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13 許されないことをしたのに(リュシー視点)
しおりを挟む「……ごめんなさいね、リュシー。迷惑をかけてしまって。昨夜はうるさくって、眠れなかったでしょう?」
容体が落ち着くと、全てが元通りになった。窓際に在るベッドに横たわり、弱弱しい声で謝る彼女。
夜、彼女は発作を起こしたのだ。
知らなかったのだが、どうやら彼女のベッドには心臓の機能を補助するための魔法がかけられているらしい。彼女のベッドだけが他と違うのはその為だった。決して、他のベッドと間違えることのないように。
私の勘違いで。私の下らない嫉妬のせいで。私が彼女の命を奪ってしまうところだった。
悪いことをしたのは私の方だ。
彼女は何も悪くないのに。
……それなのに。
「何で、貴女が謝るのよ。私が窓際のベッドをとったからいけないのに」
「だって……あれは私のせいだもの」
「え?」
「わざわざ消灯時間にトイレに行って……既に寝ているリュシーを私が起こしちゃったのだもの。リュシーが寝ぼけてベッドを間違えても仕方がないわ。消灯ギリギリまで本を読んでいないで、もう少し早く行けばよかったの。それに、私……他にもリュシーに悪い事をしちゃった。私はずっとこの部屋で一人だったから。同年代の子が来てくれたのが嬉しくて――これからは色々なことを二人で相談して決めていかなきゃいけないのに、つい、それを忘れてしまったの。ごめんなさい、気が付かなくて。リュシーだって、ベッドは窓際の方がいいわよね?」
「別に……そんなこと。だって…私、見えないのに」
「見えなくたって、暖かい日差しは感じるわ。雨上がりの匂いはするし、心地よい風だって感じるでしょう……? 同じ猫獣人だもの。好きな物は分かるわ。それなのに……ずっと、独り占めしちゃっていてごめんね? 今度からはちゃんと順番にしましょうね」
「……っ! 違…う、の。私……私、は」
別に寝ぼけたのでも、窓際が羨ましかったわけでもない。
ただ――妬ましかっただけだ。それで少しでも彼女に嫌な思いをさせたかっただけ。
――それなのに。
こんな風に言ってくれたのは彼女が初めてだった。
……いつだって、私は何かが足りなくて。最初から与えられないのが当然で。
だから最初から全てが足りていそうな貴族の子に八つ当たりをしてしまった。私のせいで取り返しのつかない事態になるところだった。
なのに、彼女はどこまでも優しくて。
公平……で――――。
嬉しい気持ち。彼女が助かってホッとした気持ち。戸惑い。
自分自身が恥ずかしいと思う気持ち。そして、今更ながらに感じた、自らの行いに対する――恐怖と罪悪感。
あらゆる感情が一気に押し寄せて、頭の中がぐちゃぐちゃで。今、自分が何を思っているのかが分からない。
ただ――。
ポタポタと。見えない目から流れる熱いものが止まらない。ソレをどうするべきなのかも分からない。
そんな時。
温かい手で。
いいニオイのする布で。
ソレを優しく拭ってくれるのも、やっぱり彼女で――――。
「…………ごめんな、さ…、私……っ!」
そのことにもいたたまれなくなって、泣きながら全てを話したらビックリしていたけれど、彼女は笑って許してくれた。
そして。
「ふふ……、素直にごめんなさいって言えて、リュシーはエライわね!」
そう言って、彼女のベッドに突っ伏してまだ泣いている私を撫でてくれた。最初は頭。次に、すっかりしょげ返っている、私の耳。
元気づけるように、何度も何度も何度も。「大丈夫よ、リュシー、大丈夫だから……」と私に言い聞かせながら。
言葉も、態度も、手つきも、ニオイも。
彼女はそのどれもが優しくて。
産まれや育ちが違っても。そして、私が心や体にどんな問題を抱えていても。彼女は最初から何も変わらない。彼女が貴族であることも関係ない。
きっと、これは彼女自身が持って産まれた性質なのだ。
何もかもが私とは違って――――真っすぐで優しい彼女。
――――私は、彼女が大好きになった。
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