狐火の市 ぼくとばぁちゃん編

はなまる

文字の大きさ
4 / 7

其ノ四 ボイスレター

しおりを挟む
 ぼくは少し緊張しながら油紙を開いた。

 狐のお面と提灯はあの夜、ばぁちゃんが見せてくれたままやった。
 ただし、お面は二つ。ばぁちゃんが持っていた白い狐のお面と、対になるみたいな真っ黒い狐。ヒゲと額の模様は同じに赤い。

 大人用より少しだけ小さい、黒い狐のお面。

 ぼくの分や。ばぁちゃんはちゃんと約束を守ってくれはった。ぼくと二人で狐火の市へ行くつもりやったんや!

 ぼくかて、もっとばぁちゃんと、一緒に夏を過ごしたかった。
 ばぁちゃんのいけず。もうちょい長生きしてくれたかてええやん。


 夕方、お母ちゃんが帰って来たので、ばぁちゃんから荷物が届いた事、宝物をたくさん送ってくれた事、カセットテープが入っていた事を話した。

 お母ちゃんは「宝物? ええなぁ。ばぁちゃん、太一の事ほんま好きやったもんねぇ」と言って、懐かしそうに目を細めた。そうしてすぐに向かいの家から、カセットデッキを借りてきてくれた。

 使い方は、ばぁちゃんが持っていたラジカセと同じや。
『カシャコン』とテープを入れて、ボタンを『ガッコン』と押す。ぼくはこの感触が好きや。

 晩ごはんのあと、ぼくはさっそく自分の部屋で、ばぁちゃんのテープを聞く事にした。

 一緒に聞きたい言うたお母ちゃんは、最初はぼくひとりで聞くと言って断った。

 でも、ひとりの部屋で、ぼくはこれから死んだ人の声を聞くんや思たら、ちょい怖なった。慌てて頭をブンブンと降る。

 怖いことなんかあらへん。ばぁちゃんの声や。それにこれを録音した時、ばぁちゃんは生きとった。

 怖いことなんかあらへんで!

 ぼくは目をつぶって、カセットデッキのボタンを『ガッコン』と押した。


▽△▽


 太一、元気にしとるか? 少しは背ぇ伸びたか?

 そっちはもうすぐ夏休み、終わりやろ? 宿題終わったか?
 コレばぁちゃんが録音してんのはまだ秋なんやで。なんや不思議な気分になるなぁ。

 宝物、気に入ってもらえたか? ばぁちゃんが子供の頃から集めとったガラクタや。
 なんの値打ちもあらへんけど、オモロイもんばっかやろ? 大事にせぇや。

 せやけどな、太一に送った宝物な、あれで半分なんやで。
 もう半分は性悪の天狗にあげてもうたんや。

 たぁ坊、去年の夏休みの最後の新月の晩、狐火がふたぁつ灯った日ぃがあったやろ?
 あの晩『狐火の市』話、ばぁちゃんしたの覚えとるか?
 狐火が三つ灯ったら狐火の市が立ついう話やで。

 たぁ坊が帰ってしもうて、しばらくたった頃にな、また狐火が灯った晩があったんよ。ばぁちゃんドキドキして、十分おきにお山を見てもうたよ。

 ほんでな、たぁ坊。夜中になって、狐火は三つ灯ったんや。

 ばぁちゃんな、急いで狐面着けて山に入ったんやで! 提灯にロウソク灯してなぁ。
 そんでも、暗くて足元がやっと見えるくらいやった。

 なんべん、もう帰ろう思うたか……。ばぁちゃんも、たぁ坊の事笑えへんなぁ。ようやっと狐火の市に着いた時は、怖ぁて、おしっこちびりそうになったで!

 せやけど、不思議で、気味悪うて、とんでものうおもろかった。

 アレがなんやったのか、ばぁちゃんには今もようわからん。
 せやけどなぁ、太一、アレはやっぱし人間やあらへんかったかも知れん。



 ばぁちゃんの声は、ぼくの覚えてる通りのんびりしていて優しかった。
 ニコニコ笑いながら話してるのが目に浮かぶ。

 せやけど――。

 ぼくは背中ゾクゾクするのを、止める事が出来ひんかった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...