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本編
65 嵐の後始末(side皇公爵家の元・影)
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---我らは幸運だった。
公爵家からの理不尽な命令を聞き続け、それが仕事であると自身に言い聞かせる。
たとえそれが自分の信念とはかけ離れていたとしても。
影となるべく育てられた我らの宿命。
仕える主の命は絶対。
感情など要らないのだと。
しかし、現在の皇公爵家は異常だ。
主であるご当主の言動もそうだが、嫡男様に対する仕打ちは目に余る。
そもそも嫡男様に会ったことはない。
それだけでもおかしい。
弟君の陽希様のお姿しか見かけない。
朔夜様は生きていらっしゃるのか邸にいらっしゃるのかすら分からないのだ。
ただ、公爵家の領地経営をしているらしく、時々必要な書類がまとめてあるのでいらっしゃるとは思う。
後に分かったことだが、朔夜様は魔法で気配を消していたようだ。
我ら影より影らしい。
そんな朔夜様を今回、帝国に忍んで暗殺してこい、との命令が降された。
耳を疑ったが、やはり聞き間違いでは無かった。
何故?
他の影達も動揺した。
愛されない嫡男様。
いない者として扱われている方。
出来損ない。
散々な言い様。
それでも必死に生きていらっしゃると。
なのに何故命まで狙われるのだ?
それも血を分けた肉親から・・・。
廃嫡しただと?
だから殺すのか。
疑問だらけで納得がいかなかったが、命令には逆らえない。
総勢10人で帝国入りを果たした。
そして迎えた決戦の日。
完敗だった。
戦いの最中、我らは『夜叉姫』に思い至った。
だが、それだけ。
分かっただけで、何も出来ない。
手も足も出なかった。
捕らえられた我らは尋問されるのだろう。
だがしかし、我らに応える術は無い。
公爵家に関わることを一言でも漏らせば即死。
通常の誓約はここまでではない。
さすがに我らとて命は惜しい。
何より、あんな主とも呼べないような者達にこの命捧げたくは無い。
捧げる価値もない。
誰もが黙秘していると、この国の皇兄である大公閣下がお目見えした。
「・・・・・・ふむ。面倒な誓約をかけられているねえ。お前達、誰かサクヤを呼んできてくれるかい?」
『御意』
「・・・少し待っててくれ。ああ、今は何も言わなくていいよ。死なれちゃ困るからね」
「・・・・・・」
「ここからは独り言だから聞き流していいよ」
「・・・・・・」
「サクヤはね、かなり酷な環境で精一杯独りで生きてきた。私達に心を開いてくれた時に初めて声を上げて泣いたそうだよ。そんな生活ですっかり諦める事に慣れてしまった。そんなあの子が初めてうちのスオウを欲しがってくれたんだ」
我らも話を聞いただけで余りの仕打ちに怒ったものだ。この方達もそうなのだろう。
「だからスオウの婚約者になって貰ったんだよ。スオウもソレを望んだから。廃嫡されたことは幸運だった。皇帝陛下の養子になれたのだから」
「・・・・・・?!」
「知らなかったろうね。情報操作をしているから。知っていたら手を出さなかったんじゃ無いかな? なんせ第2皇子殿下だからねえ」
知らんぞ?!
そんな、まさか・・・・・・。
皇家は帝国に喧嘩を売った事になる・・・!
なんて事だ!
それじゃあ、どのみち我らも生き残る道は無いのだろうな・・・。
皆、愕然とした。
そこにサクヤ様とスオウ様がやって来た。
「リオネル父様、お待たせ」
「父さん、手を回すのが早いね」
「すまないねえ、ちょっと厄介なもので」
「・・・ああ、でもけっこう雑な誓約魔法ですね。大丈夫ですよ。解除出来ます」
え、出来るの?!
我らが戸惑っているうちにぱぱっと『解呪』してしまわれた。
その上美味しそうな和菓子まで。
思わずきらきらしい目でサクヤ様を見つめてしまった。
大公閣下には胡乱げに見られたが。
「そう言う訳で、サクヤの為にも君たちを処分するのははばかれるので、出来ればうちに再就職してくれると助かるよ?」
そう言われて洗いざらい吐く事に一切の抵抗は無く、一も二も無くその話に飛びついたのだった。
---それにしても、大判焼、美味い!
