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~ 四 ~ 草メイドレース

第七十三話

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 走ったら大ケガ――?

 いきなり小さい子供にそんなことを言われて、なんて返せばイイのかわからなくなるラフレシア。代わりにイライザが――

「チビ! わかったような口をたたくじゃないよ! イイかい? 私たち奴隷は走らなければメシを食わせてもらえないんだよ!」
「だからって、このままじゃ……」
「イイから出て行きな! 邪魔なんだよ!」

 そう言って引っ張るイライザの手を振り払い、もう一度ラフレシアに向かうラオ。

「お姉さん、うつぶせになって!」
「うつぶせって――ここで?」
「イイから!」

 今度はラオが彼女の手を引っ張り、無理やり床に寝かす。
 そして、彼女のハムストリングに触れた。

(うわっ! 女の子の脚って柔らかい!)

 この脚に顔を埋めたらきっと気持ちイイことか……なんて考えるが、慌てて頭を振り、雑念を払う。

(今はそんな場合じゃない――)
 ラオは集中して手に伝わる体温を感じ取る。

「ちょ、ちょっと――?」
「おい! 子供だからって、調子に乗りすぎだ! 男共を呼ぶぞ」
 イライザの脅しにもひるまない。

「……右足だけ熱い。やっぱり肉離れを起こしているんだ」
「――えっ?」

 イライザは目を見開く。
「シア、本当なのか?」

 彼女の質問に、目を背けることで答えるラフレシアだった。
 彼女はレース結果がショックで塞ぎ込んでいたわけではなかった。肉離れの痛みに耐えるため、じっとしていたのだ。

「とても走れる状態じゃない。次のレースは棄権――」
「そんなの無理よ!」
 急にラフレシアが大声を出す。

「みんなだって、どこか痛いところを抱えているの!」

 そう言われ周りを見る。どの女の子も疲労が顔に出ていた。

「肉離れなんて気にしていられないの! キャンディやジャスミンの方が私よりひどいケガで、とても走れないの。私が休んだらレースが成立しなくなって、私たち全員食べさせてもらえないのよ!」

「そ、そんな……」


 奴隷小屋にいるレースメイドは九人。そのうち、二人が走れない――

 今日は四レースあるので、一人三レースは走らないと、レースが成立する五人出走にならないのだ。


 彼女たちはレースの掛け金で得られた収益によって食べさせてもらっている。レースが成立しなければ、食事がもらえないのである。

(何か……何か方法はないのだろうか――)
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