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其ノ四 ボイスレター
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ぼくは少し緊張しながら油紙を開いた。
狐のお面と提灯はあの夜、ばぁちゃんが見せてくれたままやった。
ただし、お面は二つ。ばぁちゃんが持っていた白い狐のお面と、対になるみたいな真っ黒い狐。ヒゲと額の模様は同じに赤い。
大人用より少しだけ小さい、黒い狐のお面。
ぼくの分や。ばぁちゃんはちゃんと約束を守ってくれはった。ぼくと二人で狐火の市へ行くつもりやったんや!
ぼくかて、もっとばぁちゃんと、一緒に夏を過ごしたかった。
ばぁちゃんのいけず。もうちょい長生きしてくれたかてええやん。
夕方、お母ちゃんが帰って来たので、ばぁちゃんから荷物が届いた事、宝物をたくさん送ってくれた事、カセットテープが入っていた事を話した。
お母ちゃんは「宝物? ええなぁ。ばぁちゃん、太一の事ほんま好きやったもんねぇ」と言って、懐かしそうに目を細めた。そうしてすぐに向かいの家から、カセットデッキを借りてきてくれた。
使い方は、ばぁちゃんが持っていたラジカセと同じや。
『カシャコン』とテープを入れて、ボタンを『ガッコン』と押す。ぼくはこの感触が好きや。
晩ごはんのあと、ぼくはさっそく自分の部屋で、ばぁちゃんのテープを聞く事にした。
一緒に聞きたい言うたお母ちゃんは、最初はぼくひとりで聞くと言って断った。
でも、ひとりの部屋で、ぼくはこれから死んだ人の声を聞くんや思たら、ちょい怖なった。慌てて頭をブンブンと降る。
怖いことなんかあらへん。ばぁちゃんの声や。それにこれを録音した時、ばぁちゃんは生きとった。
怖いことなんかあらへんで!
ぼくは目をつぶって、カセットデッキのボタンを『ガッコン』と押した。
▽△▽
太一、元気にしとるか? 少しは背ぇ伸びたか?
そっちはもうすぐ夏休み、終わりやろ? 宿題終わったか?
コレばぁちゃんが録音してんのはまだ秋なんやで。なんや不思議な気分になるなぁ。
宝物、気に入ってもらえたか? ばぁちゃんが子供の頃から集めとったガラクタや。
なんの値打ちもあらへんけど、オモロイもんばっかやろ? 大事にせぇや。
せやけどな、太一に送った宝物な、あれで半分なんやで。
もう半分は性悪の天狗にあげてもうたんや。
たぁ坊、去年の夏休みの最後の新月の晩、狐火がふたぁつ灯った日ぃがあったやろ?
あの晩『狐火の市』話、ばぁちゃんしたの覚えとるか?
狐火が三つ灯ったら狐火の市が立ついう話やで。
たぁ坊が帰ってしもうて、しばらくたった頃にな、また狐火が灯った晩があったんよ。ばぁちゃんドキドキして、十分おきにお山を見てもうたよ。
ほんでな、たぁ坊。夜中になって、狐火は三つ灯ったんや。
ばぁちゃんな、急いで狐面着けて山に入ったんやで! 提灯にロウソク灯してなぁ。
そんでも、暗くて足元がやっと見えるくらいやった。
なんべん、もう帰ろう思うたか……。ばぁちゃんも、たぁ坊の事笑えへんなぁ。ようやっと狐火の市に着いた時は、怖ぁて、おしっこちびりそうになったで!
