69 / 70
出発っ★
しおりを挟む
「泉、窓際に座らなくって本当にいいの?」
透が不思議そうな顔で私に問う。
「うん、透こそ折角の旅行なんだから外の景色とか見たいでしょ。私は慣れてるから……透が楽しんでくれる方が嬉しいなっ」
そう言いながら心の中では、透が窓際に座っててくれていた方が外を見るフリをしながら透の事が見れる……と思っていた。
すぐ前の席でも同じような会話が交わされている。
「窓際の席は陽に焼けるから……シンジ座っていいわよ」
「ああ、俺はどっちでもいいぜ」
真実も浅川さんの隣に座る。
とうとう楽しみにしていた透との修学旅行がやってきた。
透と真実には計画を内緒にしていた。
透は昨日の夕方、夜に部屋で真実と一緒に食べる用のお菓子を楽しそうに買い込んでいた。
それに釣られて私も一応お菓子を買った。
『浅川さんってどんなお菓子が好きなんだろうね?真実はおせんべいとかかなあ?……あ、泉これ好きでしょ?バスの中でこれ食べようっ』
……修学旅行準備だったけれど、透とあれこれ話しながらするお買い物は楽しかった。
「じゃあ、お隣失礼します。よろしくね」
そう言いながら透が座席に座る。
その隣に座ると透の腕に自分の腕が触れる。
すぐそばに透がいる……それだけですごく嬉しかった。
★
バスが走り出し、高速道路に入った。
その頃から透の口数が減っていることに気づく。
「楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったからかな……なんだか少しダルくって……ごめんね折角隣に座ってくれたのに……」
そう言いながら目を閉じた透。
「私のことは気にしないでいいから少し寝てて?……ツラかったら言ってね?」
持っていたハンカチを透の目元に掛けてあげると透は微笑んだ。
「泉のハンカチ……すごくいい匂いだね……安心する……」
そんなことを言って、少ししたら眠り始める。
肘置きに力なく置かれた透の右手に触れるとそっと握り返してくれたので、そのまま手を繋ぎ続けていた。
時折バスの車内が騒がしくなり、その度に繋いだ透の手の指先が痙攣する……
透は人が多いのは苦手なようだった。
教室にいるときでも同じようで、生徒たちが休み時間に騒いでいるときはさりげなく教室から出て行くことが多かった。
バスのように逃げ場がない場所はしんどいことこの上ないだろう。
……だからこそ余計に旅行に来たがらなかったのではないだろうか?
それに気づいた時、透と修学旅行に行きたいなんて思ったことを後悔した。
透と出掛けたかったのなら別に2人で行けばよかったのだ。
もう少し待てばきっと今年も夏休み中におじいちゃんが旅行に誘ってくれたはずだ。
去年の夏休みに出掛けた山の別荘に行った時は車内で透は体調を崩さなかったし……少人数での旅行はヘイキそうだった。
無理に誘うようなことしちゃってごめんね……
透の手を両手で包み込んでそっと撫でる。
後悔の念が強まり、視界が少しづつ揺らぎ始めた頃にバスは最初の目的地の駐車場に入って行った。
★
「んっ……着いたの?」
先程よりしんどそうな声が聞こえ、透が身体を起こす。
……この様子だと観光を楽しむどころではないだろう。
「透、調子悪いのか?」
前に座っていた真実が窓を少し開け、心配そうな顔で振り返る。
「オレ……このまま寝てるから、真実達と行っておいでよ」
透が私を見て微笑む。
……透の顔色が悪い。
こんな透を放っておいて観光なんてできるわけもないし、そばにいたかった。
「私ここに来たことあるから別に行かなくてもいいかな……透は1人の方がいい?邪魔だったら外にいて時間潰してくるけど……」
そう言うと透は困ったような顔で微笑んだ。
「泉なら……そばにいてくれた方が嬉しい……」
透のその一言が嬉しい。
「冷たいお茶かお水少し飲む?喉乾いたから自販機行って何か買って来るけど」
「ありがとう……お茶……お願いできるかな……」
透のひとことにほっとしながら自販機に行き、側にあった売店で蜂蜜の入った飴を見つけたので買った。
バスに戻ると真実のヘッドホンを付けた透が1人眠っていた。
静かになったバスの車内で少し楽になったのか、透が穏やかな寝息を立てながら眠っている。
そのすぐ隣に座って、透と手を繋ぐ。
静かな車内で透の寝息を聞いていると、私まで眠くなってくる。
透の手を握りながら、いつしか私も眠りに落ちてしまっていたようだ。
透が不思議そうな顔で私に問う。
「うん、透こそ折角の旅行なんだから外の景色とか見たいでしょ。私は慣れてるから……透が楽しんでくれる方が嬉しいなっ」
そう言いながら心の中では、透が窓際に座っててくれていた方が外を見るフリをしながら透の事が見れる……と思っていた。
すぐ前の席でも同じような会話が交わされている。
「窓際の席は陽に焼けるから……シンジ座っていいわよ」
「ああ、俺はどっちでもいいぜ」
真実も浅川さんの隣に座る。
