リーダーシップの身につけ方

リーダーに求められるものとは-9

2016.05.09 公式 リーダーシップの身につけ方 第15回

挫折の経験がリーダーの質を高める

23. 人の痛みを知る人が、優れたリーダーになる

人と接するときに大切なのは、相手の立場に立って考えるということです。私は、挫折を経験し、苦しい思いをした人こそ、素晴らしいリーダーになれるのだと思います。それは苦しんでいる人、弱い立場の人の気持ちを理解できるからです。そして、こういう人は、苦しんでいるメンバーの悩みを解決することによってリーダーとしての信頼を獲得し、チームとしての力をさらに向上させることができるのです。

私にもたくさんの挫折経験があります。例えば、大学の野球部でのこと。
ピッチャーとして出番がない中、あるとき20対0で大勝ちしている試合がありました。普通なら、ここは控えの選手の出番です。苦しい練習を続けている控え選手にしてみれば、1イニングでも1打席でも出場できることが大きな喜びになり、励みになります。

ところが、監督は控えの選手を誰ひとり出しませんでした。チャンスを与えられなかった私はひどく失望し、練習へのモチベーションが大きく下がったことを記憶しています。
ですからソフトボールやサッカーなどのチームスポーツをするときは、人一倍控え選手が出場できるかどうか、私はとても気になります。
リーダーには、華やかな経歴を持った人が少なくありません。しかし、その裏側で、人に言えない苦労や挫折を味わったことが必ずあるはずです。
そのとき、自分が感じた悔しさ、胸の痛みを思い起こせば、メンバーの痛みに目を向けることができます。苦しんでいるメンバーに寄り添い、そっと手を貸すことができる人が、本当に優れたリーダーになれるのだと思います。

リーダーは仕事で「火花が散る瞬間」を考える

24. 「火花が散る瞬間」に意識を集中する

日産自動車に勤務していた時代、尊敬する先輩と、ある車体工場に同行したときのことです。

「この工場で付加価値を生んでいるのは、ロボットが車体を溶接する瞬間に散る火花だ。会社が価値を生むためには何が大切な瞬間なのか、そういう目で製造現場を見なさい」

先輩のこの言葉は、その後さまざまな会社で仕事をするときに、常に私の頭の中にありました。ザ・ボディショップではじめて小売業に携わったときは、お買い上げいただいたお客さまを笑顔で送り出す瞬間に「火花」をイメージしました。 スターバックスでは、くつろぎを求めていらしたお客さまに、最高のコーヒーを、自信を持って笑顔でお渡しするときが「火花」の瞬間だと思いました。 私は全パートナーにこうお願いしました。

「あなたたちの最高の笑顔とともに、自信をもって入れられた最高においしいコーヒーが、素敵な音楽とスポットライトに照らされながらカウンターでお客さまに渡される。その瞬間に意識を集中させてください」

火花が散る瞬間は、企業の存在意義、つまりミッションと深い関わりを持っています。日々の仕事の中で、ミッションの実現につながる行動が、火花が散る仕事です。リーダーとして自分のチームに火花が散る瞬間は何かを考え、それをメンバーに伝えることはとても大切です。

サッカーのゴールの瞬間には、間違いなく火花が散ります。しかし、ひとつのシュートの前には、パスでボールを運ぶチームメイト、チームを支えるスタッフ、ファンなどさまざまな人が参加しています。すべてのメンバーは、火花を散らすゲームの参加者なのです。

25. 自分の思いを自分の言葉で伝える

ある日、はじめて社長になったアトラスで、就任演説をすることになりました。私はとても張り切って、ビジネススクールで学んだ知識や言葉を並べ立てました。「これからは企業価値経営だ」「キャッシュフロー経営が重要だ」……。 聞いている100人ほどの社員からは、まったく反応がありません。懸命に話し続けましたが、雰囲気はしらけたままでした。

カッコいい経営用語を並べたてても、社員の心には届きませんでした。そんなことよりも、新しい社長がどうやってこの会社を建て直すつもりなのか。その後にどのような明るい未来が待っているのか。社員たちはそれを聞きたかったのだと思います。

次回は、私がザ・ボディショップの社長就任演説での、「社長就任挨拶 七つのお願い」についてお話します。

(次回に続く)

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プロフィール

岩田松雄
岩田松雄

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。同社にて幅広い業務を経験後、米国UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラス(ゲーム会社)の代表取締役として、三期連続赤字の企業を再建。さらに株式会社タカラ常務取締役を経て株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)の代表取締役に就任。店舗数を一気に増加させ、売上を67億円から約140億円に拡大。そしてスターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとして「100年後も光輝くブランド」というコンセプトを掲げ、業績を急回復させ再成長させる。これらの功績が認められ、UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人の中から「100 Inspirational Alumni」
('92年卒業生ではただ一人)に選出される。
現在は株式会社リーダーシップ・コンサルティングの代表取締役CEOであり、次世代のリーダー育成に注力する傍らで、立教大学の特任教授として教鞭もとっている。主に「リーダーシップ」に関するテーマにてこれまで著書は30万部を超える『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』はじめ多数。「リーダーシップ」に関する日本の第一人者として日本のビジネス界を牽引する人物である。
HP: http://leadership.jpn.com
Facebook: https://www.facebook.com/Leadership.jpn?pnref=lhc

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