雪国の町 小説一覧
1
件
1
雪と海と山に囲まれた小さな町・雪杜町。かつて観光地として賑わったこの町は、今ではシャッター通りと空き家が目立つ静かな場所になっていた。東京で働いていた若手コンサル・颯馬は、故郷の観光案内所が廃止されそうだと聞き、一年だけのつもりで戻ってくる。
再会したのは、役場観光担当に転職した元同僚の瑠奈。木工房を営む寡黙な職人・琉央、「ローカル旅」配信を続けるブロガーの亜矢菜、数字に厳しい財政担当の樹佳、老舗酒蔵の若き蔵元・龍護。癖の強い面々と一緒に、颯馬は駅前広場から商店街、神社、足湯、酒蔵、りんご園、岬、旧校舎、雪灯ろうの川沿いまで、九つの場所を歩いて巡る散歩コースづくりに挑む。
高級旅館と海辺の民宿の「マダム同士の張り合い」、観光バスの突然のキャンセル、停電の夜の花火、名前だけを盗まれたチラシ騒動、吹雪でコースどおりに進めなくなった雪の夜――失敗と笑いの積み重ねの中で、彼らは「ご当地らしさ」を数字ではなく、人の表情で測るようになっていく。
やがて冬、「キミと雪見酒」という夜の催しが始まる。雪灯ろうの明かりと湯気の立つ日本酒、肩を寄せ合う観光客と地元の人々。その中で、颯馬は東京に戻る道と雪杜に残る道のあいだで揺れながら、瑠奈との間にある「声にならない好き」に気づいていく。九つの場所の先に、まだ名前のついていない好きな場所が増えていく
文字数 17,073
最終更新日 2025.12.05
登録日 2025.12.04
1
件