公爵家からの理不尽な命令を聞き続け、それが仕事であると自身に言い聞かせる。
たとえそれが自分の信念とはかけ離れていたとしても。
影となるべく育てられた我らの宿命。
仕える主の命は絶対。
感情など要らないのだと。
しかし、現在の皇公爵家は異常だ。
主であるご当主の言動もそうだが、嫡男様に対する仕打ちは目に余る。
そもそも嫡男様に会ったことはない。
それだけでもおかしい。
弟君の陽希様のお姿しか見かけない。
朔夜様は生きていらっしゃるのか邸にいらっしゃるのかすら分からないのだ。
ただ、公爵家の領地経営をしているらしく、時々必要な書類がまとめてあるのでいらっしゃるとは思う。
後に分かったことだが、朔夜様は魔法で気配を消していたようだ。
我ら影より影らしい。
そんな朔夜様を今回、帝国に忍んで暗殺してこい、との命令が降された。
耳を疑ったが、やはり聞き間違いでは無かった。
何故?
他の影達も動揺した。
愛されない嫡男様。
いない者として扱われている方。
出来損ない。
散々な言い様。
それでも必死に生きていらっしゃると。
なのに何故命まで狙われるのだ?
それも血を分けた肉親から・・・。
廃嫡しただと?
だから殺すのか。
疑問だらけで納得がいかなかったが、命令には逆らえない。
総勢10人で帝国入りを果たした。
そして迎えた決戦の日。
完敗だった。
戦いの最中、我らは『夜叉姫』に思い至った。
だが、それだけ。
分かっただけで、何も出来ない。
手も足も出なかった。
捕らえられた我らは尋問されるのだろう。
だがしかし、我らに応える術は無い。
公爵家に関わることを一言でも漏らせば即死。
通常の誓約はここまでではない。
さすがに我らとて命は惜しい。
何より、あんな主とも呼べないような者達にこの命捧げたくは無い。
捧げる価値もない。
誰もが黙秘していると、この国の皇兄である大公閣下がお目見えした。
「・・・・・・ふむ。面倒な誓約をかけられているねえ。お前達、誰かサクヤを呼んできてくれるかい?」
『御意』
「・・・少し待っててくれ。ああ、今は何も言わなくていいよ。死なれちゃ困るからね」
「・・・・・・」
「ここからは独り言だから聞き流していいよ」
「・・・・・・」
「サクヤはね、かなり酷な環境で精一杯独りで生きてきた。私達に心を開いてくれた時に初めて声を上げて泣いたそうだよ。そんな生活ですっかり諦める事に慣れてしまった。そんなあの子が初めてうちのスオウを欲しがってくれたんだ」
我らも話を聞いただけで余りの仕打ちに怒ったものだ。この方達もそうなのだろう。
「だからスオウの婚約者になって貰ったんだよ。スオウもソレを望んだから。廃嫡されたことは幸運だった。皇帝陛下の養子になれたのだから」
「・・・・・・?!」
「知らなかったろうね。情報操作をしているから。知っていたら手を出さなかったんじゃ無いかな? なんせ第2皇子殿下だからねえ」
知らんぞ?!
そんな、まさか・・・・・・。
皇家は帝国に喧嘩を売った事になる・・・!
なんて事だ!
それじゃあ、どのみち我らも生き残る道は無いのだろうな・・・。
皆、愕然とした。
そこにサクヤ様とスオウ様がやって来た。
「リオネル父様、お待たせ」
「父さん、手を回すのが早いね」
「すまないねえ、ちょっと厄介なもので」
「・・・ああ、でもけっこう雑な誓約魔法ですね。大丈夫ですよ。解除出来ます」
え、出来るの?!
我らが戸惑っているうちにぱぱっと『解呪』してしまわれた。
その上美味しそうな和菓子まで。
思わずきらきらしい目でサクヤ様を見つめてしまった。
大公閣下には胡乱げに見られたが。
「そう言う訳で、サクヤの為にも君たちを処分するのははばかれるので、出来ればうちに再就職してくれると助かるよ?」
そう言われて洗いざらい吐く事に一切の抵抗は無く、一も二も無くその話に飛びついたのだった。
---それにしても、大判焼、美味い!
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