だけど、人前で『チクビ』を連呼するのは止めような……」


 何かキッカケをつかんで、ある日突然才能が開花する――

 人間でも、競走馬でも良く聞く話だが……
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