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支配
この店で1番美味い炒飯を!
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天井が壊れて空が見えるベッドで一夜を過ごした俺達は、太陽が真上にあるのを確認して仕方なくベッドから抜け出た。
「んぅ、身体痛い」
「そりゃあこんなボロいベッドで、あれだけはしゃいだらな」
「なんかさ、酔っ払ったらあんな感じなんだろうね」
「アルフィは酒呑むの禁止なぁ」
「むしろ飲ませたのはそっちなんだけどね」
アルコールではなく媚薬で酔ったアルフィは、昨夜2人で気絶するまでずっと腰を振り続けていた。もちろん俺も後ろから突かれ続けて、今椅子に座るのがやや痛い。
「すまんアルフィ、 タオル取ってくれるか?」
一度ベッドから出たは良いが、木で出来た簡素な椅子に座ったが最後、また立ちたく無くなってしまう。
「はーい」
「お、ありが、とう?」
少し遠い場所からアルフィの声が聞こえたが、タオルがしっかりと俺の手に握られているのを見て固まる。アルフィはやはり椅子から離れたキッチンでお茶を淹れている。じゃあタオルはどうやって取った?タオルは部屋の端にあるベッドの脇に置いていたはずだ。
「あ、あのアルフィ、タオル戻してくれるか?」
「えぇ?自分でやってよぉ、もお。僕今お茶淹れてるんだからね?」
そんな文句を言いながらも、しっかりとお尻から生えた黒く細い尻尾を伸ばして、俺の手からタオルを掴み、ベッドサイドのテーブルに乗せる。
「え、えっと、アルフィさん?」
「なに?」
「その尻尾、どうしました?」
「え?」
振り向いたアルフィはいつも通り超絶可愛いのだが、可愛いんだけども、それも充分似合うのだが、ピンク色の頭にしっかりと黒い羊の角みたいなのがふたつ付いている。
「尻尾、はっ!」
「あの、角も生えてますが」
「あ!え!?」
「あのさ、アルフィ?」
「ま、ま」
錯覚と誤魔化していたが、小さいコウモリっぽい羽も生えてて、なんならさっきからそれがパタパタしてて、ほんの少しだけ浮いてるんだ。俺の愛しのアルフィに違いは無いのだろう。それは俺が保証する。しかし、どうやら彼は。
「魔族になってるううう!?」
「やっぱりか」
俺の恋人は魔族になってしまったようだ。
そこから先は長かった。魔族になってしまったアルフィだが、魔力を抑えると姿も人間の時と同じ状態に戻れるらしい。それがわかったのでとりあえず俺達もカストの民が向かっているバークフォードへと、馬車で向かうことになった。思ったよりカストの被害が酷く、復興は一度諦めてバークフォードへ避難することになったのだ。
そして数日掛けてようやくアルフィの実家に着いたと思ったら、アルフィはあっちこっちに引っ張り凧。俺は俺でマスターやカストの民が無事に侯爵領に避難して来られて安心したが、そこからは大都会バークフォードで民達と共に仕事を探し、開拓し、交流しと、大忙しだ。なによりアルフィが居ない寂しい夜を、なんとか酒で乗り越えるのが苦難である。
「はあ、アルフィ、俺のアルフィ。どこに行ったんだ?」
「今は王に全てを説明しに王都へ向かったと、何度ご説明すればわかっていただけるのですか?」
「マスター冷たい」
「毎晩やられたら流石に相手もしきれませんぞ」
冷たいがしっかり酒は出してくれるマスターに甘えながら、ようやくバークフォードで開店出来たバーで酔う。
「仕事はわかるよ?でもせめて王都に行く前に1回ぐらい顔見せてくれても!」
「なんだかんだとダカストロ様もお忙しいでしょう?気を遣っているのですよ」
「嫌だ嫌だ!アルフィは俺の執事なのおお!」
「もうあの方は侯爵閣下ですぞ」
そうなのだ。着いて早々アルフィが忙しかった理由は、兄であるフィデロの死だけでなく、父上である閣下が病で床に伏せていることが1番の原因だった。それに伴い実質的な権利だけでなく、例外的に侯爵の地位ごとアルフィに全てが譲られたのだ。その諸々の手続きやなんかも含めて、アルフィは王都へ向かったらしい。
「たかだか伯爵風情が閣下を執事扱いしてると、不敬で勾留されますぞ」
「不敬はマスターもだけどな!?領地が無くなっても俺は伯爵だぞ!」
結局俺に出来るのは、民が新しい街で馴染めるように橋渡しをすることぐらいだ。
「はあ、昼間はあんなに有能で誠実なのに、何故夜になるとこうなんでしょうな」
「あぁ?なんか言った?アルフィって言った?」
「言ってません」
ーーーガララン
カストの店とは少し違う音色の鈴が鳴る。開店以来固定客ぐらいしか来てないこの店に、客が来るのは珍しい。俺は死んだ目で振り向く。
「あ」
「くううう!シャルル様あああ!」
「あああ!あばばばばあああ!あばああ!」
泣き過ぎてあばばばしかあばばれなくなる。
「うぅ!アルフィ!アルフィ!会いだかっだあああ!セックスしよおおお!」
「ちょっ!シャルル様!こら!落ち着いて!いきなり腰擦り付けない!めっ!」
「ああああ!アルフィだあ!舐めて良い?ねえ、舐めて良い?」
「舐めるのも後!今帰ったばっかで直で来たんだからね?せめてご飯ぐらい食べさせてよ」
「食えええ!おいマスター!この店で1番美味い炒飯を!この炒飯好きの侯爵閣下に!ハリアップ!」
「ふふ、かしこまりました」
