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第一章 コウセツって何だろう
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ルチアーノは真純のガウンを脱がせると、そっとベッドに横たわらせた。シーツは肌触りが良く、マットレスは吸い込まれそうなほど柔らかい。きっと最高級の寝台なのだろう、と真純は想像した。不遇な扱いを受けてきたというルチアーノだが、さすがに王子だけのことはある。
しかし、余計な考え事ができたのも、その時までだった。ルチアーノが、自らもガウンを脱ぎ、覆いかぶさってきたからだ。澄み切ったグリーンの瞳に見つめられ、真純は鼓動が速くなるのを感じた。
「そなたは、キスを好まぬようだが……」
そっと真純の頬を撫でながら、ルチアーノが言う。
「男同士の行為は、負担が大きいと聞く。少しでもリラックスしておいた方がよいと思うのだが、どうだ?」
「いえ、嫌なわけではないです!」
真純は、慌てた。
「さっきは、初めてで驚いたんです。それに……」
真純は、言いよどんだ。呼吸のタイミングがわからなかったのだが、さすがにそう口にするのは恥ずかしかったのだ。
「嫌でないなら、よい」
ルチアーノは、少し微笑むと、真純の唇をツッと撫でた。小声で囁く。
「息は、鼻でせよ」
次の瞬間、唇が重ねられる。考えを見透かされたことにどぎまぎしつつ、真純はぎゅっと瞳を閉じた。真純を気遣ってだろう、ルチアーノは、ついばむようなキスを何度か繰り返した。その感触は案外心地良くて、真純は、少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
それを察知したのか、ルチアーノはやおら真純の唇を開かせた。先ほどよりは優しく、舌が侵入してくる。時間をかけて口内を愛撫した後、それは真純の舌に絡みついてきた。
(何か……、僕ばっかり、されてるよな)
これでいいのだろうか、と真純は疑問を抱いた。少しためらってから、舌を絡め返す。ルチアーノが、息を呑む気配がした。
次の瞬間、ルチアーノは打って変わって荒々しく、真純の口内を貪り始めた。呼吸のコツを意識しながら、真純も必死で応える。接吻は、執拗だった。吐息が混じり合い、どちらの物ともわからない唾液が、口からこぼれて伝う。
その時だった。不意に、躰がカッとなった。単なる羞恥ではない。異常な、焼けるほどの熱さだった。
「マスミ殿?」
真純の変化に、ルチアーノも気付いたらしい。唇を離すと、不安げに問いかけてきた。ぼんやりと瞳を開ければ、心配そうな彼の顔が目に飛び込む。
「もしや、魔力が取り込まれたのでは?」
どういうことだ、と真純は目で問いかけた。ルチアーノが説明してくれる。
「私の唾液を咀嚼したのではないか、と言っておる。それを通じて、私をむしばむ魔力の一部が、そなたに移ったのであろう」
ルチアーノは、真純の頭や頬を、いたわしげに撫でた。どうやら、落ち着くまで待ってくれるらしい。真純は再び瞳を閉じると、深く深呼吸した。次第に、熱さが和らいでくる。わずか二、三分後には、真純は元の状態に戻っていた。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
そう告げると、ルチアーノはほっとしたような表情を浮かべた。
「さすがは、回復魔術師殿だ。もう中和したか。……しかし、接吻だけでも効果があるとは」
ルチアーノは、そこで思案するように首をひねった。
「マスミ殿。今宵は、口づけだけに留めておくか? 唾液の摂取だけで、この状況だ。私の精を受け入れれば、その影響は、今の比ではないだろう」
(優しい人だな……)
真純は、ぼんやり思った。呪いをかけられ、赤ん坊の頃から、ずっと幽閉されてきたらしいのに。やっとその呪いから解放される機会を得られたにもかかわらず、異世界から来た真純を思いやってくれるなんて。
(だったら僕も、彼の思いやりに応えないと……)
真純は、ルチアーノを見つめて告げた。
「いえ。最後まで、お願いします」
しかし、余計な考え事ができたのも、その時までだった。ルチアーノが、自らもガウンを脱ぎ、覆いかぶさってきたからだ。澄み切ったグリーンの瞳に見つめられ、真純は鼓動が速くなるのを感じた。
「そなたは、キスを好まぬようだが……」
そっと真純の頬を撫でながら、ルチアーノが言う。
「男同士の行為は、負担が大きいと聞く。少しでもリラックスしておいた方がよいと思うのだが、どうだ?」
「いえ、嫌なわけではないです!」
真純は、慌てた。
「さっきは、初めてで驚いたんです。それに……」
真純は、言いよどんだ。呼吸のタイミングがわからなかったのだが、さすがにそう口にするのは恥ずかしかったのだ。
「嫌でないなら、よい」
ルチアーノは、少し微笑むと、真純の唇をツッと撫でた。小声で囁く。
「息は、鼻でせよ」
次の瞬間、唇が重ねられる。考えを見透かされたことにどぎまぎしつつ、真純はぎゅっと瞳を閉じた。真純を気遣ってだろう、ルチアーノは、ついばむようなキスを何度か繰り返した。その感触は案外心地良くて、真純は、少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
それを察知したのか、ルチアーノはやおら真純の唇を開かせた。先ほどよりは優しく、舌が侵入してくる。時間をかけて口内を愛撫した後、それは真純の舌に絡みついてきた。
(何か……、僕ばっかり、されてるよな)
これでいいのだろうか、と真純は疑問を抱いた。少しためらってから、舌を絡め返す。ルチアーノが、息を呑む気配がした。
次の瞬間、ルチアーノは打って変わって荒々しく、真純の口内を貪り始めた。呼吸のコツを意識しながら、真純も必死で応える。接吻は、執拗だった。吐息が混じり合い、どちらの物ともわからない唾液が、口からこぼれて伝う。
その時だった。不意に、躰がカッとなった。単なる羞恥ではない。異常な、焼けるほどの熱さだった。
「マスミ殿?」
真純の変化に、ルチアーノも気付いたらしい。唇を離すと、不安げに問いかけてきた。ぼんやりと瞳を開ければ、心配そうな彼の顔が目に飛び込む。
「もしや、魔力が取り込まれたのでは?」
どういうことだ、と真純は目で問いかけた。ルチアーノが説明してくれる。
「私の唾液を咀嚼したのではないか、と言っておる。それを通じて、私をむしばむ魔力の一部が、そなたに移ったのであろう」
ルチアーノは、真純の頭や頬を、いたわしげに撫でた。どうやら、落ち着くまで待ってくれるらしい。真純は再び瞳を閉じると、深く深呼吸した。次第に、熱さが和らいでくる。わずか二、三分後には、真純は元の状態に戻っていた。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
そう告げると、ルチアーノはほっとしたような表情を浮かべた。
「さすがは、回復魔術師殿だ。もう中和したか。……しかし、接吻だけでも効果があるとは」
ルチアーノは、そこで思案するように首をひねった。
「マスミ殿。今宵は、口づけだけに留めておくか? 唾液の摂取だけで、この状況だ。私の精を受け入れれば、その影響は、今の比ではないだろう」
(優しい人だな……)
真純は、ぼんやり思った。呪いをかけられ、赤ん坊の頃から、ずっと幽閉されてきたらしいのに。やっとその呪いから解放される機会を得られたにもかかわらず、異世界から来た真純を思いやってくれるなんて。
(だったら僕も、彼の思いやりに応えないと……)
真純は、ルチアーノを見つめて告げた。
「いえ。最後まで、お願いします」
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