然々

然々

6
現代文学 完結 短編
十年ぶりに故郷へ帰ってきた二十八歳の鷺沢朔也。 無人駅で彼を待っていたのは、幼なじみの榧森千景だった。 八月十六日───送り盆の夕暮れ。 千景に誘われ、翌日取り壊されるという彼女の祖母の屋敷を訪れた朔也は、幼い頃に二人で遊んだ「螺鈿回廊」へ足を踏み入れる。 黒漆の壁に、虹色の貝で描かれた花、鳥、魚、蝶。 そして、その最奥には、一匹だけ存在する奇妙な〈螺鈿の蝉〉があった。 しかし、記憶の中よりも大きくなったその蝉は、よく見ると無数の小さな蝉が重なってできていた。 千景は言う。 「人が死ぬたび、増えるの」 それは、故郷を離れたまま亡くなり、帰り道を忘れてしまった死者を、お盆のあいだだけ故郷へ導くための蝉だった。 やがて朔也は、自分がなぜこの町へ帰ってきたのかを思い出していく。 十年前に言えなかった想い。 帰ると約束したまま過ぎてしまった歳月。 そして、夏の終わりとともに訪れる、本当の別れ。 「夏って、いつ終わると思う?」 送り火が揺れる夜。 二人がようやく見つけた答えの先で、 帰ったはずの者の声が、もう一度だけ聞こえてくる。 ───それでも決して、振り返ってはいけない。
24h.ポイント 263pt
小説 5,884 位 / 229,358件 現代文学 18 位 / 9,633件
文字数 8,320 最終更新日 2026.08.17 登録日 2026.08.17
青春 完結 短編
高校二年の春、写真部の宮代のクラスに、谷澤梢という美しい転校生がやってくる。整いすぎた顔、わずかに遅れて作られる笑顔───なぜか彼女には、人を本能的に遠ざける奇妙な違和感があった。 「ちゃんとできてるか、見てほしい」 そう頼まれ、宮代は放課後の彼女を撮り始める。写真を重ねるうち、二人は少しずつ距離を縮めていく。しかし宮代は気づいてしまう。谷澤の顔が、日を追うごとにクラスメイトたちへ似ていっていることに。 そして辿り着いた三年前の事故記事には、すでに死亡したはずの少女──「谷澤梢」の名前が記されていた。 彼女はいったい誰なのか。 人間らしさとは、いったい誰が決めるのか。 一人の少女の「普通になりたい」という願いと、少年の淡い恋を描いた、青春と恐怖の境界が静かに溶けていく学園ホラー。
24h.ポイント 766pt
小説 1,975 位 / 229,358件 青春 24 位 / 7,923件
文字数 12,261 最終更新日 2026.08.16 登録日 2026.08.16
ミステリー 完結 短編
親友・雁金紬が失踪した翌日から、彼女のBeRealは毎日、通知から二分以内に更新され続ける。主人公・硯川澄乃は、それを紬が生きている証拠だと信じていた。 しかし投稿されるのは、コンクリート壁や道路、公園など、紬の姿がない写真ばかり。やがてその撮影場所が、澄乃の学校、自宅近くへと少しずつ近づいていることに気づく。 そして澄乃は知る。紬のアカウントから投稿している何者かの目的は、紬の生存を偽装することではない。投稿することで、澄乃のBeReal──彼女の「今」を覗き見ることだった。 日常を切り取るはずのSNSが、知らない誰かに現在地を知らせる窓へと変わっていく。 そして最後に判明する。 澄乃が親友の生存証明だと信じて見続けていたものは───。
24h.ポイント 42pt
小説 19,447 位 / 229,358件 ミステリー 135 位 / 5,391件
文字数 9,712 最終更新日 2026.08.14 登録日 2026.08.14
恋愛 完結 短編
高校二年生の雨宮朔には、昔から壁の染みや雲、木目などが人の顔に見える癖があった。誰にも話さずにいたその感覚を、隣の席の水城依澄だけが同じように持っていた。 雨の日の窓に浮かんだ「猫の顔」をきっかけに、二人は校内や帰り道で“顔に見えるもの”を探す遊びを始める。何気ない写真を送り合い、放課後を共に過ごすうち、朔は依澄に惹かれていく。そしていつしか、朔には世界のあちこちが依澄の顔に、依澄には朔の顔に見えるようになっていた。 恋をすれば、世界に好きな人が増えるのかもしれない。 そう思っていた二人だったが、撮りためた写真には奇妙な共通点があった。そこに見える顔はすべて同じ方向を向き、やがて笑顔から泣き顔へと変わっていく。 さらに依澄は、幼い頃に姉を事故で亡くしたあとにも、家中の模様に姉の顔を見ていたことを明かす。調べた朔は、曖昧な模様や形の中に意味のあるものを認識してしまう「パレイドリア」という現象を知る。 ただの脳の錯覚なら、なぜ二人は同じ場所に顔を見るのか。 なぜ、そこに浮かぶ口の形まで同じなのか。 写真を並べた二人には、それが「逃げて」という言葉に見え始める。 やがて依澄が姿を消す。 朔が街中に浮かぶ無数の“依澄の顔”の視線を追って辿り着いたのは、かつて彼女の姉が命を落とした古い歩道橋だった。 そこで依澄は、姉が死ぬ前日に「大嫌い」と言ってしまったことを告白する。自分は最後まで姉に嫌われたままだったのではないか。その罪悪感を抱え続けていたのだ。 しかし朔が写真を見直すと、「逃げて」と読んでいた口の形は、別の見方をすれば「好き」とも読めた。 それが姉からの言葉なのか。 二人がそう思いたいだけなのか。 あるいは、ただの傷や染みに過ぎないのか。 答えは出ない。 それでも朔は、自分が依澄を好きであることだけは、自分で選んだ意味だと伝える。 世界に最初から意味があるのではない。 人はきっと、無数の偶然や曖昧なものの中から、自分にとって大切な意味を見つけて生きていく。 雨粒の中に猫を見つけたあの日から始まった、少年と少女の恋と、喪失と見間違いをめぐる青春恋愛ホラー。
