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第3章 美しき華炎の使者
148.第3章 プロローグ
しおりを挟む夏が終わりに近づいて来たこの頃。
オルフィード王国の貴族たちは、こぞってある噂話に夢中になっていた。
あの美しき王太子殿下が、ついに婚約をする――という話だ。
階級の高い貴族たちは、一体誰が婚約相手に選ばれたのかと、家同士、腹の探り合いに懸命になり。
そういう家の令嬢たちは、皆自分が選ばれるのが当然だという態度で、何処に出掛けるにも目一杯着飾り、そこかしこで社交の会話に火花を散らした。
王太子との婚約なんて雲の上、といった様子の下級貴族の令嬢たちは、自分こそがと見栄を張る令嬢たちに、物陰から後ろ指を指した。
そんな騒ぎの最中、貴族たちの家へと届いたのは、王宮主催の舞踏会への招待状。
まことしやかに流れる噂と絶好のタイミングで届いた招待状に、勘の良い貴族たちは、これこそが王太子の婚約発表の場なのだろうと色めきだった。
噂の重要アイテム、末端の貴族までもが必死に手に入れようとするその招待状が、そういった騒ぎとはあまり関係のなさそうな、国立大図書館リブラリカにも届いていた。
「…………」
職員の過ごす作業棟よりも、もっと奥深く――大賢者に選ばれた者しか立ち入ることのできない、最奥禁書領域。
その場所で、ひとりの女性が微かに震える指先で、招待状を持っていた。
上質な便箋が、手の中で少しだけ皺になるほど、掴む手に力がこもる。
――無力な自分を、こんなに悔しく思ったことはない。
哀しみに似た複雑な感情に、きつく瞳を閉じる。
瞼の裏、大切な友人たちの笑顔が浮かんだ。
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