Melting Sweet

雪原歌乃

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Extra.3 悪戯にはほろ苦い媚薬を

Act.2-01

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 アパートに着くと、俺は早速スーツから楽なジャージに着替えた。
 一方、俺が着替えている間、夕純さんは途中のスーパーで買い込んだ惣菜や缶ビールをローテーブルに広げている。
「すいません。着替えてから出すつもりだったのに……」
 少しばかり気まずさを覚えて謝罪すると、夕純さんは、「いいのよ」とにこやかに答える。
「ほんとなら、何か作ってあげるべきなんだろうけど、結局手抜きになっちゃったし……」
「それこそ気にすることじゃないですよ」
 俺は夕純さんの隣に胡座をかいた。
「夕純さんは普段、俺よりも仕事を頑張っているんですから。それに、夕純さんに過剰な期待なんてしませんよ」
「――なんか、その言い方もちょっと微妙ね……」
「あ、いや、そんなつもりは……」
 しどろもどろになってフォローしようとすると、夕純さんは肩を揺らしてクスクスと笑った。
「冗談よ。ありがと。いつも私を気遣ってくれて」
 夕純さんが、俺に軽く口付けてくる。不意を衝かれ、俺は瞠目したままでそれを受けてしまった。
「そういえば」
 俺の手に夕純さんのそれを絡めながら、ゆったりと言葉を紡いだ。
「今日ってハロウィンだったわね」
 夕純さんが俺に真っ直ぐな視線を注いでくる。
「トリック・オア・トリート」
 いきなり言われ、俺は目を見開いたままポカンとしてしまった。
 そんな俺を、夕純さんはなおも見つめ続けていたが、そのうち、気まずそうに視線をそらしてしまった。
「――ごめん。ちょっと言ってみたかったの……」
 カフェにいた時と同様、頬を赤らめて可愛い仕草を見せられた。
 ここには俺と夕純さん以外は誰もいないから、無理に自我を抑えることもない。俺はそう思い、夕純さんを自分の元へと引き寄せた。
「どんな悪戯をするんですか?」
 耳元で囁くと、夕純さんは、「どうかしらね」と答える。
「せっかくだから、衛也君のお望みのことをしてあげるわよ?」
「俺の望みって?」
「――そんなの分かるわけないじゃない。私は衛也君じゃないんだから……」
「ふうん……」
 俺は夕純さんを抱き締めながら、テーブルに視線を移した。そこには、全く手を付けていない惣菜と缶ビールが待機している。
 そのまま、缶ビールに手を伸ばした。そして、一度夕純さんを解放してからプルタブを開けて口を付けた。が、俺はそれを飲み込まず、口に含んだままで夕純さんを再び抱き寄せ、強引に夕純さんの唇を塞いだ。
「んっ……」
 夕純さんが俺の服をギュッと掴んできた。口移しされたビールを飲み込もうとしていたが、完全に入りきらず、口角からわずかに液体が零れ落ちた。
 俺がそれを自分の舌で舐め取る。すると、夕純さんはギョッとして俺を凝視してきた。
「夕純さんのお望みの通りにしましたけど?」
 ニヤリと口元を歪めると、夕純さんは眉根を寄せた。けれども、諦めたように溜め息をひとつ漏らした。
「――狡いわね、ほんとに」
「どこがです?」
「そうやって私の心をかき乱すんだから」
 夕純さんはそこまで言うと、一呼吸置いて続けた。
「責任、取ってよ?」
 この一言で、俺の中の枷が外れた。先ほどよりも強く抱き締め、夕純さんの唇に俺のそれを重ねた。そして、そのまま割れ目から舌を差し入れ、絡ませてゆく。
 夕純さんも俺に合わせてきた。むしろ、俺が振り回されそうなほど積極的になっている。いや、俺は結局、いつも夕純さんの意のままにされているのだけど。
 夕純さんの手が、俺の下半身へと下りてきた。そして、ズボン越しに俺のモノを触ってくる。夕純さんにビールの口移しをした時からすでにそこは固くなりかけていたが、何度も擦られると窮屈さが増す。
「責任を取ってもらうのは俺の方ですよ?」
 そう言って、俺は夕純さんを抱き上げた。小さな身体はあっという間に持ち上がり、俺の腕の中にいる夕純さんはあからさまに動揺している。
「お、下ろして……」
「ダメです」
「とにかく、ベッドはすぐそこなんだし……」
「やっぱり期待してたんですね?」
 夕純さんは眉根を寄せて、グッと言葉を詰まらせる。
 そんな夕純さんに俺はニコリと笑いかけ、ベッドまで運んでゆっくりと下ろした。
 仰向けになった夕純さんが、潤んだ瞳で俺を見上げる。非難しているようにも映るが、逆に俺に滅茶苦茶にされることを期待しているように思った。
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