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三章 古の対峙
73話 その男、一流冒険者とも渡り合う
しおりを挟む「先生は俺に冒険者として生きる道をくれたんだ。その先生を侮辱する奴は許さねぇ」
オレステは握る斧に火を纏わせて、俺を睨みつけてくる。
その火は、怒りにより増幅しているらしく、オレンジから白へと変化する。
そして、そのままこちらへと駆けだしてきた。
かなり敏捷な動きで、魔術で捉えるのはなかなか難しい。そのうえ、動きながらにして攻撃を仕掛けてくるのだ。
剣の先からは火球がいくつも乱発された。
それにはリーナが水球で、俺も【吸収】の壁で応じるのだけれど、すべて受け止めるというわけにはいかない。
実際、乾いた木々の一部はもう燃え始めている。森が燃えることも困るが、ここに残っている可能性のある証拠が消えるのも困る。
こうなったら、もうその元凶自体を抑えるしかない。俺は早急に魔術陣を展開する。
「また、それか。それならもう破ったって…………」
それに対して、オレステはこう声をあげながら、高く跳びあがり、こちらに斧を大きく振りかざすのだが、しかし。
そのときにはもう斧に宿る火は消えていた。
オレステは着地するや、すぐに後ろへと下がる。
「……なにをした?」
「その斧に少し細工をさせてもらったんだよ、魔素が外へと漏れ出すようにね」
【発散】の魔術だ。
【魔素収集】の術と対になる魔術で、剣の表面にかけることで、魔力をいっさい通さなくさせる。
まぁこの魔術も、破られる可能性はあるのだけれど。
それでも、今度はこちらもかなりの魔力量を使った。そう簡単には、この術は解けない。
「……こざかしい。魔法がなくとも、俺は強いんだ」
これで収まってくれればよかったのだけれど、オレステは単身で突っ込んできた。
リーチの長い斧で足元を薙ぎ払わんとしてくる。
「先生!」
リーナが間に入ろうとしてくるが、俺はそれを制する。
たしかに、護身用の得物はもっていないが、魔術を応用すれば物理攻撃に応じることだってできる。
俺は後ろへ後退しながら、魔術陣を描く。
描いたのは、【吸収】の壁。だが、いつもとは違うのはそのサイズだ。
直方体になるよう、できるだけ細く作ってそれを握った。
いわば、即席の剣だ。
そしてこれなら、ある程度の衝撃であれば、いなすことができる。
俺は、オレステの攻撃を一つ一つ丁寧に受け止めていく。
技術ではかなわないけれど、この剣は衝撃を吸収しため込むこともできる。
だから、何度か受け止めたあとに、それを放出しながら振りつければ……
「ぐあっ!!」
さすがのオレステとて受け止められない。
まぁなにせ自分の斬撃が数倍になって返ってくるのと同じなわけだ。
オレステの身体は一気に後ろへと飛ばされ、木の幹に背中を打ちつける。
それでもすぐに立ち上がるのだが、しかし。
その背後を、リーナが取っていた。
「観念しなさい、オレステ・オレン。先生はあのエリさんに教えを乞われるくらいには強い。それに、私もいる」
さすがにこの状況では、一流冒険者たるオレステも、動きを取れなくなったらしい。
俺たちのほうだって、別に彼に危害を加えたいわけじゃなかった。それに、少しでも気を抜けば、すぐに形勢が逆転してもおかしくない。
だから、そのまま膠着状態となる。
お互いすり減らすことしばし。
「オレステ君。そこまであのシモーニのことを信じるのなら、逆に確かめるのに付き合ってくれないかな?」
そこで俺は、一計を打つことにした。
「……なにを言っている」
「俺はこれから、この場所を調査する。君が倒していた、ここにいるはずのない魔物たち。それらを連れてきた召喚魔術を使った奴を特定するつもりだよ。君にも、それを一緒に見てもらおうと思ってね」
「ふざけるなよ、どうして俺がそんなこと」
「その連中にシモーニが関わっていないというのなら、それを証明できるいい機会になる。そうは思わないかな?」
オレステのシモーニへの信頼を逆手に取った説得であった。
別に俺は、彼に調査するところを見られても、なにの問題もないのだ。
それよりも、ここで無駄に対峙している時間の方が惜しい。
オレステは判断に迷っているのか、しばらくは俯いていた。
が、リーナが剣を鳴らしながら「答えなさい」と催促すると、
「…………分かった」
一応は、こう返してくれた。
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