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照明弾の白い光。硝子の天蓋を叩く雨。逃げまどう避難民を、兵士の身体は、正確に撃ち抜いていく。けれど、その身体の内側にいる「わたし」には、指一本動かせない。やめろと叫んでも、声は届かない。
目を覚ますと、狭い兵舎にいた。昨夜まで同じ部屋で眠っていたはずの三人の戦友は消え、床には十か月分の埃が積もっている。名前も、過去も、思い出せない。手がかりは、軍用番号「五二八六三」だけ。
回収に現れた男の首を、身体は、一瞬で折った。男の端末に残されていた指令は、三行だけだった。
回収せよ。 記憶保持状態を確認せよ。 そして――中央記録塔の消去作業までに、処分せよ。
外に出ると、街は復興の途中にあった。戦争は、十か月前に終わっていた。わたしにとっては、昨日のことなのに。
仮設遺体安置所で出会ったのは、記録係のユノ。停戦の直前、避難民三百人が殺された「第九避難所事件」で弟を失い、公式発表の嘘を、九か月、ひとりで追いつづけてきた女だった。
戦時記録がすべて消される式典まで、あと十四日。消されようとしているのは、あの夜の真実なのか。それとも、わたし自身なのか。
身体が勝手に動くとき、それを見ている「わたし」は、誰なのか。 あの雨の駅で、殺したのは、誰なのか。
兵舎のベッドの裏には、四人で刻んだ約束が残っていた。
――名前は、戦争が終わってから。
記憶と記録、罪と選択をめぐる、SFミステリー。
文字数 106,915
最終更新日 2026.10.23
登録日 2026.09.12
触れたものが、潰れる。
三年前、東京湾の埠頭で保護された少女・湊真白には、それより前の記憶がない。行方不明者届も、防犯カメラの記録も、どこにも残っていなかった。あるのはただ、周囲の「重さ」を狂わせる力だけ。
走らない。怒らない。誰にも触れない。
三つのルールを守り、息を殺すように生きてきた。たったひとりの友達にも、本当のことは言えないまま。
梅雨のある夜、高架下で巨大な鋏を持つ男に襲われる。異能を「剪定」し、収穫して回る者たち。恐怖で暴走した力が橋脚をひしゃげさせ、数十トンの鉄骨が崩れ落ちた——その瞬間、落下が空中で止まった。
雨に濡れないまま立つ、黒衣の女。
「ずいぶん下手に使うのね。——それは私のものよ」
彼女は高圧的に命じる。人を傷つける力と、傷つけたくない優しさ。その両方を抱えて立て、と。
なぜ彼女は、真白しか知らないはずの子守唄を口ずさむのか。なぜその背には、刃で丁寧に開かれた古い傷があるのか。
東京の夜を舞台に、重力を狂わせる少女と、名を明かさない魔女の物語がはじまる。
文字数 121,693
最終更新日 2026.10.23
登録日 2026.09.13
男を女に変える呪いがある。第三王子が掛けられ、国は解呪に金貨三千枚を積んだ。
王都から東へ、解呪師の行列が伸びていく。その先頭を切って進むのが、十七歳の魔術師メディ。誰より熱心に呪いを追い、誰より真相へ近づいていく。
――ただし、解くためではない。自分が掛けられるためだ。
世慣れた牧師と、借金まみれの戦士を道連れに、三人は人の絶えた東へ。
なぜ欲しいのか、ですって? 淑女に理由を訊くものじゃないわ。
登録日 2026.10.14
誰もが大地から力を汲み上げる世界に、少年は落ちた。
ここでは彼だけが、火花ひとつ起こせない。そのかわり、彼だけが落ちなかった。地に繋がれていない者は、地に繋ぎ止められてもいない——ただ、それだけのことだった。
「奪われた石を取り返せば、元の世界へ帰してやろう」
王の約束に全体重をかけて、少年は敵国の空を飛ぶ。村の数を数え、道を測り、父がくれた腕時計で行軍の日数を割る。早く、正確に。それが帰る日を一日でも手前に引き寄せると信じて。
やがて、その数字が戦を始めた。
焼け落ちる村。指先に豆粒ほどの灯りしか点せない少女。そして、帰り道の本当の意味——門が開くとき、彼の後ろから通るものがある。
根が下りるにつれ、少年は空を失っていく。この世界に自分の場所ができるとは、そういうことだった。
帰らないことと、忘れることは、違う。
どこにも合わない針が、遠い世界の時を刻み続ける。
登録日 2026.10.14
昼寝と酒と、できればモテたい。欲望に忠実すぎる闇司祭レオニスが、叙階の鏡を白く燃やした欲――それは、世界中のみんなが自分の欲しい幸せを手に入れること。罪状帳を手にした堅物の神殿騎士ミレイアに見張られながら、彼は欲しいものをすべて奪う《黒狼》ガルドの楽園へ乗りこむ。飢えも怯えもないその楽園の足もとには、鎖があった。「俺は、我慢を奪う。お前は、不幸を奪う。――俺と何が違う?」
登録日 2026.10.14
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