◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

文字の大きさ
44 / 70

ヴァレンタインの贈り物

しおりを挟む
 2月に入り、買い物に来たデパートの催事場で行われていたヴァレンタインコーナーを眺める。


……青海くんにチョコなんてあげたら嫌がられちゃうかな……?

 ……青海くんに時々お菓子やチョコをお裾分けすると美味しそうに食べてくれていたし、甘いものが嫌いではなさそうである。

 真実は昔から甘いものが嫌いで滅多に口にすることはなかったので毎年チョコを渡すことはなかった。

 おじいちゃんとお父さんの分……。

 父も祖父も毎年チョコを渡すと嬉しそうに受け取ってくれたので今年も渡すとして……青海くんの分……どうしよう?

 去年の夏に告白してフラれてしまって以来何となく距離を置かれてしまっている気配があるし、迷惑だろうか?

 父と祖父のチョコを買い、転勤でそばにいない父の分は郵送した。

 その事を母に連絡する。

 「今年は透くんにもチョコあげたら?一緒に住んでるんだし、仲良くしてもらってるんでしょ?」

 ……そう言われて、迷いながら青海くんのチョコを一応用意した。

 母は『渡せなかったら自分で食べたらいいじゃないの』と言っていたので自分の一番好きなメーカーのチョコを買った。

 ……まあ最悪チョコ食べれるからいいか。

 そう思い直しながらも、やっぱり青海くんに受け取ってもらえたらいいなあと思っていた。






 「水野さんおはよう、いつもありがとう。これどうぞっ★」

 青海くんに可愛らしい猫のイラストが描かれた紙袋を渡されたのはヴァレンタインの朝だった。

 「えっ……?」

 思わず青海くんの顔を見つめると、青海くんは照れた様に笑った。

 「今日は感謝を伝える日なんでしょ?だから……ねっ?」

 「あ、ありがとう」

 嬉しそうな顔の青海くんになんとかお礼を言う。

 ……チョコを渡すはずが、逆に渡されてしまった……

 思わぬ展開に激しく動揺してしまう。


 
 キッチンに入ってきた真実にも同じように言葉をかけ、青海くんはやっぱり照れた様に笑う。

 「シンジもこれっ!いつもありがとねっ★」

 真実には少し大きめの袋を手渡す青海くん。

 「んっ?ああ今日ヴァレンタインか。ありがとな、透。来月なんか返すから」

 そう言いながら真実はものすごく嬉しそうな顔をしている。

 「んっ?来月って?」

 聞き返した青海くんに真実が簡単にヴァレンタインの説明を始める。

 「今日って女の子が男の子に愛を伝える日なの??それで来月はその返事をする日があるんだ?」

 不思議そうな声を出す青海くん。

 真実と青海くんの会話を聞きながらそっと貰ったばかりの紙袋の中身を見る。

 「かわいいっ……」

 真っ白な猫を模った缶に入ったチョコレートだろうか。猫の瞳はガラス玉が嵌め込まれ、キラキラと輝いている。

 可愛いし、綺麗な缶だ。

 手に取って陽の光に当てると瞳の色が変わって……中々凝っている物のようだ。

 ……すっごくかわいい……

 ひと目見て気に入ってしまった。


 
 「えっ、オレやり方間違っちゃったのか……」

 少し残念そうな声を出す青海くんと目が合う。

 青海くんヴァレンタインの事をあまり知らなかったようだ。

 感謝の気持ちを伝える日だと誰かに教えられた青海くんは、律儀にも私と真実にそれを実行してくれたようだった。

 「……返してなんて言わないでね?」

 缶を抱きしめながらそう言うと面白そうに青海くんは微笑んだ。

 「言わないよ、オレやり方間違えちゃったみたいだけど、気にせず受け取ってね。まあオレからの感謝の気持ちって事でっ」

 『オレってばバカだな……』そう言いながら笑う青海くんを見ていると胸が熱くなる。

 ……やっぱり青海くんのこと……好きだな……

 真実と嬉しそうに戯れる青海くん。

 真実はご機嫌で出掛けて行ってしまった。

 

 青海くんと二人、キッチンに残される。

 ……迷惑かもしれない。
 でもやっぱり青海くんにチョコ渡したい!

