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遡って…過去を見つめる

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 「私…船に乗るのって初めて…」

 泉が振り返る。

 「寒いね…中に入ろう」

 客室に入り、座る場所を探す。

 

 冬の日本海は荒れる。

 道中見た日本海は真っ暗で、波飛沫が凄かった。

 …どうしてだろう、すごく不安になる。

 
 なんとか二人で座れる絨毯席に座り、泉に毛布を渡す。

 
 「透は船に乗るの…何度目?」

 「えっ…?」

 そう聞かれて初めて自分がこの船に乗るのが初めてではないことに気づく。

 「あれっ…どうしてオレ…」

 考えるがはっきりとしない。

 あれはいつだっただろうか…。

 頭を抑えながら記憶を辿る。

 …あれは確か…手を引いていたのは知らないおじさんとお姉さんだ…

 おじさんに毛布を渡され、お姉さんにご飯を食べさせてもらった。

 
 …。

 それ以上は思い出せずに目を閉じる。

 「透…」

 泉が手を伸ばしてきて顔に触れる。

 「船が着くまでまだ時間もあるし、少し寝よう?」

 





 高速道路を北上し、北陸の都市部に着く。

 そこから船に乗って約3時間、観光業が盛んなある島に到着した。

 船着場でタクシーを拾うと泉が目的地を運転手に告げる。

 …泉はどこに行くつもりなんだろう…

 泉に聞くがただ微笑むばかりで教えてもらえなかった。

 

 タクシーで1時間ほど走った辺りから何故か見覚えのある光景が目に映りだす。

 「…どうして?」

 戸惑いながら目に映る光景に懐かしさを覚える。

 田んぼの真ん中にある鳥居や山道…。

 山道を抜け、トンネルを抜けるとそこには真っ黒な日本海が広がった。

 …大荒れなのがすぐに分かる。

 胸の奥がザワザワとして、不安になる。

 …どうしてこの景色を知っているんだろう。

 長い緩やかなカーブを降りるとそこに広がる住宅地…。

 それを見た瞬間分かってしまった。

 …ここは昔暮らしていた場所だ。

 頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる…

 不意に泉が繋いでいた手を握ってきた。

 …。

 「…泉…どうして…?」

 泉は泣きそうな顔で、それでも微笑んでくれた。

 「すみません、この辺りで降ろしてください…」

 泉が運転手に声を掛けて、車を停めた。

 ……。

 その場所は…昔の家々が立ち並ぶ…

 自然と震えながらも手を引かれて、記憶に残る町並みを歩く。

 …近寄りたくない…そう思っているはずなのに足が動く。

 ここの角を曲がると…多分…。

 昔住んでいた家があるはずだった。

 「…もう何年も前に取り壊されたんだよ…」

 泉は呟く。

 「…そうなんだ…」

 泉と二人でぼんやりと空き地を眺めた。

 「前に住んでた家…見たかった?」 

 泉に聞かれて首を振る。

 「いや…もう見たくなかったから良かったかも…」


 泉はそのまま歩き出したのでそのまま着いていく。

 …殴られて、気を失うと落とされた川は思ったよりも小さかった。

 立ち止まり、ぼんやりと川を眺めた。

 「…行こう…透…」
 
 泉は何かを知っているのか…繋いでいた手を引いて歩いていく。

 山の中腹にある小学校…昔は重苦しい嫌な感じしかしていなかったが、今見ると普通の建物である。

 …泉はどうしてオレが育ったこの町の事を知っているんだろう。

 そんな疑問が頭に浮かぶ。

 「見晴らしが良くって…夏に来たら綺麗なんだろうね。…透は毎日海を眺めながら学校から帰っていたの?…」

 泉が立ち止まったのは高台にある広場だった。

 ここは小学校からの帰り道にある公園で、たまに一人で時間を潰していた場所でもある。

 「夏はここから…あの岩に向かって夕陽が沈んで行くのが見えるんだよ…」

 「そうなんだ…見たいなあ…」

 泉がふうっとため息を吐く。

 「私も小さい頃の透と夕陽…見れたら良かったのに…」

 暗くなりかけた水平線を眺めて泉がそう呟いた。

 …今日はあいにくの曇り空だった。

 海から吹き付ける風は冷たく、身体を冷やしていく。

 「透…そろそろホテルに移動しようか。寒くなってきちゃった」

 「…うん」

 ホテルに着いたら、どうして泉がこの町の事を知っていたのか聞こうと思った。

 

 
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