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~ 二 ~ チーム・ラオ始動!
第四十一話
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ゼッケンの一番から順番に挨拶と意気込みを伝えていく。
その間――
(全力で頑張りますのでよろしくお願いします……)
心の中で何度も練習する。
あっという間にニーニャの番になった。
進行役のアナウンサーがニーニャの前にきて――
「さて、五番はレース前からいきなり大きく逸走してしまったニーニャ・アウグストです」
(……えっ?)
スタンドから笑い声が湧く。
逸走とはコースを間違えること。レース場にはラチがあるのでめったにコースを間違えることはないのだが、レース場のレイアウトによっては、コースを間違えるレースメイドがいる。
このキートレース場も内回り、外回りがあり、年に何度か「逸走」のハプニングが発生していた。
そして、内回りコースは四コーナーが非常に急なカーブとなっていて、勝負所で大きく膨らんでしまい 距離を余計に走ってしまうメイドも多い。
四コーナーをどれだけロスなく回るかが、このレース場の見どころでもあるのだが……ニーニャはレース前から早くも「逸走娘」の称号を得るのであった。
「あ、あのう……イッショウしないように、頑張りまシュ……」
噛みまくりのメタメタな挨拶……
(うえーん。トレーナー……もう帰りたいよう……)
本人は落ち込んでいたが、実はこの逸話でニーニャのファンが急増したらしい。世の中、わからないものだ……
「それでは、このレースのダントツ一番人気。エスカフローネ・アウグストです! さすが名門アウグスト家のご令嬢ですね! 自信のほどは?」
「正直、戸惑ってます……」
スタンドがざわつく。
「ですが励みにもなります。私の姉たちは華麗に勝利することも使命付けられていました。ですが、私は泥臭くても勝ちにこだわりたいと思ってます。皆さんの期待に沿えるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」
歓声と拍手。
優等生的な受け応えだ。
彼女を応援している者は全員納得したことだろう――
(やっぱり、カッコイイなあ……)
ニーニャもそんなことを考える。
「さて、大外十二番、現在二番人気のシュテフィ・アウグストです! アウグスト一門同士の対決ですね。いかがですか?」
そう質問されたが、シュテフィは無言のままだ。
「――おとなしい人なんですね……えーと、この十二人で新人戦が争われます! スタートまであと十五分! 各自、ウォーミングアップへ向かってください!」
その言葉で、一斉に散らばるレースメイドたち、コース全体に広がって、各々好きなように体を動かす。
ニーニャもコース上に出て軽く流す。トライアウト以来のキートレース場。しかし、雰囲気は全く違う。
まるで要塞のようなスタンドにはたくさんのメイドレースファンによって埋め尽くされていた。
まだ午前中――なのに、ものスゴい熱気。
これが本番なんだ――と気持ちが高鳴る。
トライアウトの時と同じモノもある。
(やっぱり、走りやすい……)
きれいに刈り込んだ芝は程よいクッションを作っていた。
トレセンのコースも芝なのだが、手入れが全然違う。走ると気持ち良くカラダが弾んだ。
『思いっきり走りたいという気持ちはレースまで取っておけ!』
ラオの言っていた事を思い出す。確かに全力で走ったらどんなに気持ちイイだろう――
ラオの言い付け通り我慢していると「走りたい!」という感情が膨れ上がり、緊張感が和らいだ。
逆回りで四コーナーから三コーナーへと向かう。そこはなだらかな坂。
レースではここを駆け下る。キートレース場の名物だ。坂を利用してペースを上げてしまうと急な四コーナーを曲がりきれず、大きくタイムをロスしてしまう。
したがって、三コーナーにある坂の頂上で好位置に付ける必要があるのだが、そこまでに足を使うと四百メートルある直線が持たない――そういった難しいコースレイアウトになっているのだ。
坂の頂上でニーニャは一度立ち止まり、振り返る。こうして見るとかなりの勾配だった。
(よし、やるぞ!)
