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消し炭にしてやる
しおりを挟む「その魔物も邪魔ばかりして鬱陶しいわ。修復が面倒だから、やりたくなかったけれど、もういいわ。乗り換えてからあなたの魔力を使ってゆっくり治していけば綺麗になるでしょ」
執事の死体を踏み越えながらメディオラがこちらに歩いてくる。その表情は怒りに満ちていて、左手に火炎魔法を発動させた。
「心臓の修復だけで済ませようと手間を惜しんだのがいけなかったわ。最初から逃げ場を無くして確実に殺せばよかった」
メディオラが右手でパチッと指を弾くと、大きな火柱がボウっとアメリアとピクシーの周りに立ち上る。あっという間に炎の澱に閉じ込められて、二人は身動きが取れなくなる。
炎の向こう側から段々距離を詰めてくるメディオラは、確実に自分の手でとどめを刺すつもりで左手に大きな火の玉を作っている。
あんな巨大な火球ぶつけられたら、やけどどころか骨まで残らないだろう。燃えカスとなった体でも器として使える手法があるのだろうか。それとも怒りで我を忘れているのか。
「つ、次の体を消し炭にしていいの? 焦げ焦げの体じゃ使い物にならないんじゃない?」
冷静に考えなさいよとピクシーが煽るように言ってみるが、メディオラはニヤニヤと笑うだけで更に火力を上げてくる。
「じゃあアメリアが消し炭にならないようにまた身を挺して守りなさいな。お前はまる焦げになるけれどね!」
振り上げた左手から巨大な火球が放たれた。
ピクシーの胸に抱き込まれた瞬間、アメリアたちの背後から爆風が襲ってきて、火球がメディオラのほうへ押し返された。
顔をあげると、アメリアたちの後ろにサラマンダーがいて、火炎を吐いてメディオラの魔法に対抗している。
「サラマンダー! 無事だった! 良かった!」
「待たせたなアメリア! 今の隙に逃げろ!」
火柱をしっぽで叩き潰してアメリアたちの逃げ道を作る。
サラマンダーの背中側に入ることができて、炎の熱さから逃れ扉のほうへ向かおうとしたが、メディオラの炎に押し負けサラマンダーの巨体が後ろに弾き飛ばされる。
行く手を阻まれるかたちになった二人の元に、再びメディオラが歩み寄る。
「矮小な魔物が二匹になったところでなんの足しにもならないわね。まずは邪魔なトカゲを焼き殺してあげるわ。早く死になさい」
サラマンダーにとどめを刺すべく、メディオラが炎をまとう左手を振り上げる。
炎の魔物であっても、大魔女の放つ魔法を真正面から受けて無事でいられるはずがない。
「サラマンダー! 逃げて!」
小さなトカゲになれば姿をくらませ攻撃から逃れられるはずだ。だから逃げろと叫んだが、彼はその場から動こうとしない。
自分が逃げたら炎がアメリアに当たるからだ。だから盾になるためにこの場に留まる決断をした。
「サラマンダー!」
視界がオレンジ色の炎で埋め尽くされた。
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