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間章2 勇者達、シルフィーユ王国へ

【何か】とは何者?

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○○○ 桜木春人 視点

なんか、敵味方に散々言われたせいか、精神的に疲れたな。

「犬以下の春人君、乗っ取り者の討伐、お疲れ様です」
「夕実、勘弁してくれよ。犬以下は、結構心に響くぞ」

「まあ、お疲れ様だな。卑怯者の春人君」

「真也、卑怯者もやめてくれ。乗っ取り者は、数も多いからこの案に決定したのに、あそこまで【何か】に罵られるとは思わなかった」

「春人、実際卑怯な手段で討伐してるからね~~。言われても仕方ないと思うよ」
「美香まで言うか!」

「ふふ、【何か】も実体化した瞬間に既に討伐されているとは思わなかったから、苦し紛れに言っているだけよ。気にしちゃダメよ」

リフィアさん、味方にも言われてるんですけど。

「さて、お遊びはここまでだ。ここからは一体化した3体の【何か】との対決がある。乗っ取り者の実体化は、全員怪しい影のようなものだった。おそらく、強制的に実体化されたため、姿が不完全となったのだろう。幸い、一体化した3人は、『サイレント』を展開していたから、15体の【何か】が討伐されていることは気付いていないはずだ。だが、春人が勇者である事は気付いているだろう。ここからは気を引き締めていくぞ」

「「「「「はい!」」」」」


乗っ取られた15人に回復魔法を唱え体力を回復させた後、3人の村人を除いた全員に集まってもらい、今回の黒い実の正体を伝えた。3人に関しては仕事を与えているが、俺達の動きに気付いているだろう。気配を辿ると、開けた平野の方へ歩いていた。相手も状況を察したようだな。俺と戦う気なのだろう。


エルフ達は、皆驚いていた。特に乗っ取られた者は、毎晩悪夢にうなされていたらしく、身体の身動きがとれなかったらしい。その悪夢の元凶となる【何か】に毎日毎日追い回されていたそうだ。15人は、俺に感謝していたな。一体化された3人に関しても、普段通りであったため、怪しいとは思わなかったようだ。男性エルフが2人、女性エルフが1人、その者達の両親に今から3人に一体化した【何か】を討伐すると伝えると泣き崩れてしまった。

「勇者様、息子の皮を被った邪族を討伐して下さい。仇を討って下さい。もうすぐ、あの子と結婚だったのに、2人揃って一体化で死んでしまうなんて----うう----」

そうか、3人のうち、2人は恋人同士だったのか。

「私からもお願いします。大切な娘の仇を討って下さい!うう----ううう」

「---わかりました!必ず、3人の仇を討ってきます」

こうして、俺達7人は平野で待ち受けている【何か】の退治に向かった。


○○○


「バーンさん、結局【何か】が何者であるかはわからないまま、戦いの突入になりそうですね」

「まあ、ハルトが乗っ取った奴を有無も言わさず討伐したからな。これから戦う3人に聞けば問題ないだろう」

あはは、有無も言わさずですか。

「みんな、気を付けるのよ。相手は3体、正体不明の敵、実力も未知数。ただ1つ言えるのは、核といえる部分を破壊すれば、討伐可能ということ。でも、乗っ取った者に関しては、核となる部分を聖剣に合わせてグループ化したから簡単に討伐出来たけど、今度はそうはいかないわ。絶対に油断しないようにね」

皆一斉に頷いた。

3人がいる場所に辿り着くと、威風堂々と3人は俺達を空から見下ろしていた。

「一体化して、こうも早く勇者に出会えるとは。この世界の神に感謝しますよ」
「キャハハ、本当。今回の勇者は冴えない子供か。どうやって虐めようかな?」
「----勇者は死ぬべき存在」

こいつら楽しんでいるな。

「お前らは、一体何者なんだ?邪族か?」

「キャハハ、邪族だって!この世界の邪族は皆低レベルなんだよねー。弱い弱い」
「何者---ですか。我々は、この世界にいる者に呼ばれて、こちらに来たんですがね」
「----人間を殲滅せよという命令でな」

おいおい、どういう事だよ?こちらの世界の者に呼ばれた?その言い方からすると、こいつらは別世界から来たという事になるな。

「お前ら、別世界からきた邪族という事か?」

「キャハハ、違う違う。その邪族から離れな!なんで、私らがあんな程度の低い奴らと同類にされなきゃいけないんだよ!そうだねー、勇者の世界の言葉で言うなら悪魔というのが正しいかな?」

おいおい、悪魔だって!この言葉に真也が反論した。

「ちょっと待て!俺らの世界には、確かに悪魔という言葉はあるが、実在していないぞ!」

「あなた方の世界では、根本的に魔力自体が存在しないから、実在出来ないのですよ。地球の管理者は我々を怖れて、悪魔が絶対に入ってこれないようにしましたからね。まあ、その分、科学文明に特化したせいで、近い将来我々が何もしなくても勝手に滅びの道を歩むでしょうね」

「おいおい、好き勝手言ってくれるな。確かに、今地球上では様々な問題に直面しているが、皆きちんと向き合っているぞ」

「表面上はな。だが、森林破壊や資源の搾取などは、50年前と対して変わっていないぞ。温暖化問題もテレビでは色々と言っているが、二酸化炭素の発生量を多少減少させただけで、地球規模からみたら微々たる変化だ。どこが向き合っているんだ?まあ、日本よりヨーロッパの方がまだマシなんじゃないか?」

こいつら、生々しく語るな。実体化していなくても、地球を観察していたという事か?