とうとう楽しみにしていた透との修学旅行がやってきた。
透と真実には計画を内緒にしていた。
透は昨日の夕方、夜に部屋で真実と一緒に食べる用のお菓子を楽しそうに買い込んでいた。
それに釣られて私も一応お菓子を買った。
『浅川さんってどんなお菓子が好きなんだろうね?真実はおせんべいとかかなあ?……あ、泉これ好きでしょ?バスの中でこれ食べようっ』
……修学旅行準備だったけれど、透とあれこれ話しながらするお買い物は楽しかった。
「じゃあ、お隣失礼します。よろしくね」
そう言いながら透が座席に座る。
その隣に座ると透の腕に自分の腕が触れる。
すぐそばに透がいる……それだけですごく嬉しかった。
★
バスが走り出し、高速道路に入った。
その頃から透の口数が減っていることに気づく。
「楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったからかな……なんだか少しダルくって……ごめんね折角隣に座ってくれたのに……」
そう言いながら目を閉じた透。
「私のことは気にしないでいいから少し寝てて?……ツラかったら言ってね?」
持っていたハンカチを透の目元に掛けてあげると透は微笑んだ。
「泉のハンカチ……すごくいい匂いだね……安心する……」
そんなことを言って、少ししたら眠り始める。
肘置きに力なく置かれた透の右手に触れるとそっと握り返してくれたので、そのまま手を繋ぎ続けていた。
時折バスの車内が騒がしくなり、その度に繋いだ透の手の指先が痙攣する……
透は人が多いのは苦手なようだった。
教室にいるときでも同じようで、生徒たちが休み時間に騒いでいるときはさりげなく教室から出て行くことが多かった。
バスのように逃げ場がない場所はしんどいことこの上ないだろう。
……だからこそ余計に旅行に来たがらなかったのではないだろうか?
それに気づいた時、透と修学旅行に行きたいなんて思ったことを後悔した。
透と出掛けたかったのなら別に2人で行けばよかったのだ。
もう少し待てばきっと今年も夏休み中におじいちゃんが旅行に誘ってくれたはずだ。
去年の夏休みに出掛けた山の別荘に行った時は車内で透は体調を崩さなかったし……少人数での旅行はヘイキそうだった。
無理に誘うようなことしちゃってごめんね……
透の手を両手で包み込んでそっと撫でる。
後悔の念が強まり、視界が少しづつ揺らぎ始めた頃にバスは最初の目的地の駐車場に入って行った。
★
「んっ……着いたの?」
先程よりしんどそうな声が聞こえ、透が身体を起こす。
……この様子だと観光を楽しむどころではないだろう。
「透、調子悪いのか?」
前に座っていた真実が窓を少し開け、心配そうな顔で振り返る。
「オレ……このまま寝てるから、真実達と行っておいでよ」
透が私を見て微笑む。
……透の顔色が悪い。
こんな透を放っておいて観光なんてできるわけもないし、そばにいたかった。
「私ここに来たことあるから別に行かなくてもいいかな……透は1人の方がいい?邪魔だったら外にいて時間潰してくるけど……」
そう言うと透は困ったような顔で微笑んだ。
「泉なら……そばにいてくれた方が嬉しい……」
透のその一言が嬉しい。
「冷たいお茶かお水少し飲む?喉乾いたから自販機行って何か買って来るけど」
「ありがとう……お茶……お願いできるかな……」
透のひとことにほっとしながら自販機に行き、側にあった売店で蜂蜜の入った飴を見つけたので買った。
バスに戻ると真実のヘッドホンを付けた透が1人眠っていた。
静かになったバスの車内で少し楽になったのか、透が穏やかな寝息を立てながら眠っている。
そのすぐ隣に座って、透と手を繋ぐ。
静かな車内で透の寝息を聞いていると、私まで眠くなってくる。
透の手を握りながら、いつしか私も眠りに落ちてしまっていたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】
雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる――
その声の力に怯えながらも、歌うことをやめられない翠蓮(スイレン)に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。
優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。
誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているの――?声に導かれ、三人は王家が隠し続けた運命へと引き寄せられていく。
【中華サスペンス×切ない恋】
ミステリー要素あり、ドロドロな重い話あり、身分違いの恋あり
旧題:翡翠の歌姫と2人の王子
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる