「冷たい雨」の検索結果

全体で32件見つかりました。
1
キャラ文芸 連載中 長編 R15
愛蘭が二十歳の誕生日を迎えた初春の日、港湾都市・緑港には重たい雲が垂れこめていた。  本来なら祝われるはずのその日、彼女は緑港伯爵家の大広間にひとり立たされていた。  正面には叔父、その隣には従姉の麗香、そして――昨日まで婚約者だった沈琳道。 「どうして……わたしが家をでないといけないの?」  問いかけても、答えは返らない。  沈琳道は視線を逸らし、「麗香を選んだ」とだけ告げた。  麗香は勝者のように微笑み、愛蘭が五年間フラン王国に渡っていたことを責め立てる。 「あなたの後ろ盾だったおじい様も亡くなった。  フラン人とのハーフであるあなたが、この家にいる理由はもうないわ」  叔父は淡々と命じた。 「今日限りで屋敷を出て、街からも去りなさい」  愛蘭に許されたのは、小さな荷物袋ひとつだけ。  怒鳴ることも泣くこともなく、彼女は静かに頭を下げた。  屋敷の門を出た瞬間、冷たい雨が降り始めた。  それはまるで、彼女の代わりに空が泣いているようだった。  ――これで、この街での暮らしは終わり。  市場の喧騒も、港の鐘の音も、すべてが遠ざかる。  愛蘭が向かう先は帝都だった。  祖父が遺した言葉だけを胸に刻む。 『何かあったら、顔中蓮を頼りなさい』  後ろは振り返らなかった。  戻れる場所は、もうないと知っていたから。  誕生日に家を追われるという皮肉な運命の中で、  愛蘭はまだ知らない。  この日が――  一人の女性が「家族」を失い、  一人の女性絵師が生まれる、始まりになることを。
大賞ポイント 4,809pt
文字数 75,232 最終更新日 2026.01.18 登録日 2025.12.28
1