24h.ポイント 7pt
小説 40,727 位 / 229,358件 恋愛 17,436 位 / 66,418件
文字数 7,264 最終更新日 2026.08.13 登録日 2026.08.13
青春 完結 短編
高校二年の夏。数学研究部の久遠遼介は、世の中には必ず答えがあり、正しく考えれば正しい結論に辿り着けると信じていた。 そんな遼介の前に現れたのが、転校生の逆瀬未明だった。 数学は苦手なくせに「パラドックスが好き」と言う未明は、放課後の数学準備室で、遼介に奇妙な問いを投げかける。 「未来の自分に、その選択をすれば必ず後悔すると言われたら?」 「振られると分かっていても、好きな人に告白する?」 「人を好きだということは、証明できる?」 嘘つきのパラドックス、祖父殺しのパラドックス、テセウスの船、証明できない命題――。 答えのない問いを交わすうち、二人の距離は少しずつ縮まっていく。 しかし夏休みを前に、未明は告げる。 八月二十三日、この町を離れ、遠く福岡へ転校するのだと。 「どうせ終わるなら、始めない方がいい」 そう考える遼介と、 「結果が同じでも、そこまでの道は同じじゃない」 と言う未明。 残された夏の中で、二人は初めて、自分たち自身を答えのない問題として見つめることになる。 そして別れの日を目前に、未明は遼介へ最後の問題を出す。 ───絶対に証明できないことを、証明してください。 永遠も、未来も、誰かを好きでいることも証明できない。 それでも、証明できないからといって、存在しないわけではない。 答えのない問題を嫌っていた少年が、ひとりの少女との夏を通して、「答えがなくても選ぶ」ということを知っていく。 数学とパラドックスをモチーフに、恋、別れ、記憶、そして不確かな未来を描く青春恋愛短編。
24h.ポイント 28pt
小説 24,395 位 / 229,358件 青春 237 位 / 7,923件
文字数 6,537 最終更新日 2026.08.11 登録日 2026.08.11
ホラー 連載中 長編
御厩透嗣(みまやとうじ)が目を覚ましたのは、九州北部の山中に建つ私立精神療養施設――胎生心理研究院だった。 自分の名前は分かる。 だが、年齢も、職業も、家族の顔も思い出せない。 記憶の中に残っているのは、たった一人の女だけだった。 廻谷まひる(めぐりやまひる)。 夏の海辺で笑ったこと。 古い映画館で手を握ったこと。 二人きりで結婚を約束したこと。 そして婚礼の夜、真昼の細い首を、自分の両手で絞めたこと。 透嗣を担当する精神科医・薬師鼎(やくしかなえ)は、まひるという女性は存在しないと告げる。警察にも戸籍にも、彼女の記録はない。透嗣が抱いている恋愛と殺人の記憶は、長期昏睡と精神的外傷によって作り出された妄想だという。 しかし研究院の夜には、まひるの声がする。 閉ざされた窓の外から、壁の内側から、使われていない院内電話から。 「早く思い出して。 あなたが私を殺す前に」 病棟で出会った少女・終夜水琴(しゅうやみこと)は、自らを「まひるになり損ねた九番目」と名乗る。 水琴は透嗣を、ある日は兄と呼び、ある日は夫と呼び、別の日には父親と呼ぶ。そして透嗣の顔を見つめるたび、懐かしそうに言う。 「また若くなったのね」 研究院の旧病棟には、明治末期から現代までに撮影された患者写真が残されていた。 時代も名前も異なる男たち。 だが、全員が透嗣と同じ顔をしている。 その男たちの隣には、必ず一人の女が写っていた。 廻谷まひると同じ顔をした女。 彼らがたどり着いたのは、透嗣の祖父とされる精神医学者・御厩胎一郎(みまやたいいちろう)が提唱した、異様な学説だった。 胎恋遺伝説。 恋愛感情は、個人の経験から生まれるものではない。強烈な愛情や執着、嫉妬、殺意は生殖細胞に刻まれ、胎児へ受け継がれる。 特定の物語、匂い、音、顔を、母体を通じて胎児へ与え続ければ、生まれた子供に「特定の人間を愛する心」を作ることができる。 透嗣とまひるは運命の恋人なのではない。 何世代にもわたる実験によって、互いを愛するよう作られた男女なのかもしれない。 やがて透嗣は、研究院地下に保存された婚礼事件の記録を発見する。 過去百年の間に、何人もの花嫁が婚礼の前後に殺害されていた。 一人目からは髪。 二人目からは歯。 三人目からは舌。 その後も、眼球、皮膚、声帯、子宮が失われている。 それらは猟奇殺人の戦利品ではなかった。 歴代の花嫁たちから身体と記憶を集め、一人の完全な「廻谷まひる」を作るための部品だった。 二人の愛は、どこまでが実験なのか。 植え付けられた愛は、偽物なのか。 誰かに作られた感情であっても、失う苦しみまで偽物と呼べるのか───。
24h.ポイント 85pt
小説 13,253 位 / 229,358件 ホラー 141 位 / 8,560件
文字数 32,914 最終更新日 2026.08.11 登録日 2026.08.11
6