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25 追いかけてきた番(リベルタside)
しおりを挟む「……リベルタ嬢っ!!」
背後からかけられた声に、リベルタはビクリとその身を震わせた。
リベルタが聞き間違える筈はない。
だって、この声は――。
「良かった、まだ居たのだな」
声の方へと振り返れば、案の定先ほどまで緊張の中で対面していた人物がこちらへと駆け寄ってくるところだった。
(乗り切った、と思ったのに……)
その声で。名を呼ばれるだけでリベルタが身を震わせるほどに喜んでいたのは昔の話だ。今では厄介ごとの予感しかしない。
それでもここを乗り切らなければリベルタの望む未来は手に入らない。
リベルタは油断しかけた自分に気合いを入れ直して、これから先の延長戦を覚悟した。
「あの……何か御用でしょうか。流石にこの歳では他の参加者に知り合いもおりませんし、竜王様への御挨拶が済んだのでお暇しようかと思ったのですが……。……はっ! もしや、私が国を出てから慣例が変わって、途中退席が失礼にあたってしまうとか……? だ、だとしたら申し訳ございません! 私の確認不足ですっ」
リベルタがこの国を出てから既に10年以上の月日が経っている。旅の途中で放逐された王子を拾い、共に一国を立て直すのに要した時間と同じだ。
決して短い時間ではない。何か制度が変わっていてもおかしくはない。
番の認識範囲外に出てからは毎日が忙しく――楽しく。
リベルタが母国を思い出すこともほとんど無かったので、その可能性にまでは考えが及ばなかった。
一刻も早く「今の」自分の国へと戻りたくて焦っていたせいもある。
実家の爵位を人質に無理やり呼び出されたリベルタの11回目のデビュタント。
用事が終わり次第すぐ帰るつもりだったので、特に何も考えず供も連れずに会場となる城まで来てしまった。使用人さえ連れてくればリベルタは先に馬車へと乗り込んで身を隠せたし、預けていた荷物の受け取りも任せられたのに。
そうすればこうしてヴァールに見つかることも無かった。
詰めが甘かった。
リベルタ自らが受け取りに行った上着と荷物を手に、嫌な汗が伝う。
「ああ、いやいや。そうではない。わが国の成人の儀を兼ねたデビュタントには他国からの賓客も多くあるのでな。予期せぬ交渉事で終了時間が遅くなることもあるし、国王への挨拶が終わった新成人の途中退席は今まで通り許している。その……そうではなく、少し、リベルタ嬢に確かめたい事があって」
「結婚のことでしたら先ほど……」
「ああ、それはよいのだ。ただ――その」
確かめたい事と言われ結婚のことかと思い焦ったが、どうやらそうではないらしい。と、いうことは番の件は上手く誤魔化せたということか。最大の危機は乗り切っているようだ。
しかし、そうなるとヴァールはいったい何が言いたいのだろうか。こうして帰ろうとしていたリベルタを会場の外に追いかけてきてまで確かめようというのだから、よほどの事だろう。
ヴァールは口を開いたり閉じたり。何かを言いづらそうにしているが、その度にリベルタは身構える。今日は朝から緊張の連続だった。これ以上の緊張感には耐えられそうもない。
何でもいいのでとにかく早く会話を終わらせてほしい……とリベルタが目で訴えると、何故だか切なげな視線を返された。
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