第17回漫画大賞 秋の陣終了

第17回漫画大賞 秋の陣

第16回漫画大賞 春の陣

選考概要

今回、編集部内で大賞候補作としたのは「飛鳥舞伝-花の乳母姫ノ章-」「タイムスリップした嫁、高校生の旦那と出会う」「限界シェフ」「はつ恋のつづきを君と。」「彷徨のLumiêre(リュミエール)」「Beyond the rain」「メロウ・スロウ・セカンドライフ お嬢様と執事の北欧ふたり暮らし」「[BL]我慢出来ません!!」「土蜘蛛醤太くん」「誰かの願いが叶う時」「黎明に降り星 - 誰が天使を殺したか?-」「不死者の交渉人」「ほろびを継ぐもの」「雪國の百合花」「狗の本懐」「鉄屑頭と機械兵 ScrapHead & Automato」「プルクラミール」「城の魚」「イザベラさんは穢したい」の19作品。

独自の魅力を持つ多彩な候補作の中から、編集部内で最も高い評価を得た「黎明に降り星 - 誰が天使を殺したか?-」を大賞(賞金50万円)に選出した。今回で4回連続の大賞選出となり、投稿作品のさらなるレベルアップを感じさせる結果となった。

続く各賞の選考では、次いで支持を集めた「不死者の交渉人」を編集長賞(賞金10万円)に、「ほろびを継ぐもの」を優秀賞(賞金10万円)に、「土蜘蛛醤太くん」をネコ部長賞(賞金10万円)に選出した。
さらに今後の活躍への期待感から、「限界シェフ」を特別賞(賞金5万円)に選出。また、BL賞(賞金5万円)には「はつ恋のつづきを君と。」を選出した。

「黎明に降り星 - 誰が天使を殺したか?-」は、天使達の住む世界と人間の国、双方の視点で事件を紐解いていくサスペンスファンタジー。非常に高い画力と、魅力的なキャラクター設計、題材のオリジナリティが高い評価を集めた。世界観やストーリーは、よく作り込まれている一方で、読者を置き去りにしてしまっており、分かりやすさという意味ではもう一歩の工夫が欲しい。キャラクターの心情や目的とリンクさせ、物語や設定を伝わりやすく整理して見せていくことで、更に高いレベルに昇華できるだろう。

「不死者の交渉人」は、山奥に潜む吸血鬼の少女と、吸血鬼狩人の少年が出会うダークファンタジー。起承転結がしっかりまとめられたストーリー構成と、見せ場の作り方や演出を含めた総合力が高く評価された。主人公の人となりや目的がよく分からないままストーリーが進行するので、見せ場での盛り上がりに欠けるのが惜しい。主人公をしっかりと立て、物語への牽引力を持たせたい。

「ほろびを継ぐもの」は、スチームパンク的な舞台設定を取り入れたダークファンタジー。美麗かつ唯一性を感じさせる色彩センスと、人物から小物に至るまでの繊細な画力が高い評価を得た。一方で、アクションシーンにおける連続性の不足や、世界観やストーリーの背景が説明不足である点などが課題。読者視点でより分かりやすい構成を意識できると良いだろう。

「土蜘蛛醤太くん」は魔界のラーメン屋の看板息子が主人公のBLコメディ作品。主人公のエッジの立ったキャラクター性と、それを魅力的に表現する画力が高い評価を集めた。お話のテンポもよく、老若男女の描き分けも十分にできている。一方で、コマ割やセリフ量のコントロールなど、画面構成面で情報を詰め込みすぎなので、読みやすさを改善していくことが今後の課題だろう。

「限界シェフ」は、極限状況におけるご飯の美味しさをテーマにしたギャグ×グルメ作品。斬新な企画力と、安定した画力、画面構成力が評価を得た。メインキャラクターの目的や人となりが不明なので、物語に入り込みきれないのが勿体ない。食べ物については、調理過程をしっかり描き、シズル感を強化するなど、更に美味しそうに見えるような工夫ができるとなお良い。

「はつ恋のつづきを君と。」は、幼い頃の想い人と高校で再開するBL作品。人物や背景、ちょっとしたキャラの仕草など、細やかで精度の高い画面作りが評価された。ストーリーはやや盛り上がりとフックに欠けるのが課題。画面構成では、コマをもっと大胆に割り、見せ場のシーンをしっかり見せていくと良いだろう。

「飛鳥舞伝-花の乳母姫ノ章-」は、飛鳥時代を舞台にした歴史ファンタジー。史実を元にアレンジされた独自の世界観やキャラクターと、見せ場や引きがしっかりとしたストーリー展開が魅力。画力については、キャラクターのパーツのバランスを意識したい。キャラクターの数が多いので、各キャラの目的や感情をもう少し分かりやすく整理して提示できると、読者が混乱せずに読めるだろう。

