道を極める

“帽子一筋30年”唯一無二を届けるデザイナー

2017.10.17 公式 道を極める 第30回 glico(天野裕子)さん

イヴ・サン=ローランをはじめとする、海外ハイブランドの帽子制作に20年以上携わってきた帽子デザイナー、glicoさん。その経験を活かした東京・麻布十番の路面店「WAGANSE」には、glicoさんのデザインする帽子を求めて、数多くの帽子愛好家が訪れています。「大好きな帽子を通じて人々を笑顔にしたい」という想いを込めた、一人ひとりと向き合う帽子づくり。変化の激しいファッション業界で一貫して抱き続けた「帽子へのひたむきな愛」。その軌跡を、今なお続く挑戦の現場から伺ってきました。

(インタビュー・文/沖中幸太郎

※本連載収録の書籍『“好き”を仕事に変える』発売中

一人ひとりと真剣に向き合う帽子屋「WAGANSE」

glico(天野裕子)

 

帽子屋WAGANSE代表取締役
デザイナー

 

愛知県名古屋市出身。幼少期、母と姉よりファッションの洗礼を受け、帽子デザイナーの道を志す。東京・代々木にある帽子専門の学校「サロン・ド・シャポー学院」で学んだ後、帽子メーカーでのデザイン、プレス畑を経て独立。「アトリエglico」を立ち上げ、約20年間、日本におけるイヴ・サン=ローランのプレタポルテ部門のデザイナーとして制作に携わる。その後、自身の帽子ブランド「WAGANSE」を設立。2016年、初の路面店を麻布十番店にオープン。【公式サイト】。

――(「WAGANSE」にて)色とりどり、形もさまざまな帽子が並べられています。

glico氏:お店にいらっしゃるお客さまは、年齢も職業もさまざまですが、皆さま帽子を愛する方々ばかりです。そうした方々の多様なご要望にお応えするべく、フォーマルな結婚式のウェディングハット、パーティーのヘッドドレスやコサージュから、中折れハットやベレー帽をはじめとするカジュアル帽子まで、5mm単位でサイズオーダーが可能な、幅広いジャンルの帽子を取り揃えています。

また、フルオーダーの場合、ご希望の色味や合わせる服装、帽子を被るシーン、また普段のお好みまで、直接お話を伺っています。そうしたご要望を元に世界でひとつだけの帽子をデザインし、アトリエ内にて、ひと針ひと針ハンドメイドでお作りしているんです。

――glicoさんの「帽子愛」に溢れた空間になっています。

glico氏:もともと、このお店を開く前は、海外ブランドの帽子デザイナーとして20年、その後、ウェブ上でレディース向け帽子通販ブランドという形で、個人向けの帽子づくりを10年ほど手がけていました。お客さま一人ひとりの帽子をお作りするうちに、「本当に似合うものをお届けするには、やはり対面でご要望を伺い、直接被っていただきたい」「もっとお客さまの要望に寄り添う形で帽子を届けたい」。そんな想いが募って、昨年、ここ麻布十番の地に初の個人向けの路面店を開きました。

このお店は大通りから一本離れた静かな場所にあるのですが、おかげさまで開店以来、たくさんのお客さまがご来店くださっています。振り返ると、幼い頃の“憧れ”から火がつき、その想いが消えないまま、引っ張られるようにしてここまで進んできたんです。その途中には、帽子づくりの場を一瞬にして失うなど、デザイナー人生を諦めるような出来事もありました。けれども今は、多くのご縁に巡り会い、助けられながら、こうして一対一で向き合える帽子づくりができていることに、帽子デザイナーとして、このうえない喜びと幸せを感じています。

「帽子愛」の原点、華やかな世界への憧れ

glico氏:帽子を含むファッション全体の世界への最初の扉は、母と姉が開いてくれました。年の離れた姉は、私が小さい頃にはすでに子ども服のデザイナーとして働いていたのですが、よく私にいろいろな服を着させてくれていたのです。周りとはひと味違ったファッションを見立ててくれる姉は私の自慢で、自然とデザイナーという職業が、私にとって憧れの対象になっていきましたね。

また、私の出身は名古屋なのですが、当時、洋書はまだ手に入りにくかった時代に、姉が『VOGUE』や『ELLE』などのファッション雑誌を、会社から持って帰ってきてくれていました。自分よりずっと歳上のオトナの雑誌をめくっては、その華やかな世界に想いを巡らせていましたね。自分も少しでも近づきたいと精一杯、だいぶ背伸びしておしゃれをしていたように思います。母親も、この業界にはいなかったものの、やはりファッションが好きで、よく私を街の帽子屋さんに連れて行ってくれていたんです。そうした中で、自然と、ファッションの世界全体への憧れが強くなっていきました。

――華やかな世界への“憧れ”が出発点だった。

glico氏:そんな輝いて見えたファッションの世界の中で、特に「帽子のデザイナー」を意識するようになったのは、おしゃれに余念がなかった高校生の時、偶然入った帽子屋さんでの出来事がきっかけでした。お店の帽子をあまりに熱心に眺めていたからでしょうか、そこの方から「そんなに好きだったら、うちのお教室に来て作ってみない?」と、お店が開いている帽子教室に誘われたんです。

この時、人生ではじめて「自分で帽子をつくる」という体験をしました(70年代ファッションの中でも“フォークロア”が大好きだった私は、花柄をあしらった麦わら帽子を作りました)。それまで帽子は「買う」ものでしたが、教室で「作る」ことができたという達成感、実際にできあがった帽子を手にとった時の、なんとも言えない“創作の喜び”のようなものが、心の内からこみ上げてきたんです。

「自分の好きだと思うものを作ることができる」。憧れだった世界が、急に現実味を帯びてきたようでした。ちょうど高校生活も後半に差し掛かっていた頃で、進路選択の時期でもあり、「東京に出て帽子の学校に通いたい。帽子のデザイナーになりたい!」と強く思うようになっていきましたね。

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アルファポリスビジネス編集部
アルファポリスビジネス編集部

アルファポリスビジネス編集部は厳選した人物にインタビュー取材を行うもので、日本や世界に大きく影響を与える「道」を追求する人物をクローズアップし、その人物の現在だけでなく、過去も未来の展望もインタビュー形式で解き明かしていく主旨である。編集部独自の人選で行うインタビュー企画は、多くの人が知っている人物から、あまり知られることはなくとも1つの「道」で活躍する人物だけをピックアップし、その人物の本当の素晴らしさや面白さを紐解いていく。

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