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 1月1日。年が明けた。1575年の始まりである。新しい年・・・まぁ新年だな。この1月1日は織田家の諸将は自分達の領土に戻っている。意外にも織田家は正月の『1日は家族や親類と過ごせ』と信長に言われているからだそうだ。

 その信長自身も身内、親戚、家族などと城で過ごすらしい。その城の端の三の丸にて今井さん、津田さん、千さん、オレ、イシュと部屋を充てがわれている。なんでも本当に好きにしていいとのこと。

 だからオレは二の丸、本丸と好きに行き来して隠し扉や、隠し通路など軽くマッピングしている。後学のためだ。オレも城が欲しいからもし、作る事となれば参考にしようと思っている。

 それでも散策はすぐに終わりオレ達、堺組の人はとりあえずオレが出した異世界産の茶菓子類、酒で正月を迎え、織田家から餅を貰い、魚の鯛までもらったりしている。

 そんな中、突如、信長の小姓から呼び出しが掛かる。

 「失礼します。お館様から山岡様とイシュ様を本丸に連れて参れと言われています。いかが致しましょう?」

 「今から向かいます」

 別に何かしていたわけではないからとりあえず向かう事とした。

 本丸にはいつもの喧騒とは打って変わって、静謐となっている。

 「入れ」

 「「失礼します」」

 イシュとオレの声がハモりながら私室へと入る。

 「まずは・・・前年の暮れの数々の贈り物は感謝する。ませきすとおずだったか?これは誠に良い。城の中が暖かくて良い」

 「気に入ってもらい嬉しいです」

 「まぁ、なんだ。楽にせよ。今日くらいしかゆっくり語らえまい。暫し色々聞くが許せ。言葉を選ばずそのままで答えよ。訛りも気にせずとも良い」

 信長がそう言うのを皮切りに数々の質問をされた。

 まずはやはり、異世界の事だ。軽く異世界の事は伝えてあるが詳しくは言っていない。既に聞かれた事も改めて聞かれ、魔法の事を特に詳しく、戦はどんな形だったとか、銭はどうなったいる、誰がどの国を治め、税率はどうなっている、庶民の暮らし、娯楽などかれこれ質問だけで既に昼を回っている。

 その顔は真剣そのもので、特に信長は魔法に興味を示した。

 「魔法というのは何ができるのだ?」

 「はい。簡単なのでいえば、火球を出したり水の壁を出したりと色々とあります」

 「ここで見せてはもらえぬか?」

 ボッ

 オレは小さな火球を出す。

 「ぬぉっ!?!?」

 あの冷静沈着な信長が派手に驚いた。

 「兄上!!!どうされましたか!?」

 信長が驚いた声を出してすぐに、襖が激しく開けられた。正体は言わずもがな。『兄上!!』と言ったからすぐにお市だろうと分かった。いや、於犬の方という可能性もあるがなんとなくお市だと思う。

 「市!いきなり入ってくるなと何回も言っているだろうが!」

 「ですが兄上のあのような声を聞いたのは初めてで驚いたのです!!」

 やっぱお市だったんだな。確か去年まで守山城に居たけど、長島の戦いで守山城の城主 信長の叔父の信次が戦死して、同じく於犬の方も旦那を亡くしてここ岐阜に戻ってたんだよな。ここは史実通りだな。

 「これ!市!兄上の邪魔はしてはいけません!しかも客人が居られるのですよ!兄上、申し訳ありません」

 「犬か。ふん。もう良い」

 於犬の方も登場か。市は絶世の美女と謳われているだろうけど・・・確かにこの時代では好まれるのかな?眉毛を剃って、髪の毛は腰くらいに長くセンター分け。デコが白く見え、肌は言わずもがな日焼けも一切していない。現代感覚?異世界感覚?のオレからすれば美人とは思えない。いや、『抱いて』と言われれば土下座案件だけど。

 それよりオレは於犬の方の方が美人に見える。肌は同じように日焼けなんてしていないし、髪もお市と同じような感じだけどちゃんと眉毛もあり、この時代では珍しく少しふくよかな体型だ。健康的で良い。ただの土下座ではなくジャンピング土下座案件だ。

 「妹が失礼致しました。於犬と申します。こちらは妹の市です」

 「気にしていません。山岡尊と申します。こちらはイシュです」

 「イシュです。よろしく」

 「ふん。来てしまったからにはしょうがない。タケル!この女2人は同腹の妹達だ。同席させても良いか?魔法とやらを見せてやりたい」

 「はい。構いませんよ」

 「では、今一度先の魔法を見せよ」

 ボッ

 「キィェヤァーーーーーー!!!!貴様!!物怪の類か!?」

 いやいやお市さんや?普通にオレは人間だぞ!?

