◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

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佐藤さん

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 透と真実が居なくなったこの家は私たちには広すぎた。

 ……にもかかわらず、海は相変わらずだ。

 透がしばらくの間自分の家に帰ったと伝えたら、海は目に見えて喜んでいた。

 「そりゃあそうだよ、だってアイツは他人なんだし。なんで泉の家に居候してるのかずっと謎だったんだよね。泉アイツなんかと付き合ってたなんて、何か弱みでも握られてたの?」

 そんな事を言う。

 「それに真実も真実でしょ。アイツのこと心配しすぎたよ。っていうか真実ってアイツのこと好きなの?笑えるんだけど」

 ……言いたい放題だ。

 「透のことは、私がっ……私から付き合ってってお願いしたんだよ。だから2人のこと悪く言わないで……」

 そう言ったが海は気にする様子は無い。

 ただ、『泉は優しいから……』そう言って相手にしてもらえなかった。








 週明けに学校で透に会えた。

 透は困ったように微笑む。

 「おはよう、泉」

 その顔を見ただけで思わず泣きそうになってしまった。

 「おはよう透……」

 なんとか涙を堪えて挨拶を返す。

 ……もっと、言いたいことがあった。

 話をして、きちんと謝りたかった。

 できれば時間がある時に、2人きりで……。

 しかしその話をする前に始業チャイムが鳴ってしまい、放課後に持ち越すことにした。







 お昼休み……透がそそくさと席を立つ。

 今日も何処かに行こうとする透……

 今日こそはきちんと海を注意しよう、もう3年の教室に来るのを止めさせよう。

 「透、今日は海の事断るから教室でご飯食べよう?」

 そう声を掛けたが透は首を振った。

 「いいよ、オレの席使ってもらって。今日は図書館に用があるから……」

 透は席から離れてドアのほうに歩いて行く。

 ちょうどその時海が教室に入ってくるところだった。




 「あっ、佐藤さん!この前はありがとう。楽しかったよあの本」

 透が教室を出ようとしていたクラスの女の子に声を掛けて、一緒に教室を出て行く。

 「っ……」

 それを見た時、私は何も考えられなくなっていた。

 ……

 ……

 「……だよねっ、泉っ」

 目の前の海が何かを言いながら笑う。

 ……

 透……?

 透……すごく楽しそうに笑っていた。

 ……頭の中が真っ白になる。

 そんな私たちの横から浅川さんの声が聞こえる。

 「なあに、透クンってば。もう佐藤さんとウワキ?」

 更に真実の冷たいひと声……

 「別にいいんじゃないか?佐藤なら透の事大事にするだろ」

 ……

 ……


 真実には何度も海をきちんと躾けろと言われていた。

 透を蔑ろにさせるな、海に注意をできるのは私だけだと……

 ……


 透……私のこと嫌いになったのだろうか?


 何も考えられずにただ透が出ていったドアを見つめる……。

 



 ★



 お昼休みが終わるギリギリの時間に、海は教室に戻って行く。

 透も、佐藤さんもまだ図書館から戻っていなかった。

 ……一緒にいるんだろうか?

 そればかりが気になって仕方なかった。

 始業チャイムが鳴る直前に二人は帰ってきた。

 心なしか、二人とも楽しそうに見えた。

 ……。


 透の顔を見ることができずに、教科書を読んでいるフリをしてしまう。

 ……心が、マヒしてしまったかの様に何も考えられなかった。

 ……透……佐藤さんといる方が楽しそうだ……

 ……私なんか……

 涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。

 

 

 



 
 
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