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しおりを挟む「シャルル。勘違いされるようなことをした覚えは?」
それを聞いて、凄い顔をして姉を見た。
「ないです。あるわけありません!」
すぐに即答した。その目にうっすらと涙が浮かんでいる。こんな虐めを受ける理由はないと言わんばかりにしていた。
この顔に騙される男は、それなりにいるだろう。同性から、庇護欲を誘う。が、異性からは好かれる要素があまり見当たらない。
ユルシュルは弟だが、赤の他人だとしたら、近寄ってはいない。絶対にお近づきになってはいない。
そんなシャルルをユルシュルは、じっと見た。こんなのが跡継ぎなのかと思うような態度を姉としては改めさせなければならないのだろうが。両親にそれが期待できない以上、ユルシュルがやるしかないはずだ。
でも、どうにも手遅れな気がしている。教えたことはあるはずなんだが……。
「よく考えて答えなさい。感情的に答えない。教えたはずよ」
「そんなこと言っても……」
シャルルは半泣きのまま、しばらく考えた。深く呼吸をして、半泣きなのをやめても、思いつかなかったようだ。
ユルシュルの弟らしい顔つきになった。それでも憂いを帯びた美少女にしか見えないのが、難点だ。
「思いつかないのね?」
こくりとシャルルは頷いた。そこは、言葉にしてほしいところだが、まぁいい。もう、諦めた。
「なら、これはしまっておいて」
「っ、でも、父上たちに言わないわけには」
それを聞いて、ユルシュルはため息をつきたくなった。あの人たちに言ってどうするのだ。
「解決するまで、言わなくていいわ。あの人たちが変に騒ぎ立てると犯人が見つかる前にあなたが女性と間違われたとか。女装する趣味があるとか。変な噂になって、誤解されるのがオチよ」
「っ、」
「わかるわね? 大丈夫よ。私がいる限り、この家の跡継ぎであるあなたに変な噂を広めさせたりしないわ。そんなことする奴は、私が外を歩けなくしてやる」
シャルルは、姉の恐ろしさにまた半泣きになった。それでも、すぐに先ほど叱られたのを思い出して、必死に落ち着こうとした。この姉が、味方してくれるのだ。悪いようにはなりようがない。敵になったら、人生が終わると密かにシャルルが思っているのはあながち間違ってはいない。
弟が部屋に戻って行った。贈られてきたドレスを箱にしまって嬉しくもないプレゼントを抱えて、しょんぼりしていた。
そんな姿を見て面白いわけがない……とは言えない。ユルシュルは不機嫌を隠しもしなかった。あれほどまでに情けないのが、弟かと思うとげんなりする。
「ユルシュル様」
「目を離さないで」
「わかりました」
誰とは言わないが、執事は頷いた。それもこれも、言葉通りにユルシュルがいる限りになるだろう。まだ、婚約者もいないが、いずれはここから離れる。
その意味合いをあの弟は、まるでわかっていない。
「それと今見聞きしたことを両親に伝えたら、わかっているわよね?」
「はい。使用人には徹底させておきます」
この家で、表向きの当主は父でも、全てを牛耳っているのは、ユルシュルだ。
それをおめでたい頭をしている両親は知らない。弟は、いつからなのかを知らないが、今は知っているはずなのだ。それなのに跡継ぎのはずなのにシャルルは、あの調子なのだ。困るどころか、呆れる。
ユルシュルは何事もなかったかのように趣味の読書を再開させようとした。
「あの、」
「……何?」
ブリュエットが、不意にユルシュルに声をかけてきた。それに返事をしても、本から目を使用人に向けることはしなかった。
「他の方と間違えているとドレスを持ってお店に行かせた方が早いのでは?」
「あなた、あのドレスが間違えられたと思っているの?」
「違うのですか?」
「あのドレスのサイズを見てなかったの? あれは、弟のためにあつらえたのよ」
「え?」
「わからないなら、弟に着せて見ればいいわ。丈も流行りのヒールを履いたのにピッタリだから」
「……」
それを聞いて、ブリュエットは黙った。ユルシュルが、確かめていたのはわずかな間だ。その間にそれを把握したのだ。
「次に受け取る時があったら、相手のことをよく見るようにして。ただし、今見たいに相手のことをじろじろ見ないで」
「っ、」
「できないなら、字が書けないとか。手を怪我しているからと誤魔化して受け取りのサインをしないで」
ユルシュルは本を読みながら、そんな話をした。次に受け取ることになったら、言われた確認をしていなかったとわかれば、この家を追い出すことに変わりはない。
ブリュエットは、それを聞いて何とも言えない顔をしていた。それをユルシュルは見ていなくとも気配だけで察した。
この不毛な会話に付き合わされるユルシュルは、このメイドの雇い主が誰なのかに全く興味を持てなかった。
そう、このメイドはどうやら祖母とは違う人物に雇われて、ここで働いているようだ。それがわかっても、ユルシュルに害はないからここにいられることを彼女は知りもしない。
ユルシュルは、面白いことになるのではないかと思って放置しているが、全くならないことに残念がっていることをこれまたブリュエットは知らない。
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