33 / 99
アンネリーゼ
物言う王太子妃
しおりを挟む「それに君、なんか太っ」「戻りましたの!」
どいつもこいつも!あれは可哀想なアンネリーゼちゃんがアンタ達のせいで窶れてしまったからじゃないか!!私は元々この体型で決して決して太ってなんかいないから!今着ているワンピースがジャストサイズなのが何よりの証拠だわよ!
自分の失言に気が付いたのかリードはちょっと気まずそうな顔をしたが、直ぐに腕を組んで顎をしゃくり私を見下ろした。私よりも20センチくらい背が高いんだから顎までしゃくることはないのに。心底ムカつきますわ!
「それは結構。物言う王太子妃はすっかり回復したようだ。変わった場所での療養が効果的だったとみえる。どうかなハルメサン!」
リードは突然アルブレヒト様に呼び掛けた。
「卿の報告通りアンネリーゼに特段の問題は無いようだ。直ぐに出立するが構わないな?」
「さぁどうでしょう?妃殿下はお加減がお悪いと仰っておいでですので」
「物言う王太子妃らしい元気な声で饒舌に話していたのが聞こえたようだが?顔も見たくないとか同じ馬車に乗るなどどんな罰だとかお仕置きだとか……誰に対しての罵詈雑言かは知らないが」
「…………」
アルブレヒト様はすいっと目を反らした。ついでにリリアまで。
いいですよーだ。物言う王太子妃は一人で立ち向かうんだから!
「何方かがご親切にとんでもない所にぶっ飛ばして下さいましたの。きっとわたくしの為に転地療養をとお気遣い頂いたのでしょうね。こんなに回復できたんですもの、きっとその方もお喜びになるのではないかしら?」
「それがセクスィ王女とやらの仕業だと?」
「えぇ、わたくしはそのように」
私はリードに向かい渾身の淑女スマイルを炸裂させた。
「願わくばもう少しだけご配慮して頂けたら良かったのですけれど。だって療養先にしてはとっても危険な世界でしたのよ?けれどもきっとご存知なかったのでしょうから仕方がありませんわね。だって判っていながらあの世界に飛ばしたとなるとわたくしの命を狙ったも同然ですもの。そうお思いになりませんこと?」
「さぁどうだろう?僕に判るのは君は確かに物言う王太子妃になったらしいと言うことくらいだな」
「えぇ、今までお腹の中に溜めていた分までぶちまける所存ですわ。さぁ参りましょうか?本城に着くまでの馬車の中でのべつ幕無しに今までの不平不満を1から順にお話しさせて頂きますわ。殿下はよもやわたくしの舌がこんなに回るとはお思いにならなかったでしょうからさぞかし驚かれたでしょうけれど、これが本来のわたくしですのであしからず」
あれ?
今ちょっとリードの瞳が戸惑ったように揺らいだような?おとなしかったアンネリーゼの別人レベルのマシンガントークにびっくりしたのかしら?どうでも良いけれど。
リードは私を無視してアルブレヒト様に歩み寄った。
「ハルメサン、強力に封印された記憶というのはやはりまだ……」
「申し訳ございません。考えられる方法は全て試しましたが妃殿下は全て弾き返してしまわれました。どうやら余程強く閉じ込めておきたいと願われているご様子です。これ以上無理にこじ開けるのはお心のご負担を増すばかりでしょう。ただでさえ今はまだ様々な事で混乱しておいでなのです」
「そうか……」
リードは黙って真っ直ぐに私を見つめた。そういえば帰国してからリードとこんな風に目を合わせた事なんか一度も無かった。リードがわたしに向ける視線はいつも不機嫌で見下すような冷たいものだったから、わたしもリードと目を合わせようとはしなかったのだ。
リードの瞳に映る私は怪訝そうに眉を寄せている。どうしたんのだろう?どうしてリードはこんなに哀しい目をしているのだろう?何かを失ったせいで心に空いた穴を北風が吹き抜けるような、そんな……
「リリア、支度を。直ぐに発つ」
私の疑問を断ち切るようにリリアに言い付けたリードはさっさと部屋から出て行き、私とリリアとアルブレヒト様はしぶーい顔を見合わせ同時に溜息をつきそして慌しく準備に取り掛かった。
結局先に馬車に乗って待っていたリードは手にした書類の束に真剣に目を通していたし、向かい側に座った私もリリアから書類の束を渡された。心身共に疲弊して療養に来て挙げ句の果てには異世界転移させられて。ま、痛快な事もあったけど戻ったのは深夜で日付を跨いでいたんだから実質今日!それなのにもう仕事をさせるなんて、本当にこの国は王太子妃使いが荒くて泣いちゃいそうよ。これじゃリードに文句を言ってやる暇が無いではありませんの!私の隣にはリリアが居るしリードの隣には魔法使いハルメサン。流石の物言う王太子妃も物言える状況ではないのですよね。
「リリア、カーテンを開けましょうか」
「いや、このままにしてくれ」
ん?事務仕事するには暗すぎない?
「ですが、書類を読まれるのにこれでは暗いでしょう?」
「構わない……」
……暗いんだけどな。私は構わなくないんだけどな。
私は諦めて書類を読み始めた。実はかなり心配していたのだけれど私の魂は覚醒前のアンネリーゼとしっかり馴染んだようで内容は理解できる物ばかりだ。これなら仕事に影響が出ることもなく誰にも迷惑を掛けずに済むだろう。内心物凄くほっとしながら目を通していくと知っている村の名前がでてきた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる