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連載

番外編、桜の木の下で

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これで100話目なんですね。
結構続いていますな。
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「そろそろ約束を果たして下さい」

 いきなり何の脈絡もなく現れたクィーンに思わす「は?」とマヌケな声を上げてしまう。

「デートの約束です! 忘れたとは言わせません! 言ったら拘束します!」

 ──ああ、アレか。 すっかり忘れていた。 もちろん口には出さない。

「それはいいが……ちょっとだけ質問いいか?」

 クィーンが首を少しかしげ頭に? のマークを浮かべる。

「この花が咲いている場所を知らないか? あるのなら是非そこでデートをしたいのだが」

 そういって見せたSSは、リアルで咲いている桜の木だった。 怒られるかもしれないが、どうも大勢で酒を飲み、騒ぐと言う花見はあまり好きではない。 ゆっくり咲き誇る桜を眺めつつ、静かに食べ物をつまみ、僅かに酒を飲み、風流の気分に浸るほうが個人的な好みである……が、リアルではそれは望むべくもない。

「これですか……少々形は違いますが、かなり似たような木に咲く花はありますよ?」

 期待はしていなかったのだが、あるならそれは僥倖。

「そうか、じゃあそこでゆっくりしようか。 場所はどの辺りなんだ? 妖精国かな?」

 その言葉にクィーンは予想外の返事を返してきた。

「いいえ? 人族の街であるファスト付近ですが?」

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 そして翌日。 花見用の食べ物を十分に製作して、クィーンの到着を待つ。 約束の時間の5分前にクィーンが到着した。

「あら? まだ時間ではないですよね?」

 クィーンが焦りだすので、5分前だと伝えておく。

「相手を待たせるのはあまり良い趣味ではないからな……料理もできたし早めに来ていたんだよ」

 これでクィーンの表情が柔らかい物になって行く。

「そうですね、そのほうが間違いが無いですね」

 では、早速目的地に向かおうか……。

「じゃ、クィーン。 すまないのだが案内を頼む」

 ちなみにクィーンの服装も、一般的な街娘が着る様な大人し目の服を着ていた。 まあクィーンが来ているとばれるような、派手なドレスを着ていたらデートどころじゃないからな。 その辺の空気は読んでくれるのがありがたい。

「ええ、ではこちら側です」

 そうして普段は先のフィールドがないことで、人気がほとんどないファストの東門を2人でくぐった。 その時には、自分達2人は後ろについてきている存在に全く気がついていなかった。


「ここです」

 歩く事数分。 クィーンの案内で、目的地にたどり着いた……。

「おお、これはすばらしい……」

 そこには、2本だけではあるが枝垂桜の木が満開の桜を咲かせていた。

「ふふっ、満足していただけましたか?」

 クィーンが満足気にこちらへと声をかけてくる。

「ああ、十分だ。 実に素晴らしい場所だよ……」

 後は簡素なマット代わりのシートを敷いて、その上に食べ物を配置すれば、あっというまに花見の準備は完了だ。 クィーンと揃って腰をおろして落ちつける。

「……綺麗だな」

 ついぼそっと呟く。 風に花びらが舞い、枝垂桜がかすかに揺れる。 リアルでも早々見ることが出来ない光景に、ここが仮想空間であるということを一瞬忘れる。

「それは私の事ですか?」

 そうクィーンが顔を赤らめつつ聞いてくる。

「もちろん、桜の事に決まって……おい、痛いんだが」

 とたんに膨れっ面になり、人の頬を抓って来やがる……。 赤くなったらどうしてくれる。

「もう! どうしてムードを盛り上げてくれないんですか!」

 怒られても困る。 仕方がないので用意してきた食べ物を、食べやすいように並べてゆく。

「ま、ここでのんびり食事をするのも悪くはない……そうやって何時までも膨れているなら、全部自分で食っちまうぞ?」

 まったく、などとクィーンはぶつぶつ呟きながら、妖精国で1番アルコールの度数が低い酒を出してくれる。 シャンパンのように炭酸入りのお酒だ、これは自分がクィーンに用意をお願いした。

「「乾杯」」

 小さいグラスに入れられたお酒をお互いゆっくりと嗜む。 1杯目を空にしたところに桜の花びらがグラスの中に入ってくる……これも風流かと考え、もう1杯クィーンに注いでもらい、クィーンのグラスには自分が注ぐ。

 その後はお互い桜を眺めつつ、言葉も少なく花見を静かに楽しむ。 クィーンがこちらに体重を預けてきているが今日ぐらいはいいだろう……そんな静かな花見の時間は、唐突に終わりを告げた。

(ガサゴソ……ガサゴソ……「音を立てるな!」「ちょっと、良く見えない!」「姉上め……!」……ガサゴソ……ガサゴソ……「あの女王が……」「朝落ち着きがなかったのは、このためですか」「あの様子、うわあ〜」)

 と、後ろの草むらが五月蝿くなって来たのである、ここまできたら盗賊スキルなんてなくたって嫌でも分かる。 クィーンも先ほどまでの上機嫌さはどこへやら、一転して絶対零度の笑みを浮かべている。

「クィーン」「なあに?」「許可する」「ええ!」

 このやり取りの後、クィーンが専用魔法、アイスストリームを発動し、その魔法が収まった後には……クィーンの側近6人+龍ちゃんの合計7名分の氷像が完成していた。

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「で、何時から追いかけてきてたの? ほら、さっさと吐きなさい!」

 完全にご機嫌斜めのクィーンが、自分が貸したイバラの鞭を片手に、尋問を7人に向けて行なっている……が。

「というか、アレだけ前日から浮かれていたら……なあ?」

「ええ、明らかに何かあるって言っていると同じよね」

「こんな面白そうなこと放置するなんて無理無理!」

「ばれたら護衛をしてましたって言うつもりだったのに……」

「いきなりアイスストリームは酷いと思います」

「あのだらしない表情はしっかり収めてありますから」

 などと、クィーンの側近6名が前日からもう何かあるのは分かってましたー! と言うことをぶっちゃけている。 クィーンの顔が赤くなっているのは照れなのか怒りなのか。

「姉上の抜け駆けは断固阻止しないといけないのじゃ!」

 龍ちゃんは今日気がついて、慌てて追ってきたのだが、そこに側近の6名と出会い、弱みを握れるSSを撮ると言う事に協力するため隠れていたのだとか。 龍と妖精は仲が悪いんじゃ……と言ってみたら、「人族地域では争わぬのが暗黙の掟じゃ」と反論された。

 その後はなし崩し的に7人が加わって宴会になってしまった。 クィーンが膨れていたのは言うまでもない……。 さらに後で自分のところにクィーンと自分が写っているSSが送られてきて何とも言えない気分にさせられるのではあるが……それはまた、別のお話。
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結局ラブコメなんかにはなりませんよ、と。
スキル表記はありません。
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