「やった!久々のマスターの炒飯だ!」
それから俺達はこれまでのお互いの苦労を労い、しっかり食べてしっかり呑んだのだ。
「んぅ、身体痛い」
「そりゃあこんなボロいベッドで、あれだけはしゃいだらな」
「なんかさ、酔っ払ったらあんな感じなんだろうね」
「アルフィは酒呑むの禁止なぁ」
「むしろ飲ませたのはそっちなんだけどね」
アルコールではなく媚薬で酔ったアルフィは、昨夜2人で気絶するまでずっと腰を振り続けていた。もちろん俺も後ろから突かれ続けて、今椅子に座るのがやや痛い。
「すまんアルフィ、 タオル取ってくれるか?」
一度ベッドから出たは良いが、木で出来た簡素な椅子に座ったが最後、また立ちたく無くなってしまう。
「はーい」
「お、ありが、とう?」
少し遠い場所からアルフィの声が聞こえたが、タオルがしっかりと俺の手に握られているのを見て固まる。アルフィはやはり椅子から離れたキッチンでお茶を淹れている。じゃあタオルはどうやって取った?タオルは部屋の端にあるベッドの脇に置いていたはずだ。
「あ、あのアルフィ、タオル戻してくれるか?」
「えぇ?自分でやってよぉ、もお。僕今お茶淹れてるんだからね?」
そんな文句を言いながらも、しっかりとお尻から生えた黒く細い尻尾を伸ばして、俺の手からタオルを掴み、ベッドサイドのテーブルに乗せる。
「え、えっと、アルフィさん?」
「なに?」
「その尻尾、どうしました?」
「え?」
振り向いたアルフィはいつも通り超絶可愛いのだが、可愛いんだけども、それも充分似合うのだが、ピンク色の頭にしっかりと黒い羊の角みたいなのがふたつ付いている。
「尻尾、はっ!」
「あの、角も生えてますが」
「あ!え!?」
「あのさ、アルフィ?」
「ま、ま」
錯覚と誤魔化していたが、小さいコウモリっぽい羽も生えてて、なんならさっきからそれがパタパタしてて、ほんの少しだけ浮いてるんだ。俺の愛しのアルフィに違いは無いのだろう。それは俺が保証する。しかし、どうやら彼は。
「魔族になってるううう!?」
「やっぱりか」
俺の恋人は魔族になってしまったようだ。
そこから先は長かった。魔族になってしまったアルフィだが、魔力を抑えると姿も人間の時と同じ状態に戻れるらしい。それがわかったのでとりあえず俺達もカストの民が向かっているバークフォードへと、馬車で向かうことになった。思ったよりカストの被害が酷く、復興は一度諦めてバークフォードへ避難することになったのだ。
そして数日掛けてようやくアルフィの実家に着いたと思ったら、アルフィはあっちこっちに引っ張り凧。俺は俺でマスターやカストの民が無事に侯爵領に避難して来られて安心したが、そこからは大都会バークフォードで民達と共に仕事を探し、開拓し、交流しと、大忙しだ。なによりアルフィが居ない寂しい夜を、なんとか酒で乗り越えるのが苦難である。
「はあ、アルフィ、俺のアルフィ。どこに行ったんだ?」
「今は王に全てを説明しに王都へ向かったと、何度ご説明すればわかっていただけるのですか?」
「マスター冷たい」
「毎晩やられたら流石に相手もしきれませんぞ」
冷たいがしっかり酒は出してくれるマスターに甘えながら、ようやくバークフォードで開店出来たバーで酔う。
「仕事はわかるよ?でもせめて王都に行く前に1回ぐらい顔見せてくれても!」
「なんだかんだとダカストロ様もお忙しいでしょう?気を遣っているのですよ」
「嫌だ嫌だ!アルフィは俺の執事なのおお!」
「もうあの方は侯爵閣下ですぞ」
そうなのだ。着いて早々アルフィが忙しかった理由は、兄であるフィデロの死だけでなく、父上である閣下が病で床に伏せていることが1番の原因だった。それに伴い実質的な権利だけでなく、例外的に侯爵の地位ごとアルフィに全てが譲られたのだ。その諸々の手続きやなんかも含めて、アルフィは王都へ向かったらしい。
「たかだか伯爵風情が閣下を執事扱いしてると、不敬で勾留されますぞ」
「不敬はマスターもだけどな!?領地が無くなっても俺は伯爵だぞ!」
結局俺に出来るのは、民が新しい街で馴染めるように橋渡しをすることぐらいだ。
「はあ、昼間はあんなに有能で誠実なのに、何故夜になるとこうなんでしょうな」
「あぁ?なんか言った?アルフィって言った?」
「言ってません」
ーーーガララン
カストの店とは少し違う音色の鈴が鳴る。開店以来固定客ぐらいしか来てないこの店に、客が来るのは珍しい。俺は死んだ目で振り向く。
「あ」
「くううう!シャルル様あああ!」
「あああ!あばばばばあああ!あばああ!」
泣き過ぎてあばばばしかあばばれなくなる。
「うぅ!アルフィ!アルフィ!会いだかっだあああ!セックスしよおおお!」
「ちょっ!シャルル様!こら!落ち着いて!いきなり腰擦り付けない!めっ!」
「ああああ!アルフィだあ!舐めて良い?ねえ、舐めて良い?」
「舐めるのも後!今帰ったばっかで直で来たんだからね?せめてご飯ぐらい食べさせてよ」
「食えええ!おいマスター!この店で1番美味い炒飯を!この炒飯好きの侯爵閣下に!ハリアップ!」
「ふふ、かしこまりました」
「やった!久々のマスターの炒飯だ!」
それから俺達はこれまでのお互いの苦労を労い、しっかり食べてしっかり呑んだのだ。
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