惜しくも受賞を逃した12作品にもそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。

「彷徨のLumiêre(リュミエール)」は、中世風の世界に過去から召喚された主人公を中心としたファンタジー。ストーリーに謎や引きをちりばめて、ページをめくらせる工夫がされているのが好印象だった。一方で、やや作り手の都合が垣間見えてしまう唐突な展開が見受けられるため、見せ方や演出方法を工夫して欲しい。絵については、キャラクターの顔と表情のパターンを増やして、より作家としての独自性を強めていけると良いだろう。

「雪國の百合花」は、特別な力を持った刀を受け継いだ少女が主人公の和風ファンタジー。主人公の少女をかわいく描きたいという熱量が絵から伝わってくる。半面、男性キャラとの思い入れの差が画面に如実にあらわれてしまっているため、女の子以外の画力を強化することで、画面全体の統一感が向上するだろう。ストーリー面では唐突さが目立ち、登場人物の心情の変化も分かりにくくなってしまっているので、もう一歩練り込んで欲しい。

「Beyond the rain」は、生まれつき角が生えた少年が主人公のファンタジー。牧歌的な風景と、その裏にある人間の負の部分を対比させた、どこか不穏な雰囲気に引き込まれる作品。一方で、物語を通して読者に何を楽しんでもらうのか、方向性を提示するような出来事が序盤で描かれておらず、キャラクターの魅力を十分に伝えられていない点が惜しい。起承転結の起をしっかりと作り、読み手を物語に引き込んでいって欲しい。

「[BL]我慢出来ません!!」は、ヤクザとその弟分が主役のBL作品。確かな画力と見せ場をつくる力が評価を得た。ストーリーとしては、キャラクターの昼と夜とのギャップを楽しむ作品のはずだが、普段の姿が十分に描かれていないため、魅力が十分に伝わってこないのが残念なところ。絵については、キャラクターの顔の描き分けが強化できると、更に魅力が増すだろう。

「メロウ・スロウ・セカンドライフ お嬢様と執事の北欧ふたり暮らし」は、居場所を失った少女と居場所を捨てた青年が第二の人生を楽しむファンタジー作品。細やかな描き込みが見事で、作品全体に華やかさを与えている。全てのコマの情報量が多いので、メリハリを付けられると読みやすさが向上するだろう。ストーリーはやや散漫なため、キャラの目的を明確にして、どんなお話しなのかをしっかりと序盤で提示したい。

「誰かの願いが叶う時」は、病気の母を治すために魔女に弟子入りする少女が主人公のファンタジー。キャラクターの感情をしっかりと表現しようとしている点や、堅実なストーリー設計が好印象。キャラの絵はバランスの崩れに気を付けたい。画面構成がやや詰め込みすぎなので、見開きで主役となるコマを決め、メリハリを意識すると良いだろう。

「鉄屑頭と機械兵 ScrapHead & Automato」は身体が機械の少年と、脳が機械の少女が戦場で出会うミリタリーファンタジー。画力、コマ割り、演出等、総合的な実力が高い。台詞が説明的になってしまっているので、題材を活かしたアクションシーンなどの中で分かりやすく伝えたいところ。また、キャラクターの心情の変化が唐突で、話の都合に操られているように見えてしまうため、内面の描写を丁寧に描くと良いだろう。

「タイムスリップした嫁、高校生の旦那と出会う」は、見合い結婚した夫のことが大好きな妻が、高校生時代の夫に会いたくてタイムスリップするラブコメ作品。ありそうでなかった設定だが、SNSで漫画を読むことに親しんだ若年層にも受け入れられそうな企画だと感じる。ヘッドホンなどの小物類の違和感が悪目立ちしてしまっているのが勿体ないため、資料をしっかり見て描くと良いだろう。また、4コマ形式なので、オチはもう少し工夫が欲しい。

「狗の本懐」は、不良の幼馴染に憧れる青年が主人公のBL作品。耽美さを感じさせる画力と、引きのあるストーリー設計が評価を得た。主人公がなぜ幼馴染に憧れるに至ったのかという過程が省略されているので、その部分を丁寧に描いてあげると、読者のキャラクターへの共感度を高められ、見せ場のシーンがより効果的に作用するだろう。

「城の魚」は美大浪人生の主人公の苦悩を描いた青春群像劇。高いリアリティを持って描かれる受験期の空気の表現力や、繊細な画力が評価された。美大受験以外の主人公の人となりが不明なので、導入部などでもう少し丁寧に描けると作品に入っていきやすい。絵については、各キャラの目と喜怒哀楽の表現が似通ってしまっているので、バリエーションを出せると更に良くなるだろう。

「イザベラさんは穢したい」は、優等生な子供魔王を堕落させたいお姉さんが主人公のコメディ。華のある絵柄で、気を張らずに読める作品コンセプトはトレンドを取り入れられている。短いページ数の中でキャラの魅力を見せられているのも良い。オチはやや弱いが、企画の拡張性はあるので、画力を強化しつつお話を展開していけると良いだろう。