気持ちが盛り上がってきた時、スタート地点で大きな赤旗を振っているのが見えた。集合の合図である。
その間――
(全力で頑張りますのでよろしくお願いします……)
心の中で何度も練習する。
あっという間にニーニャの番になった。
進行役のアナウンサーがニーニャの前にきて――
「さて、五番はレース前からいきなり大きく逸走してしまったニーニャ・アウグストです」
(……えっ?)
スタンドから笑い声が湧く。
逸走とはコースを間違えること。レース場にはラチがあるのでめったにコースを間違えることはないのだが、レース場のレイアウトによっては、コースを間違えるレースメイドがいる。
このキートレース場も内回り、外回りがあり、年に何度か「逸走」のハプニングが発生していた。
そして、内回りコースは四コーナーが非常に急なカーブとなっていて、勝負所で大きく膨らんでしまい 距離を余計に走ってしまうメイドも多い。
四コーナーをどれだけロスなく回るかが、このレース場の見どころでもあるのだが……ニーニャはレース前から早くも「逸走娘」の称号を得るのであった。
「あ、あのう……イッショウしないように、頑張りまシュ……」
噛みまくりのメタメタな挨拶……
(うえーん。トレーナー……もう帰りたいよう……)
本人は落ち込んでいたが、実はこの逸話でニーニャのファンが急増したらしい。世の中、わからないものだ……
「それでは、このレースのダントツ一番人気。エスカフローネ・アウグストです! さすが名門アウグスト家のご令嬢ですね! 自信のほどは?」
「正直、戸惑ってます……」
スタンドがざわつく。
「ですが励みにもなります。私の姉たちは華麗に勝利することも使命付けられていました。ですが、私は泥臭くても勝ちにこだわりたいと思ってます。皆さんの期待に沿えるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」
歓声と拍手。
優等生的な受け応えだ。
彼女を応援している者は全員納得したことだろう――
(やっぱり、カッコイイなあ……)
ニーニャもそんなことを考える。
「さて、大外十二番、現在二番人気のシュテフィ・アウグストです! アウグスト一門同士の対決ですね。いかがですか?」
そう質問されたが、シュテフィは無言のままだ。
「――おとなしい人なんですね……えーと、この十二人で新人戦が争われます! スタートまであと十五分! 各自、ウォーミングアップへ向かってください!」
その言葉で、一斉に散らばるレースメイドたち、コース全体に広がって、各々好きなように体を動かす。
ニーニャもコース上に出て軽く流す。トライアウト以来のキートレース場。しかし、雰囲気は全く違う。
まるで要塞のようなスタンドにはたくさんのメイドレースファンによって埋め尽くされていた。
まだ午前中――なのに、ものスゴい熱気。
これが本番なんだ――と気持ちが高鳴る。
トライアウトの時と同じモノもある。
(やっぱり、走りやすい……)
きれいに刈り込んだ芝は程よいクッションを作っていた。
トレセンのコースも芝なのだが、手入れが全然違う。走ると気持ち良くカラダが弾んだ。
『思いっきり走りたいという気持ちはレースまで取っておけ!』
ラオの言っていた事を思い出す。確かに全力で走ったらどんなに気持ちイイだろう――
ラオの言い付け通り我慢していると「走りたい!」という感情が膨れ上がり、緊張感が和らいだ。
逆回りで四コーナーから三コーナーへと向かう。そこはなだらかな坂。
レースではここを駆け下る。キートレース場の名物だ。坂を利用してペースを上げてしまうと急な四コーナーを曲がりきれず、大きくタイムをロスしてしまう。
したがって、三コーナーにある坂の頂上で好位置に付ける必要があるのだが、そこまでに足を使うと四百メートルある直線が持たない――そういった難しいコースレイアウトになっているのだ。
坂の頂上でニーニャは一度立ち止まり、振り返る。こうして見るとかなりの勾配だった。
(よし、やるぞ!)
気持ちが盛り上がってきた時、スタート地点で大きな赤旗を振っているのが見えた。集合の合図である。
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