 お市が慌てて後ろに下がった時、体勢を崩し着物が少し捲れた。うん。やはり権力者の妹だろうがパンツは履いてないみたいだ。好みの女性ではないけど脳内のフォルダーに保存しておこう。お市はモジャモジャ剛毛だったと。

 「これ!市!はしたないですよ!山岡様、妹がすいません」

 「いえいえ。オレの方もいきなりすいません」

 誰も裾の捲れた事に触れない。於犬さんの方だが・・・物腰柔らかく、礼儀も正しく少し好きになりそうだ。魔法を見ても少し驚いていたようだが落ち着いている。

 「市!騒ぐな!騒ぐなら退席させるぞ!タケル、それはその大きさしか出せぬのか?」

 「いえ、大きなのも出せます」

 オレは思わず本当の事を言ってしまったがすぐに後悔した。相手はあの信長だ。適応力の高い信長なら・・・

 「ほぅ?どのくらいのが出せるのだ?敵陣にぶつける事もできるのか?連続で出せるのか?防ぐにはどうすれば良いのだ?」

 一つの質問が来て答えると更に倍以上の質問がくる。そしてそれをすぐに戦に繋げようとしてくる。正直、今の日本の武将、兵全員対オレでもオレの圧勝だろう。だがオレはそんな事望んで居ない。戦にも出たくない。だから少し話を修正する。

 「敵陣に投げる事はできますが、大きな球ですと日に1発しか打てません。それなりに力を使いますので。防御の方ですが同じ威力の魔法、もしくは対となる魔法を放てば防御できます。火球なら水球ですね」

 「そうか・・・だが1発でも脅威だな。防御の方はそれじゃないと回避できないのか。ワシの知るところでは魔法なぞ使う南蛮人なぞは初めて聞いた。他にも使える者は居るのか?ワシも鍛錬すれば使えるのか?」

 「できません」

 これは嘘だ。オレがヴァースクリエイトで信長に魔力を流し、魔力操作を信長が覚えると直ぐには無理だろうが半年後くらいには魔法が使えるだろう。覚えたとしても最初は水を出すくらいしかできないだろうけど。

 だがオレは教えるつもりはない。この人に教えるとすぐに何でも燃やしてしまいそうだからだ。それに異世界では男性より女性の方が魔力が高い。そして複属性の適性も女性の方が高い。

 これは召喚されすぐに皇女様に聞いた事だが、世界を作った女神様が・・・

 『男は身体の作りを丈夫にする代わりに女は器用な作りにしたの。だから魔術師は女性が多いでしょ?そういう事なの。地球ではそうじゃないの?』

 との事だ。地球には魔法なんてない。と言ったら心底驚いていたけど。

 だから、異世界では地球以上に女性が強かった。だが、男はプライドも一段と高く負けないように女性軽視も強く、女性はかなり不遇な世界だった。

 「それは何故だ?何故ワシは魔法を使えんのだ?」

 オレは嘘を言って誤魔化す。

 「魔法には適性というものがあり、男性は特に魔法が覚えにくいのです。オレ達の国に産まれたのなら分かりませんが他所の国の人はみんな魔法は使えなかったです」

 「ぐぬぬ・・・」

 いやマジで悔しそうなんだが!?

 試しにヴァースライブラで信長の適性を見てみようか。

 「織田様、すいません失礼します」

 「ぬっ、ぬうぉ!?やめんか!気色悪い!」

 オレは気にせず軽く手を触れて信長を適性を見る。

 [魔法適性◯    水 闇 体術◎  銃術◎  刀技◎]

 オレは驚いた。向こうでは男は基本、適性×か適性◯でも一つの属性しか適性がない事が当たり前なのに、まさかの適性◯で2属性も適性がある。

 この適性◯とは何かといえば、魔法を使った時の消費魔力がかなり違うのだ。例えば適性×なら仮に火属性が適性だとしてもファイヤーボールなら撃てて2発が限界だろう。

 だが適性が◯なら10発は撃てる。つまり5倍は違うのだ。ちなみに女性だが、向こうの世界の女性でヴァースライブラで見た事ある人は全員適性◎だった。同じくファイヤーボールで例えるなら50発は撃てるくらいだ。それだけ魔法に関しては女性の方が優れている。

 だが、逆に剣術や槍術、体術など接近戦などに関しては男性の方が適性が高い。んで・・・◎が3つもあるなんて中々居ない。それに銃術なんて初めて見たんだが!?向こうの世界に銃が無かったから当たり前か・・・。

 「いい加減に離さんか!」

 「す、すいません」

 「チッ。今のはなんだったのだ?」

 「織田様が魔法を使えるか確認させてもらいました」

 「それならそうと早く言え!危うく斬るところだぞ?」

 いやいやあれで斬られるのか!?勘弁してほしい。

 「以後気をつけます」

 「ふん。で、結果は?」

 「刀や銃なんかは凄く上手なんじゃないですか?ですがやはり魔法は・・・」

 「そうか・・・」

 可哀想だが教えるつもりはない。水だけなら極大魔法はないから教えてもいいが、想像通りの闇属性の適性があるからな。闇は消費魔力が高い魔法ばかりだけど、極大魔法ばかりだから覚えられると大事になるしな。

 適性×なら闇属性は覚えても魔力が足りず発動しないけど◯なら対象の生命力を刈り取るダークスフィアや、闇殺系魔法の最上位のダークインフェルノなんて覚えられると魔力のない日本の生き物なら未来の山梨、長野辺りは生き物は全て絶滅するんじゃないのかとすら思う。

 「お主は面白い奴じゃ!妾も見てたもれ!!」

 「こら!市!!」

 「うっ、うをっ!?」

 急にお市が両手でオレの手を握ってきたのでビックリしてしまった。

 「なんじゃ?妾の事は見たくないと申すのか?」

 「え、あ、いや・・・」

 「ふん。ついでじゃ!市と犬も見てやれ。気にせずともよい。此奴らは出戻りじゃ。仏門に入るくらいしかできまい」

 いやいや、お市さんはまだしも於犬さんさんまで仏門に入らなくてもいいんじゃない!?許されるならオレが・・・いや何でもない。

 信長がそういうなら見てやろうじゃないか!

 [魔法適性◎ 火 水 土 木 光 闇]

 「はぁ!?」
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