◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

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出発っ★

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 「泉、窓際に座らなくって本当にいいの?」

 透が不思議そうな顔で私に問う。

 「うん、透こそ折角の旅行なんだから外の景色とか見たいでしょ。私は慣れてるから……透が楽しんでくれる方が嬉しいなっ」

 そう言いながら心の中では、透が窓際に座っててくれていた方が外を見るフリをしながら透の事が見れる……と思っていた。

 
 すぐ前の席でも同じような会話が交わされている。

 「窓際の席は陽に焼けるから……シンジ座っていいわよ」

 「ああ、俺はどっちでもいいぜ」

 真実も浅川さんの隣に座る。

 



 とうとう楽しみにしていた透との修学旅行がやってきた。

 透と真実には計画を内緒にしていた。

 透は昨日の夕方、夜に部屋で真実と一緒に食べる用のお菓子を楽しそうに買い込んでいた。 

 それに釣られて私も一応お菓子を買った。

 『浅川さんってどんなお菓子が好きなんだろうね?真実はおせんべいとかかなあ?……あ、泉これ好きでしょ?バスの中でこれ食べようっ』

 ……修学旅行準備だったけれど、透とあれこれ話しながらするお買い物は楽しかった。

 

 
 「じゃあ、お隣失礼します。よろしくね」

 そう言いながら透が座席に座る。

 その隣に座ると透の腕に自分の腕が触れる。

 すぐそばに透がいる……それだけですごく嬉しかった。

 







 バスが走り出し、高速道路に入った。

 その頃から透の口数が減っていることに気づく。

 「楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったからかな……なんだか少しダルくって……ごめんね折角隣に座ってくれたのに……」

 そう言いながら目を閉じた透。

 「私のことは気にしないでいいから少し寝てて?……ツラかったら言ってね?」

 持っていたハンカチを透の目元に掛けてあげると透は微笑んだ。

 「泉のハンカチ……すごくいい匂いだね……安心する……」

 そんなことを言って、少ししたら眠り始める。

 肘置きに力なく置かれた透の右手に触れるとそっと握り返してくれたので、そのまま手を繋ぎ続けていた。

 

 時折バスの車内が騒がしくなり、その度に繋いだ透の手の指先が痙攣する……

 透は人が多いのは苦手なようだった。

 教室にいるときでも同じようで、生徒たちが休み時間に騒いでいるときはさりげなく教室から出て行くことが多かった。

 バスのように逃げ場がない場所はしんどいことこの上ないだろう。

 ……だからこそ余計に旅行に来たがらなかったのではないだろうか?

 それに気づいた時、透と修学旅行に行きたいなんて思ったことを後悔した。 

 透と出掛けたかったのなら別に2人で行けばよかったのだ。

 もう少し待てばきっと今年も夏休み中におじいちゃんが旅行に誘ってくれたはずだ。

 去年の夏休みに出掛けた山の別荘に行った時は車内で透は体調を崩さなかったし……少人数での旅行はヘイキそうだった。

 

 無理に誘うようなことしちゃってごめんね……

 透の手を両手で包み込んでそっと撫でる。

 後悔の念が強まり、視界が少しづつ揺らぎ始めた頃にバスは最初の目的地の駐車場に入って行った。








 「んっ……着いたの?」

 先程よりしんどそうな声が聞こえ、透が身体を起こす。

 ……この様子だと観光を楽しむどころではないだろう。

 「透、調子悪いのか?」

 前に座っていた真実が窓を少し開け、心配そうな顔で振り返る。

 「オレ……このまま寝てるから、真実達と行っておいでよ」

 透が私を見て微笑む。

 ……透の顔色が悪い。

 こんな透を放っておいて観光なんてできるわけもないし、そばにいたかった。

 「私ここに来たことあるから別に行かなくてもいいかな……透は1人の方がいい?邪魔だったら外にいて時間潰してくるけど……」

 そう言うと透は困ったような顔で微笑んだ。

 「泉なら……そばにいてくれた方が嬉しい……」

 透のその一言が嬉しい。

 「冷たいお茶かお水少し飲む?喉乾いたから自販機行って何か買って来るけど」

 「ありがとう……お茶……お願いできるかな……」

 透のひとことにほっとしながら自販機に行き、側にあった売店で蜂蜜の入った飴を見つけたので買った。

 

 バスに戻ると真実のヘッドホンを付けた透が1人眠っていた。

 静かになったバスの車内で少し楽になったのか、透が穏やかな寝息を立てながら眠っている。

 そのすぐ隣に座って、透と手を繋ぐ。

 静かな車内で透の寝息を聞いていると、私まで眠くなってくる。

 透の手を握りながら、いつしか私も眠りに落ちてしまっていたようだ。




 



 

 
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