せやけど、不思議で、気味悪うて、とんでものうおもろかった。
アレがなんやったのか、ばぁちゃんには今もようわからん。
せやけどなぁ、太一、アレはやっぱし人間やあらへんかったかも知れん。
ばぁちゃんの声は、ぼくの覚えてる通りのんびりしていて優しかった。
ニコニコ笑いながら話してるのが目に浮かぶ。
せやけど――。
ぼくは背中ゾクゾクするのを、止める事が出来ひんかった。
狐のお面と提灯はあの夜、ばぁちゃんが見せてくれたままやった。
ただし、お面は二つ。ばぁちゃんが持っていた白い狐のお面と、対になるみたいな真っ黒い狐。ヒゲと額の模様は同じに赤い。
大人用より少しだけ小さい、黒い狐のお面。
ぼくの分や。ばぁちゃんはちゃんと約束を守ってくれはった。ぼくと二人で狐火の市へ行くつもりやったんや!
ぼくかて、もっとばぁちゃんと、一緒に夏を過ごしたかった。
ばぁちゃんのいけず。もうちょい長生きしてくれたかてええやん。
夕方、お母ちゃんが帰って来たので、ばぁちゃんから荷物が届いた事、宝物をたくさん送ってくれた事、カセットテープが入っていた事を話した。
お母ちゃんは「宝物? ええなぁ。ばぁちゃん、太一の事ほんま好きやったもんねぇ」と言って、懐かしそうに目を細めた。そうしてすぐに向かいの家から、カセットデッキを借りてきてくれた。
使い方は、ばぁちゃんが持っていたラジカセと同じや。
『カシャコン』とテープを入れて、ボタンを『ガッコン』と押す。ぼくはこの感触が好きや。
晩ごはんのあと、ぼくはさっそく自分の部屋で、ばぁちゃんのテープを聞く事にした。
一緒に聞きたい言うたお母ちゃんは、最初はぼくひとりで聞くと言って断った。
でも、ひとりの部屋で、ぼくはこれから死んだ人の声を聞くんや思たら、ちょい怖なった。慌てて頭をブンブンと降る。
怖いことなんかあらへん。ばぁちゃんの声や。それにこれを録音した時、ばぁちゃんは生きとった。
怖いことなんかあらへんで!
ぼくは目をつぶって、カセットデッキのボタンを『ガッコン』と押した。
▽△▽
太一、元気にしとるか? 少しは背ぇ伸びたか?
そっちはもうすぐ夏休み、終わりやろ? 宿題終わったか?
コレばぁちゃんが録音してんのはまだ秋なんやで。なんや不思議な気分になるなぁ。
宝物、気に入ってもらえたか? ばぁちゃんが子供の頃から集めとったガラクタや。
なんの値打ちもあらへんけど、オモロイもんばっかやろ? 大事にせぇや。
せやけどな、太一に送った宝物な、あれで半分なんやで。
もう半分は性悪の天狗にあげてもうたんや。
たぁ坊、去年の夏休みの最後の新月の晩、狐火がふたぁつ灯った日ぃがあったやろ?
あの晩『狐火の市』話、ばぁちゃんしたの覚えとるか?
狐火が三つ灯ったら狐火の市が立ついう話やで。
たぁ坊が帰ってしもうて、しばらくたった頃にな、また狐火が灯った晩があったんよ。ばぁちゃんドキドキして、十分おきにお山を見てもうたよ。
ほんでな、たぁ坊。夜中になって、狐火は三つ灯ったんや。
ばぁちゃんな、急いで狐面着けて山に入ったんやで! 提灯にロウソク灯してなぁ。
そんでも、暗くて足元がやっと見えるくらいやった。
なんべん、もう帰ろう思うたか……。ばぁちゃんも、たぁ坊の事笑えへんなぁ。ようやっと狐火の市に着いた時は、怖ぁて、おしっこちびりそうになったで!
せやけど、不思議で、気味悪うて、とんでものうおもろかった。
アレがなんやったのか、ばぁちゃんには今もようわからん。
せやけどなぁ、太一、アレはやっぱし人間やあらへんかったかも知れん。
ばぁちゃんの声は、ぼくの覚えてる通りのんびりしていて優しかった。
ニコニコ笑いながら話してるのが目に浮かぶ。
せやけど――。
ぼくは背中ゾクゾクするのを、止める事が出来ひんかった。
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