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お揃いの…
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ガチャン!!
背後で激しい音が聞こえて驚いて振り向くと走り去るすずしろの背中が一瞬見えた。
「ん?何落としたんだ?」
床を見ると真っ二つに割れた湯呑みとほんの少し残っていたお茶がこぼれていた。
「あっちゃー、やっちゃったか……すずしろ、怪我してないか?」
可哀想に驚いてしまったのか毛を逆立てたすずしろがキャットタワーの最上部からこちらを見ていた。
「すず、びっくりしたよな、大丈夫だから……」
そっと手を伸ばして優しく撫でてやると落ち着いたのか、すずしろは毛繕いを始めた。
どうやら怪我はしていないようだ。
ホッとしながら割れた湯呑みを片付けようとしゃがみ込んだ。
……これは泉の湯呑みだ……
テーブルの上には無傷で残る自分の湯呑みがあった。
……まずいな……
この湯呑みは以前取材先の有名な陶芸家さんが作ってくれたもので、泉は気に入っていたもののようだった。
この湯呑みを嬉しそうに使っている泉の姿が思い出す。
……泉が帰ってきたら謝らなきゃな……
それとできる限り早く……全く同じものは無理かもしれないが、似たようなものを作って貰わなければ……
そう思いながら割れた湯呑みを拾い纏めた。
★
「ただいま~良い匂いっ!今日はごはんなにかな?」
玄関のドアが開き、泉の声が聞こえてきた。
「お帰りなさい。今日はロールキャベツにしてみたんだ」
珍しくすずしろが玄関にダッシュをしなかった。
泉を迎えに玄関に行こうとするとすずしろが遠慮がちに後をピッタリとくっついて歩き始める。
……すずしろなりに反省しているのかもしれないな……
「あら、今日は仲良しなのね。どうかしたの?」
面白そうな顔で泉がオレ達を見つめた。
すずしろを抱き上げて一緒に泉に謝った。
「泉……ごめんなさい。泉の湯呑み……今朝割っちゃって……オレがもっと早く片付ければ良かったんだけど……」
そう言うと泉は一瞬悲しそうな顔をしたがすぐに微笑んでくれた。
「あの湯呑み……そっか。気に入ってたんだけど、割れちゃったんなら……仕方ないよ。気にしないで?」
泉はそう言ってくれたが、一瞬見せた悲しげな表情を見逃せなかった。
「あ、でも同じのは無理かもしれないけど、似たようなのまた作って貰えるように頼んでみるから、それまでよかったらオレの湯呑み使ってよ。オレのも手触りとか良いと思うよ」
泉にそう言うと泉はそっと首を振った。
「いいから……本当気にしないで」
そう言いながら泉は微笑んだ。
「……」
★
件の陶芸家さんと連絡を取り、なんとか都合がつく日にもう一度作って貰えることになった。
ホッとしながら泉にその事を伝えるが、困ったように微笑むだけだった。
「……おんなじのは無理だけど、きっと気に入ってくれると思うよ。それとも他に何か理由があったりする??オレが割っちゃったんだからできる限りの事はするから……」
そう言うと泉はやっと口を開いた。
「あの湯呑み……透が私の名前入れてくれてたでしょ。だから……」
……!?
