道を極める

「道を極める」スペシャル対談
大來尚順(僧侶)× 立川志の春(落語家)
“古典”を土俵に挑戦する二人(前編)

2017.12.26 公式 道を極める 特別対談

今を認める、「諦(たい)」の力
失敗を重ねて広げる挑戦の裾野

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過去の苦い経験を振り返る二人。にもかかわらず、二人には悲壮感や苦しみといったものはなく、むしろ楽しんでいるようにすら思える。どのようにして苦い経験を糧にしてきたのか。それぞれ道を進み続けていくうえで必要な「諦(たい)」の力、そして失敗することの大切さとは。
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志の春氏:取材や講演では必ず、司会の方から仰々しく経歴を紹介されるのですが、そういう時、実際に向こうにワンサカいた本当の秀才でも天才でもない自分は、恥ずかしいような申し訳ないような気持ちでいっぱいになってしまって……。実はそうしたプロフィールが、時にお客さんとのある種の取っ付きにくさを生むような気さえしているのですが、大來さんはそういうことありませんか。こう、経歴が邪魔だなって思う瞬間。

大來氏:そうですね、あくまで仏の教えを広めるためのツールとして活用している“英語”だけにフォーカスされてしまうのは、正直困ったなと思うこともありました。ただ、それを含めての自分だと割り切れるように今はなりましたね。それでことがスムーズに運ぶこともままありますし。

志の春氏:実はぼく、喜怒哀楽でいうところの“怒”の部分が、原動力になっているところが多分にあって、それは父の仕事の都合ではじめてアメリカに渡った小学三年生の時、――なぜかクラスメートの手袋を盗んだ犯人として疑われ、それを英語が話せないばかりに無実を主張できなかった悔しさ――に遡るんです。「なにくそ、今に見てろよ」と。どうもそれが自分の原動力になってしまっている気がするんです。一方で、怒りを原動力にするのは、なんというか、人間として果たしてそれでいいものなのかなって。今日は人として正しく導いてくださる僧侶である、大來さんのご意見をぜひ聴かせてください!(笑)。

大來氏:そうした喜怒哀楽は人間の自然な感情で、そこから発せられる欲をどれも否定する必要はないと思います。また、そもそも密接な関係のうえで喜怒哀楽は存在していて、どれかひとつの感情を切り取って善し悪しを判断できるものではありませんし。私は、こうした相談を受ける時、よく、坂道の話をするんです。「この地球で上り坂と下り坂、どちらが多いでしょうか」と。

志の春氏:どっちが多いか……。

大來氏:正解は「同じ数」なんです。平坦が基準にあるとしたら登っただけ、下りが存在するので。人間の心の内にある「喜怒哀楽」も坂道のように、それぞれが互いに影響し合って存在するものなんです。過去の自分も今の自分もどちらも自分。変化を認めること。普段、「諦」という字は、よく「あきらめる」と読んで、英語のGive upの意味で使われますが、仏教では「たい」と読み、永遠に変わらない真実、事実を表します。それは「この世において物事は思い通りにならない」ことを指すんです。それが見事に平坦であれば、それは悟りをひらいた人ですよ。

志の春氏:大師匠の立川談志は落語を「業(ごう)の肯定」と言いましたが、そうした人間の喜怒哀楽のうつろいを否定するのではなく、肯定し、時に笑いに変えていく。

大來氏:やっぱり落語も仏教も、業の肯定なんです。この「業」もよく悪い意味で捉えられがちですが、実は、自分が今から何かを起こそうとする行為のことを指しますしね。まずは「自分の今」を認めること、挑戦はそこからはじまるのではないでしょうか。現在は、過去の連続でしかないのですから。その途中でした経験も、ムダなものは何一つないと思います。

志の春氏:失敗したって致命傷となるものは、意外とない。むしろ失敗はどんどんした方がいいんじゃないかって。少なくとも、躊躇(ちゅうちょ)して後悔するくらいなら、さっさとやってしまったほうがいい。だからぼくも、いいと思ったからすぐに行動しましたし、それで今はとても幸せですから。

大來氏:そうして失敗を重ねて裾野を広げていった方が土台は安定しますよね。失敗を恐れて慎重に一歩一歩積み重ねれば、端から見れば確かに高くなったように見えるかもしれません。でもそれだと、積み木ゲームのようにひょろりとした不安定なものになってしまいます。けれど、何度も失敗して壊していけば、そのたびに失敗でできた山の裾野は広がっていく……。そうやって自分なりの「答え」をつくっていく。

志の春氏:ぼくは、その「裾野を広げる」一環として、海外での英語落語や、子どもたちのへの落語をやっています。特に英語で落語をやることについては、こだわりというか、それこそ自分にとっては挑戦の意味合いもあって。

これについては「英語で落語のよさなんて伝わるわけがない」と言われることもあります。けれど先日も、JICA(国際協力機構)さんのお招きで、アフリカの方々に英語落語を聞いてもらったら、みんな体を揺らして喜んでくれましたから。もちろんその反応をもって、落語の真髄のすべてを伝えきれたとは思いませんが、日本で生まれた落語が持つ、ひとつの世界的な可能性を感じているんです。この話は長くなりそうなので、後編に繋ぎましょうか(笑)。

志の春氏の口から飛び出した「英語落語」に対する想い。日本で生まれた芸能・落語が持つ世界的な可能性とは。落語と仏教。英語で発信することの意味。二人の挑戦への想いが詰った後編は、来年1月16日(火)公開です。

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アルファポリスビジネス編集部は厳選した人物にインタビュー取材を行うもので、日本や世界に大きく影響を与える「道」を追求する人物をクローズアップし、その人物の現在だけでなく、過去も未来の展望もインタビュー形式で解き明かしていく主旨である。編集部独自の人選で行うインタビュー企画は、多くの人が知っている人物から、あまり知られることはなくとも1つの「道」で活躍する人物だけをピックアップし、その人物の本当の素晴らしさや面白さを紐解いていく。

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