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~ 三 ~ 約束

第五十六話

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 レース当日――

「ニーニャ、ガンバってね!」

 ガスリー伯爵のメイド寮を出発するとき、メイファンから声を掛けられる。

「う、うん――」

 昨日、ラオから言われたことを思い出すと、「頑張る」という言葉を素直に言えない。

「今日勝てば、ラオさんも伯爵との約束を守れるわけでしょ?」

「――えっ? 約束?」

 ニーニャが理解していないようなので、メイファンは「あれ?」という表情を見せる。

「ニーニャが今年中に重賞を勝たなければ、ラオさん、トレーナーをにされると聞いたのだけど……」

「――あっ」


 トライアウトの日――

『今年のうちに重賞を勝つ』
 そうガスリー伯と約束したのをニーニャは思い出した。

 それは、ラオの指導でこれからもトレーニングを続けたい――という自分のワガママからだった。


 まだ、年末までにいくつか重賞は残っている。しかし、ラオは「来年チャンスがある」と言っていた。

(今日が今年最後のレースということ? ということは、もし今日、勝てなかったら――)

 急に黙り込んだニーニャをメイファンは心配する。

「もしかして、緊張させてしまった? ごめんなさい……そんなつもりじゃ……」

 申し訳なさそうにメイファンがうつむくので、ニーニャは慌てて「違うの」と誤解を解いたあと――

「ありがとう、メイファン。大事なことを思い出させてくれて!」

 手を取って感謝を伝える。

「えっ? ええ……」

「それじゃ、行ってきまーす!」

 ニーニャは勢い良く寮を飛び出した。


 *


『さあ、本日のメインレース! キート・フィフティーンステークスです! 今年デビューしたメイド達による戦い。来年のクラシック戦線を占う重要な一戦でもあります!』

 メインレースだけあって、スタンドは満員。声援もスゴい!

『まずは、ゼッケン番号一番! ニーニャ・アウグスト!』

 顔をパンパンと二度たたき、芝のコースに飛び出したニーニャ。「ウォーッ‼」という大歓声に驚くが、手を振って応える。

『前走は最後方から直線だけで十四人全員を差し切る――という派手なパフォーマンスを見せてくれました! ただし、今日は距離延長ということもあり、三番人気となっています』


 ニーニャは馬場の状態を確かめる。午前中まで降っていた雨は止み、今は少し陽も差している。さすがに良馬場――とまでは回復していないが、気になる程でもないと感じた。
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