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アンネリーゼ
計画概要
しおりを挟む背を向けて颯爽と歩き出した私を呆気にとられて見ていたリリアが追いかけてきた。
「妃殿下……今のは一体なんなのでしょうか?」
「だって、また挨拶もしなかったなんてお小言を言われるのは嫌だもの。向こうがどんな状況だって良いの、私はちゃんと礼を尽くしたって事が大事なんだから」
そこは理解できるとばかりに大きく頷いたリリアに私は説明を続けた。
「あれを見た人はどう思うかしら?殿下はロンダール城からとんぼ返りしたのよ。つまり日帰り。それなのに顔を見るなり抱きついて寂しかったのなんのってひよひよ泣きじゃくるなんて。しかも殿下には私という妻がいるの。あの方は木を見て森を見ていないらしいわ」
「つまり殿下に夢中で殿下のお気持ちを惹き付けることばかりを考えている?」
「そうよ。まぁ両陛下もターゲットに含まれているから殿下だけって訳でもないけれど、この城にはどれだけの人がいると思って?その人達はあの二人をどんな目で見ているでしょうね?少なくともほのぼのと生暖かかい視線なんて送らないと思うけれど?」
「当然だ。実際に陰では苦言を呈している者も少なくない。でもだったら最後のアレはなんの必要があったんだ?やっぱりどこかおかしくなっているんじゃないかと不安になったぞ?」
人の悪い微笑みを浮かべたアルブレヒト様が私を覗き込みリリアは同感だと言うように渋い顔で私を見ている。
「私ね、全くの無計画だったけどついに概要を固めたわ」
「円満離婚の、かい?」
「そうよ。こっちの条件をできるだけ有利にするために、今のこの状況を逆手に取って利用させてもらうのよ」
「それは興味深いな。是非どんな計画かお聞かせ願いたい」
「ねぇアルブレヒト様。さっき言っていた行動って離婚後の私を手助けしてくれるってこと?頼りにしても良いの?ほら、兄さまはもうすぐ赤ちゃんが生まれるのだしできるだけ甘えたくはないのよ。アルブレヒト様が力になってくれるならとっても心強いわ。それならまぁ……教えて差し上げても良いけれど?」
「んー、それはどうでしょうかしらぁ……」
?リリアが明後日の方を見つつ私の手をニギニギしている。え?警告?何の警告?私何にもおかしな話はしていないはずだけど……?
結局リリアは言葉を濁しそれ以上何も言ってはくれず、私はモヤモヤしたまま両陛下の元に向かい帰城のご挨拶を済ませた。そして王太子妃の間に戻るとアルブレヒト様が待ってましたとばかりに出迎えた。
何で?王太子妃の間って私の物じゃないのかしら?
城では私の生活区域全体を王太子妃の間と呼ぶ。私の私室や寝室、浴室に美容室に衣装室だけじゃなくて、応接室や執務室、リリア達侍女や護衛騎士達の控え室やらなにやら王太子妃に関するあれこれが集まったエリアなのでアルブレヒト様が通されていても不思議はないんだけど、それでもふんぞり返って我が物顔で座っていらっしゃるのがリビングのソファってのは首を傾げたいわよね?しかも私が戻るなりリリア以外を勝手に人払いするなんて、私は王太子妃の間を乗っ取られてしまったのかしら?
当の本人は涼しいお顔でプロイデン領の蜂蜜を惜しげもなく入れた紅茶を楽しんでおいでですけれどね。
「で、どんな計画だ?」
よっぽど気になったのかアルブレヒト様は前のめりになって好奇心ではち切れそうだ。
「私、ロンダール城に行くまでは何にも気付かないふりをしていたのよ。エレナ様が殿下に色目を使っているのも私を侮辱していることも殿下に蔑ろにされているのも何もかも。誰の目にも一目瞭然だったとは思う。でも私が態度に出したらこの大切な時期に私達が問題を抱えていることが明らかになってしまうって。まぁ私もこんな扱いを受けるなんて夢にも思っていなかったからかなり混乱していたのよね。どうしたら良いかわからなくて抱え込むしかできなかったの」
この先に何があるのかわからない不安感が私を怯えさせ途方にくれさせた。
エレナ様を好きになったこと、それでも今は婚儀を取り止められないこと、いずれ私と離婚してエレナ様を迎え入れるつもりであること。どんなに理不尽な内容だとしてもリードが自分の気持ちを話してくれれば良かったのだ。愛する人と歩いて行きたいと言ってくれたならあんなに傷付くことはなかったのに。
何も打ち明けてはもらえないという現実に私は何よりも絶望したのだろう。
「ここを離れただけじゃなく違う世界に飛ばされて私は人生を切り開いて行きたいと思うようになったの。その為には立ち向かって行かなくちゃいけない。それも王室には刃向かわないって条件付きでね。あくまでも穏便に、向こうから申し訳ないが離縁して欲しいと言ってもらわなきゃいけないわ。間違っても私に原因が有るって仕立てあげられたらダメ」
「そんなっ!妃殿下に何の咎がありましょう。こんなに必死で努力されてきたのですよ?」
「エレナ様の印象を良くする為ならそのくらいやられかねないわ。あの人このままじゃ道ならぬ恋をして前妻を追い出した悪女って言われるもの」
ま、そのままズバリだけどね。
「だから計画を立てたのよ。それも一捻りしてより優位に立つためのね」
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