「プルクラミール」は魔力を持つ少年と少女が出会うファンタジー。まだ分量が少なくストーリー面の評価はできないが、人物や背景などの基礎画力が他投稿作と合わせて評価された。キャラと画面の距離が見開き単位で似通ったものばかりにならないようにバリエーションを付け、ペンやトーンを用いて完成原稿を作成していって欲しい。

「第16回漫画大賞 春の陣」は895作品と過去最多の応募数を更新し、4回連続の大賞選出という大変喜ばしい結果に。WEBならではのバラエティに富んだジャンル、ネタ、作風が集まり、充実した選考となった。次回も自由な発想と個性を持った才能あふれる作品が大賞を勝ち取ってくれることを期待している。

開催概要はこちら
応募総数895作品 開催期間2021年04月01日〜末日

編集部より

華があるキャラクターと緻密な背景を描ける画力、メリハリの付いたコマ割や構図を設計できる構成力、共に非常にレベルの高い作品です。天使殺しという事件を、天界と人間界それぞれの視点から描く重厚なストーリー展開も、常に先が気になるものになっており、全体の完成度が頭ひとつ抜けています。老若男女のキャラクターの描き分けやセリフまわしなども秀逸で、各キャラが活き活きとしています。一方で、複雑な設定や世界観の重要な部分をしっかり伝えないままお話が進行してしまうので、何をやっているのかが分かりにくく、読者に負担を強いる作りになっています。意味深なセリフや説明セリフを極力避け、キャラクターの心情や目的とリンクさせながらお話を展開できると、更に多くの読者を獲得できるでしょう。


編集部より

ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。史実を元にファンタジー要素を取り入れた独自の世界観は圧巻で、強く惹き込まれるような魅力を持っています。ストーリーも随所に伏線を入れ込み、パート毎に山場をつくることで、長編作品ながらも失速せずに読者を引き付けられています。絵については、表情豊かにキャラの感情を表現できていますが、随所でキャラクターのパーツのバランスの乱れが見受けられるので、デッサン力の向上がはかれると、更に多くの読者に受け入れられやすくなるでしょう。


編集部より

ストーリー、画面構成、演出ともにしっかりとまとまっており、読み切りとして最後まで読ませる完成度の高い作品になっています。柔らかく、すっきりとした絵のタッチは、主人公のような少年キャラクターには合っていますが、吸血鬼や抵抗する村人など、感情をむき出しにするキャラクターや描写にはやや物足りなさを感じさせるため、体格や老若男女による描き分けを強化できると、より作品に厚みが出るでしょう。また、主人公のインパクトが弱いのが大きな課題なので、目的や人となりをしっかりと描き、物語を牽引させましょう。


編集部より

抜群の色彩センスがもたらすカラー絵に唯一無二の魅力がある作品です。人物、小物、衣装などの画力が非常に高く、画面に華があります。一方で、コマを割ったアクションに連続性が不足しているため分かりにくく、迫力やスピード感を損なってしまっています。位置関係を示すロングショットや、予備動作からのアクション、リアクションまでの流れを意識すると、基礎画力の高さと合わさって飛躍的に改善するでしょう。ストーリーは説明不足で、色々な要素を均等に描いてしまっているため、何が主軸なのかを読者に分かりやすいように整理するとよいでしょう。


編集部より

題材の設定や主人公のキャラクター性など、インパクトが強く印象に残る作品です。絵にも華があり、キャラクターが活き活きと魅力的に描けています。老若男女の描き分けも秀逸です。お話はテンポがよく、内容も面白いのですが、画面に情報を詰め込みすぎており、読みにくさが目立つ点が惜しいです。描きたいものをただ詰め込むのではなく、物語の中で何をしたいのか、何を見せたいかを定め、引き算をして画面作りができると、完成度が大きく上がるでしょう。


編集部より

「限界状況の中で食べるご飯は最高においしい」という着想を元に、様々なシチュエーションにおけるメシ物を描くというアイディアが非常に面白く、オリジナリティを感じました。SNS上など、読まれる場所が多様化している昨今でも受け入れられやすい企画だと思います。コマ割りや構図といった画面構成も完成度が高く、読みやすくまとまっています。食べ物は綺麗に描けていますが、もう一歩、読み手が美味しそうに感じる描写を研究し、メインとなるご飯シーンのシズル感を強化していくことが出来れば、更に魅力的な作品になるでしょう。

はつ恋のつづきを君と。

おにぎり
24位 / 895件

編集部より

読み手を選ばないすっきりとした絵柄と、人物、背景ともに高い画力で構成された画面が魅力的な作品です。仕草や表情の描写が秀逸で、キャラクターの魅力を上手く引き出しています。一方で、キャラの心情の変化が唐突で読み手に戸惑いを生む懸念があるため、感情の揺れ動きを丁寧に描くことを心掛けましょう。ストーリーラインはオーソドックスで、やや盛り上がりに欠ける部分があるため、題材や展開の緩急などを工夫して、読者を物語に引き付けられると更に良いでしょう。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。