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370 真夏の恐怖体験 後編
しおりを挟む私の質問に王子はパチパチと目を瞬く。
こうして眼鏡をかけている姿を見ると、色違いの彼とますます似て見えますね。
「ああ、僕によく似た弟がいるが……僕が魅了堕ちして幽閉された後は、順番的にアイツが立太子したんじゃないかな? 生真面目で僕よりしっかりしているから大丈夫だとは思うが、アイツ、あれで方向音痴なところがあるからなぁ……」
あ……察し。
なるほど。やはりウチに迷い込んだ本物ソックリさんは王子の血縁者だったようだ。そして、精霊さんのイタズラに巻き込まれた被害者だと思っていたけど、どうやら本人の資質の問題だったらしい。流石は兄弟。顔だけでなく、あらゆる方向性を気にしないところがよく似てる。
「召喚主、なんで急にそんなことを聞くんだ?」
「…………ぇえ~と。ほら、王子ってうちのお兄ちゃんにやたら懐いているしさ。兄弟とかいるのかな~って思って」
王子だって家族のことは気になるだろうし、本当のことを教えてあげたいけれど……王子に言うと、日記を通して偽王子さん達にも情報が筒抜けになってしまいますからね。そこは親切心よりも保身を優先させてもらいます。
安全第一! 命大事に!!
「そっか。実はずっと『普通の兄弟』に憧れてたんだよね。ほら、ウチは兄弟いるとすぐ権力闘争でドロドロの殺し合いとかに発展しちゃうからさ。ああ、さっき言った弟とは母親が同じだから特にギスギスはしてないぞ。側妃が生んだ他の弟妹は知らないけど」
――――なんか、最後の最後ですごいの出てきた。
「ほら。元々、僕の住んでる幽閉塔はそうやって権力闘争の果てに送られた王族が多いからさ。無念のうちに亡くなった先祖が死んでも死にきれずにその辺ウロウロしているんだよ。幽閉されてすぐの頃は自分を陥れた王族への恨みからか夜な夜な凄い顔で僕を脅かしに来たけど、途中から仲間意識が芽生えたのか新入り扱いでやたらフレンドリーになったし。サービスで、政敵への恨み節とともに実際に起こった出来事を臨場感たっぷりに話してくれるんだ。僕が王子教育で習った内容とは随分と違ったけど、まあ、歴史ってのはそういったことの積み重ねだよね。本人達の口から直に聞くのは中々勉強になるよ。生きた教育っていうのかな? 教える方は死んでるけど。王族は見える人が多いんだから、魔物の食事マナーと一緒に思い切って王子教育にも取り入れればいいのに。案外、僕が見つけた裏の王国史もそうやってできたのかもしれないね。実は僕も暇潰しがてら日々の日記に書き留めてるんだ。見返したときに所々黒塗りされているのは、彼らがやっているのかな? ペラペラ話しておいて自ら消すのは意味が分からないけど、幽閉中は話し相手もいないし、逆に話せるときにはテンション上がって饒舌になっちゃうんだよね。うっかり話しすぎちゃうその気持ち、僕にも分かるよ。そうやって話すだけ話したら満足していなくなっちゃう奴も多いしさ。せっかく仲良くなった相手がいなくなるのは寂しいけど、先祖が成仏できたなら喜ばないといけないよね。それ差し引いても、話が通じる奴から通じない奴まで幽閉塔にはゾロゾロいるし。でもまあ、最近ではお互い嫌な思いをしないように、きちんと住み分けができてるんだ。友好的な奴は部屋の窓に自分の影とか映して、留守中の小細工にノリノリで協力してくれるから助かるよ。鈴木さんからお小遣い貰ったし、こんど百均のお菓子でも供えてやるかな。大体がその辺飛んでる精霊に横取りされちゃうんだけどね。あと、ダンジョン猫。魚系のおやつは大体アイツにやられるな。ダンジョン猫といえば、アイツ僕の部屋でたま~に空中の変なとこ見てるんだよ。僕に見えてない幽霊でもいるのかな? そう考えるとちょっと面白いよね! あはは」
……って、いや、怖えよ!
そんな内心のツッコミが王子に届くわけもなく、その後も最新の情報漏洩を食らいながらガチの心霊話で彩られた機密情報を垂れ流されるという、とんでもない恐怖体験をする羽目になってしまった。
いや、もう、ほんと色んな意味で勘弁して。
そんなのゾロゾロいるとか、絶対、幽閉塔とか行けないわー……
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