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「うげ、久々に見た。あれ、小中の頃によくやってたんだよね」
「え? そうなの?」
「そうそう。名物みたいだった」
「あいつの癇癪な。あれ、自分の思い通りにならにいと暴れまわるって有名だったんだよ」
「……」


明穂と同じところ出身の生徒は、凄い顔をしていた。それを聞いて、凛も眉を顰めずにはいられなかった。


(そんな名物、嫌だな。思い通りにならないと癇癪を起こすって、それ、私が言うことを聞いてたから、癇癪を起こさなかったってこと……? うわぁ~、そんなストッパー役、嫌すぎる)


廊下で騒ぐせいで、先生に何か言われたようで、それでもやめずに暴れまわったようで連れて行かれるのを見ることになった。

何やら凛のことを連呼しているとなって、先生に呼ばれもしたが、転校することが気に入らないらしいと伝えると話し合えと言われたが、あちらが転校をやめさせようとばかりして、あの状態だと凛だけでなくて、クラスメイトも証言してくれて、話し合いは難しいとわかったようだ。


(あんなに暴れてるの見たら、話し合いなんかで落ち着くとは思わないわよね。……むしろ、これまで、よく隠していたものだわ。あー、その分、私が、いいように言いなりになってたからだとしたら、腹立って来るな)


ただですら、あと少しのここでの学校生活な凛は、そんなことでクラスメイトとの楽しい時間を邪魔されたくないと言うと先生方は、そうだよなと納得してくれた。

凛は、それまで色んなところを転校してきたエピソードを聞かれるままにクラスメイトたちに話して、男子生徒たちとも仲良くなれた。


「凛さんの話し聞いて、俺も転校したことあるからよくわかるよ」
「転校生あるあるなんだな」
「でも、俺一回だけだから、凛さんには遠く及ばないよ」
「及ばないって言うか。凛、転校しすぎじゃね?」


辛くないのかと聞かれたりしたが、凛は……。


「あー、辛くないことはないけど、高校卒業するまでは、家族は一緒に暮らすっていうのが我が家のモットーだから。人生長いから、高校くらいまで思いっきり親孝行しとけば、あとは楽かなと」
「すっけぇ~いい話かと思ったけど、後半で台無しだな」
「いや、でも、これから長い人生あるんだから小学校から高校までに親孝行してるだけで、あとの60年くらい好き勝手して生きれるとなれば、大したことないでしょ」
「あ~、確かに」


そんな風に色々と話して、お別れの時は女子はみんな涙目で、男子ももらい泣きしている生徒もいたくらいで、そんな中で一番泣いていたのは……。


「凛さんがいなくなると寂しくなるよ~」


担任が一番泣いていた。それに凛だけでなくて、クラス中がドン引きしたのは悪くないはずだ。いや、これだけ転校することを嘆いてくれているのは嬉しいことなのかも知れない。


「凛さんは、何でも引き受けてくれてたから、クラスが殺伐としなくて他の先生方にも羨ましがられてたんだよ」
「……」


担任のぶっちゃけたことに凛だけでなくて、クラス中が微妙な空気になってしまったが、担任はそれに全く気づいていなかった。悪気はないのが一番悪い気がする。


(まぁ、なんだかんだあったけど、こんな風にお別れするのも、悪くないな。前までのお別れ会は、あっさりして思い入れも何もないようにしてたから。ここでは、思いっきり青春した気がするな)


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