「泉……気づいてくれていたんだ?」
泉が頷く。
取材に行った時作って貰った湯呑みの底に自分と泉の名前を彫らせて貰っていた。
何の気なしに名を入れたものだったが、泉は気づいてくれていたようだ。
「器自体は正直なんでも良かったの。ただ、透が私の名前を入れてくれたのが嬉しくって……」
泉が照れたように笑う。
……なんだ、そう言う事だったのか。
「……ああ。そんなに気に入ってくれてたんならもう一回入れようか?なんなら今度は一緒に行ってお互いが使う湯呑み作ってこようよ。確かそういうのもやってるはずだよ」
そう言うと泉が嬉しそうに頷いた。
「ただなあ、オレそんなに器用じゃないから使いにくい湯呑みになっちゃったらごめんね?」
ニコリと笑った泉が首を振る。
「透が私のために作ってくれたものだから……どんなものでも嬉しいよ。それに私の方が上手く作れるか……でも面白そうだねっ」
★
出来上がって送られてきた湯呑みを2つ並べて……泉が楽しそうに写真を撮ったり、オレが作った湯呑みを大切そうに撫でるのを見ていると自然と笑みが漏れてしまう。
オレが作った湯呑みも泉が作った湯呑みもお世辞にも上手いと言える出来ではなかったが、それが寧ろ良かった。
世界にひとつだけ……そう思うと自然と愛着も湧くし、何より泉が作ってくれたものだ。
湯呑みを眺めているだけで二人で作った思い出が目に浮かぶようである。
「透、お茶淹れてあげようか?」
今日何度目かわからない泉のお誘いを受けると楽しそうに湯呑みを持つ泉……本当に可愛くて可愛くて仕方ない。
そのお隣ではすずしろがオレたちの作ったお皿に乗せたご飯を食べている。
2人とも可愛くて、大事で……オレの宝物だ。
「ウニャン★」
ご機嫌なすずしろがご飯を食べ終えてオレの膝の上に上がってくる。
「透……どうぞっ」
ニコニコな泉がお茶を淹れてくれて……オレの隣に座った。
泉が淹れてくれたお茶を一口飲む。
うん、ウマイ!!
世界一かわいい猫を膝に乗せて、世界一かわいい奥さんに淹れてもらったお茶を飲める!!
オレって世界一幸せ者かもしれない……!!
そう確信しながら泉の肩を抱いていた。
背後で激しい音が聞こえて驚いて振り向くと走り去るすずしろの背中が一瞬見えた。
「ん?何落としたんだ?」
床を見ると真っ二つに割れた湯呑みとほんの少し残っていたお茶がこぼれていた。
「あっちゃー、やっちゃったか……すずしろ、怪我してないか?」
可哀想に驚いてしまったのか毛を逆立てたすずしろがキャットタワーの最上部からこちらを見ていた。
「すず、びっくりしたよな、大丈夫だから……」
そっと手を伸ばして優しく撫でてやると落ち着いたのか、すずしろは毛繕いを始めた。
どうやら怪我はしていないようだ。
ホッとしながら割れた湯呑みを片付けようとしゃがみ込んだ。
……これは泉の湯呑みだ……
テーブルの上には無傷で残る自分の湯呑みがあった。
……まずいな……
この湯呑みは以前取材先の有名な陶芸家さんが作ってくれたもので、泉は気に入っていたもののようだった。
この湯呑みを嬉しそうに使っている泉の姿が思い出す。
……泉が帰ってきたら謝らなきゃな……
それとできる限り早く……全く同じものは無理かもしれないが、似たようなものを作って貰わなければ……
そう思いながら割れた湯呑みを拾い纏めた。
★
「ただいま~良い匂いっ!今日はごはんなにかな?」
玄関のドアが開き、泉の声が聞こえてきた。
「お帰りなさい。今日はロールキャベツにしてみたんだ」
珍しくすずしろが玄関にダッシュをしなかった。
泉を迎えに玄関に行こうとするとすずしろが遠慮がちに後をピッタリとくっついて歩き始める。
……すずしろなりに反省しているのかもしれないな……
「あら、今日は仲良しなのね。どうかしたの?」
面白そうな顔で泉がオレ達を見つめた。
すずしろを抱き上げて一緒に泉に謝った。
「泉……ごめんなさい。泉の湯呑み……今朝割っちゃって……オレがもっと早く片付ければ良かったんだけど……」
そう言うと泉は一瞬悲しそうな顔をしたがすぐに微笑んでくれた。
「あの湯呑み……そっか。気に入ってたんだけど、割れちゃったんなら……仕方ないよ。気にしないで?」
泉はそう言ってくれたが、一瞬見せた悲しげな表情を見逃せなかった。
「あ、でも同じのは無理かもしれないけど、似たようなのまた作って貰えるように頼んでみるから、それまでよかったらオレの湯呑み使ってよ。オレのも手触りとか良いと思うよ」
泉にそう言うと泉はそっと首を振った。
「いいから……本当気にしないで」
そう言いながら泉は微笑んだ。
「……」
★
件の陶芸家さんと連絡を取り、なんとか都合がつく日にもう一度作って貰えることになった。
ホッとしながら泉にその事を伝えるが、困ったように微笑むだけだった。
「……おんなじのは無理だけど、きっと気に入ってくれると思うよ。それとも他に何か理由があったりする??オレが割っちゃったんだからできる限りの事はするから……」
そう言うと泉はやっと口を開いた。
「あの湯呑み……透が私の名前入れてくれてたでしょ。だから……」
……!?