 私は青海くんにそのままここに居てくれるようにお願いして、チョコを取りに部屋に戻る。

 ……嫌がられちゃったら……悲しいな……でも青海くんもここまでしてくれたのだから……


 急いでキッチンに戻ると青海くんはちゃんと待っていてくれた。

 「水野さん今日どうする?真実は出かけちゃったし、お昼の……」

 「青海くん!これっ!!」

 用意していたチョコを青海くんに手渡す。

 「えっ!?これ、オレにくれるの!?」

 驚いたように声をあげた青海くん。
 迷惑がられると涙が出てしまいそうだったので、青海くんの顔を見ないようにしていた。

 「……ありがとう」

 そう言ってくれた青海くんになんとか言い訳をする。

 「ごめんね、こんなことして……青海くんに嫌がられるかもって思ったんだけど、渡したかったの……」

 それだけ伝えて部屋に戻る。



 ……青海くん怒らせてしまってないだろうか?

 部屋に戻ってベッドに寝そべる。

 ……一度フラれているのにしつこいって思われてないかな……

 色々と考えてしまう。

 ……やっぱり渡さない方が良かったのかな?


 
 そう考えていると部屋のドアがノックされ、ドアが開いた。

 ……青海くんにチョコ突き返されたら……

 「おい泉、なんか透具合悪いみたいだから様子見てやれ!悪いけど俺浅川と待ち合わせてるんだ。頼んだぞ?」

 真実だった。
 真実はそれだけ言うと再び出て行ってしまう。

 ……青海くん調子悪いのに真実ったら出かけちゃうの?

 慌てて起き上がって階下に降りる。

 ……もしかして私がチョコ渡したりなんかしたから?

 後悔しながらキッチンのドアを開けると青海くんが壁に寄りかかりながら座り込んでいた。

 「青海くん大丈夫!?」

 声をかけて側に寄ると青海くんがびくりとした。

 私はそのまま青海くんの側にしゃがみ、額に触れる。

 ……熱はないみたいだけど……

 「青海くん、調子悪いんならすぐ病院行こうか?立てる?」

 そう声をかけ、立ち上がる。
 病院に行くのなら、タクシー呼んだ方が……

 そう思った瞬間に青海くんに手をつかまれた。

 「……青海くん?」

 「オレっ……水野さんが好きだっ!」

 青海くんはそう言った。
 
 ……私のこと……好きって……?

 青海くんに手を握られる。

 「いつもオレに優しくしてくれて、笑ってくれて、抱きしめてくれた水野さんが好きだよ。オレの話聞いてくれたし、バイト先にも来てくれて嬉しかった。花火大会の時の浴衣姿だってすっごく綺麗で可愛くって……」

 青海くんは赤い顔で一生懸命に私に想いを伝えてくれる。

 「それからっ……!!」

 私は我慢できなくなって青海くんを抱きしめる。

 ……青海くんに好きって言ってもらえた……

 青海くんが愛おしくって、嬉しくてたまらなかった。



 
 「……去年は……ごめんね。オレ……誰かを好きになれる自信がなくって……水野さんのこと……泣かせて……」

 青海くんが私の背に手を回しながらそう言ってくれた。

 「全然……いいの。青海くんが好きって言ってくれただけで充分……」

 青海くんの身体からふっと力が抜けていくのがわかった。

 「……好きだよ。水野さん……」

 「……水野さんじゃなくって……泉って呼んで?」

 青海くんに抱きしめられながらそうお願いする。

 「分かったよ、泉……。だからオレのことも……」

 私は青海くん……透の顔を見上げる。

 「透っ、大好きっ!!」

 そう言いながら透の頬にキスをした。

 「えっ!?っっ!?」

 真っ赤な顔で驚く透の姿は本当に可愛くて、たまらなかった。


 

 
 

 
 

 
 

 
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...