「国によって、法律とか色々と問題があるんだよ。それさえ解決出来れば、日本も今以上に改善出来るさ」

なんか、話がズレてきてるな。それにしても討伐した15体と、なんか違うな。

「なあ、話を戻すが、俺達は既にお前達の同胞を15体討伐している。ただ、お前達と15体とで、どこか違うよな?」

「キャハハ、下級悪魔を倒せる力は持っているんだ~。悪魔にもランクがあるからねー。私達は中級悪魔さ。今回は楽しめそうだ」

悪魔、実在していたのは驚きだが、妙に人間くさい。こいつらの根本は何で出来ているんだ?

「なあ、お前達の目的は何なんだ?この世界に呼び出されて、命令を受けただけなんだよな?出来れば、そんな命令無視して、元の世界に帰って欲しいんだけど」

無駄な願いだが、一応言ってみよう。

「キャハハ、残念。私達の目的は、全ての異世界の勇者を討伐すること。私達には勇者を殲滅しろ以外の目的はないんだよね。だから、お仲間さんは帰っていいよー」

おいおい、全ての異世界の勇者を殲滅することが目的かよ。

「おーい、悪魔とやら、俺からもいいか?お前ら妙に人間臭いな。根っこは、何から出来ているんだ?」

バーンさんも、そこは気になっているようだ。

「お前達人間は、毎回毎回同じ質問をしてくるな。まあ、いいでしょう。お前達人間共は、魔族ここでは邪族か、そいつらが世界侵攻をしてきた時、あまりの強さに怖れを抱き、理不尽な世界だと思ったはずだ。そして、勇者を召喚する。どの異世界においても、必ず勇者が魔王を討伐している」

まあ、それが普通だよな。

「どの異世界においても、魔王が討伐された後、魔族達は多くの種族に迫害されている。そして、なんて理不尽な世界だと、勇者やその血を持つ者達を討伐して欲しいという思いが募る。その思いが、全ての異世界で紡がれて出来上がった種族が悪魔だ。だから、我々の根源となる目的は、勇者またはその血を持つ者達を殲滅することなのだ。召喚された異世界がどんな状況だろうが知ったことではない。我々の目的を阻むものは、例え誰であろうと許さん。それが、この世界の邪族であってもだ。まあ、そうは言っても、我々が生まれたのは次元の狭間だ。異世界側から召喚しない限り、私達からは何も出来ない。だから、いつも観察して召喚されるのを待っている」

おいおい、それだと完全にイタチごっこだぞ。勇者と魔王は相反する存在だ。魔族、この世界では邪族を完全に絶滅させるか、和解するしか方法はないぞ!

「なるほどね。ちなみに、これまでに勇者を討伐した奴はいるのか?」

「大勢いますよ。というか、数えきれませんね。ただ、勇者を討伐してしまうと、我々の目的を果たしてしまうせいか、次元の狭間に戻されるんですよ。そして、また召喚されるのを待つというわけです。それが嫌でワザと討伐しない者もいて、数百年過ごした後、世界に飽きた頃に自分で勇者を召喚して殺した者もいますね」

こいつらの帰還方法は、勇者を殺すことだけか!

「キャハハ、ちなみに~私達は勇者の断末魔を聞きたい派なんだよね~。他の悪魔達には悪いけど、あなたの断末魔を聞かせてよ~」

冗談じゃない。

「ああ、最後の質問だ。このスフィアタリアに何体の悪魔が召喚されたんだ?」

「キャハハ、さあね~。今回召喚した奴は仮にも神だからね~。数えきれないくらいいるんじゃないかな~」

最悪だな。その神の野郎は女神サリアか?それとも涼見凌一のような日本人召喚者か?なんにしても、厄介なことをしてくれたな。

《カッ》

その時、女の悪魔から何か魔法が放たれた。何だ?

「キャハハ、安心しな。誰にも邪魔されたくないから周囲に結界を張っただけだよ。他の悪魔やあんたらの味方が来ても面倒だからね~」

それは、こちらとしてもありがたい。

それにしても、さっきから奴らの気配を探っているけど、悪魔独特の気配というものがない。あるのは元の身体の気配だけだ。悪魔を見破るには精神一到しかないということか。各異世界の勇者を葬る程の力で、邪族を弱者と罵る程ということは、相当の力を持っているはずだ。相手は3体、今の俺達の力で対抗出来るか?ちい、考えるな!全力で戦うのみだ!もう、あの時のようなヘマはしない。相手の身体はエルフでも、中身は悪魔だ。躊躇せず、ただ討伐あるのみだ。


「バーンさん、あの女の悪魔は、俺は1人で戦っていいでしょうか?」
「ちょっと春人、危険過ぎるよ!」

ごめん、美香。俺自身、乗り越えないといけないんだよ。

「ほう、強気に出たな。相手の実力は未知数だぞ」

「自分の甘さに打ち勝ちたいんです。相手は、女の皮を被った悪魔ですから」
「なるほど、叩っ斬ることで自分の甘さを克服するという事か?」

「はい!」

「いいだろう。女はお前に任せた。寡黙な男は、リフィアと美香達で頼む。俺は、悪魔について色々と話した自信家野郎をブチのめす」

「わかったわ。ハルト、相手が強過ぎる場合は、私か美香が参戦するわ」
「はい!みんな、ごめんな。これは、俺の甘さを克服する試練とでも思っておいてくれ」

「まあ、お前は女に甘いからな。丁度いいかもしれん」
「任せたぜ、あの寡黙野郎は俺達に任せろ!」
「仕方ありませんね。ですが、無理してはいけませんよ」


義輝、真也、夕実、ありがとう。


さあ、悪魔どもブチのめすぞ!
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