「泉……気づいてくれていたんだ?」
泉が頷く。
取材に行った時作って貰った湯呑みの底に自分と泉の名前を彫らせて貰っていた。
何の気なしに名を入れたものだったが、泉は気づいてくれていたようだ。
「器自体は正直なんでも良かったの。ただ、透が私の名前を入れてくれたのが嬉しくって……」
泉が照れたように笑う。
……なんだ、そう言う事だったのか。
「……ああ。そんなに気に入ってくれてたんならもう一回入れようか?なんなら今度は一緒に行ってお互いが使う湯呑み作ってこようよ。確かそういうのもやってるはずだよ」
そう言うと泉が嬉しそうに頷いた。
「ただなあ、オレそんなに器用じゃないから使いにくい湯呑みになっちゃったらごめんね?」
ニコリと笑った泉が首を振る。
「透が私のために作ってくれたものだから……どんなものでも嬉しいよ。それに私の方が上手く作れるか……でも面白そうだねっ」
★
出来上がって送られてきた湯呑みを2つ並べて……泉が楽しそうに写真を撮ったり、オレが作った湯呑みを大切そうに撫でるのを見ていると自然と笑みが漏れてしまう。
オレが作った湯呑みも泉が作った湯呑みもお世辞にも上手いと言える出来ではなかったが、それが寧ろ良かった。
世界にひとつだけ……そう思うと自然と愛着も湧くし、何より泉が作ってくれたものだ。
湯呑みを眺めているだけで二人で作った思い出が目に浮かぶようである。
「透、お茶淹れてあげようか?」
今日何度目かわからない泉のお誘いを受けると楽しそうに湯呑みを持つ泉……本当に可愛くて可愛くて仕方ない。
そのお隣ではすずしろがオレたちの作ったお皿に乗せたご飯を食べている。
2人とも可愛くて、大事で……オレの宝物だ。
「ウニャン★」
ご機嫌なすずしろがご飯を食べ終えてオレの膝の上に上がってくる。
「透……どうぞっ」
ニコニコな泉がお茶を淹れてくれて……オレの隣に座った。
泉が淹れてくれたお茶を一口飲む。
うん、ウマイ!!
世界一かわいい猫を膝に乗せて、世界一かわいい奥さんに淹れてもらったお茶を飲める!!
オレって世界一幸せ者かもしれない……!!
そう確信しながら泉の肩を抱いていた。
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読んで下さってありがとうございます。
エロ系作品全削除対象になってしまったようで、どこまでがokなのか分からず、アカウント削除を恐れながら過去作を書き直している状態です💦
レイトショーやら雑魚寝…エロ無しで面白いのかわかりませんが💦
他の媒体で出そうと作り直しているので完成したらお知らせしますね。
通知が来たと思ったら既に作品削除されていたので手元には何も残らず…ショックが大き過ぎてやる気が起きなかった所だったので少しでも楽しんでいてくれた人がいてくれて少し救われました☺️